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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第六章
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襲撃者

 

「はあ? おめえ何言ってんだ? それはこっちの台詞だぜ!」


 三人の内の一人、大男の怒声を機に男たちは一気に襲いかかってくる。


 口上を述べている間にも、ユルグは相対する敵を分析していた。


 一人は遠距離攻撃用のクロスボウ、加えて腰に剣を帯刀している。

 二人目は腕っ節が自慢なのだろう。熊の頭蓋さえも叩き割れそうな重厚な斧を構えて迫ってきている。

 最後に、先ほど声を上げた大男。こいつは背にユルグのロングソードよりも長く厚い大剣を背負っている。


 総じて脳筋な編成に内心呆れつつも、ユルグは襲撃者を打ち砕く算段を刹那の間に構築する。


 まず一番警戒しなければならないのは、あのクロスボウ持ちだ。おそらく、初手でボルトを放ってくるはず。

 距離もあるし予め知れている行動なら避けるのは容易いが、ユルグの背後には垂布で仕切られただけの荷馬車の入り口がある。馬鹿正直に避けてしまえば、中にいるミアに被害が及ぶかも知れない。


 ここは安全第一で、障壁を張る。

 ユルグの真正面に〈プロテクション〉を張って、遠距離からの攻撃を防ぐ。本調子ではないため、多少のラグはあるが攻撃が届く前には魔法は発動するはずだ。そこから三秒効果は持続する。


 予想通り、敵は初手でクロスボウを射てきた。しかし相手の戦略を裏切り、その攻撃は透明な壁によって阻まれる。


 これで約十秒、遠距離攻撃は封じられる。

 ユルグとクロスボウ持ちの敵との距離はまだ十分な距離を保っている。おそらく近付いてこない限り、次の一手は先ほどと同様に遠距離からの攻撃になるはずだ。前衛が二人いる時点で、わざわざ前に出てくる必要は無い。


 ボルトの装填に十秒。


 この間に、斧持ちを排除する。

 次いで、クロスボウ持ちへと接近して近接へと持ち込む。

 野放しになる大剣持ちの大男には、()()()をしながら最後に相手取る。


「なっ、――〈プロテクション〉!? あいつ、神官だってのか?」

「ハッ! 後衛職の奴が剣なんて持ってイキってんじゃねえよ!」


 〈プロテクション〉を発動してすぐに、ユルグはクロスボウの射線から外れるように前へと出た。

 あやまたず、斧持ちは我先にとユルグへと向かってくる。


 敵と剣を交える前に、左手を雑嚢の中に忍ばせる。手中に握ったのは小ぶりの魔鉱石だ。魔法を込めてない空の魔鉱石を、斧持ちの後ろにいる大男へと投げつける。

 狙いは顔付近。

 ユルグの投石を、大男は涼しい顔をして大剣で弾いた。


 その事を確認してから、肉薄していた斧持ちへと意識を向ける。


 相手の初動は、予想通り。動きが読みやすい大振りの振り下ろしだ。

 あの重量がある斧では、横薙ぎでの攻撃よりは勢いを付けた振り下ろしの方が容易い。相手はユルグを神官だと思って侮っている。その驕りが単調な攻撃へと誘っているのだ。


 隙だらけの攻撃を半身を捻って躱すと、斧の側面へ向けて刀身を思い切り打ち付けた。

 そのまま斧の背面、刃先の向いていない裏側に刀身を押しつけて地面へと斧の先端を食い込ませると、思い切り踏みつけて固定する。


 ――その間、四秒。


 斧と同様に、ユルグの剣も刃先が下を向いている。左手で腰に差していた短刀を抜くと、呆気に取られて固まっていた男の喉元に突き刺した。


 間近で吹き出した鮮血が、頬を濡らしていく。


「――ッ、テメェ!」


 それを拭う暇も無く握っていた短刀から手を離すと、ユルグはクロスボウ持ちへと駆けていく。


 しかし、それを邪魔するかのように大剣の一撃が空を薙いだ。

 ユルグの胴を裂こうと振われたそれは――しかし、動きとしては恐ろしく緩慢であった。

 意図も容易く避けると、振われた大剣によって男の骸が宙へと舞う。


 それを目端で捉えながら、ユルグの足はボルトを装填しているであろうクロスボウ持ちへと向かっていた。

 肉薄する数秒の間に再度、大男へと空の魔鉱石を投げつける。先ほどと同じく羽虫の如く払われてしまった。


「さっきから石ころばっか投げてきやがって! なめてんのか!?」


 背後から聞こえてくる怒髪天を衝くような怒号に構うことなく、後衛の男に肉薄したユルグは相手が剣を抜く前に袈裟懸けに斬りつける。


 血飛沫を上げて倒れ伏した所にすかさず剣を逆手に持つと、刃先を喉元に突き刺して息の根を止めた。


 血のついた頬を手の甲で拭って、振り返ると威勢良く吠えていた男は呆然と目を見開いていた。

 僅か数秒の間に、仲間が二人やられたのだ。呆気に取られるのも無理はない。

 しかし、すぐさま平静を取り戻し、仲間の死体の傍に佇むユルグへと敵意を剥き出しにする。


「――ッ、ぶっ殺してやるよォ!!」


 怒りを露わにして突っ込んでくる男に、ユルグは一歩もその場を動かなかった。


 動く必要がないのだ。いや、避ける必要がないと言うべきか。

 代わりに左手に握り込んだ魔鉱石を、今までと同様に投げつける。


 ユルグの手から離れて投擲されたそれは淡く輝きを放っていた。




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