道行きは険しい
ユルグ一行が帝都を出たのは、昼を少し過ぎた時間帯であった。
頭上に輝く太陽に瞳を眇めながら、木々が茂る街道を行く。
「ねえ、本当に良いの? 私は全然構わないんだけど」
「さっきも言っただろ。俺とフィノは慣れてる」
「疲れたら言ってよ? 代わるからね」
荷馬車の後方。垂布の隙間から顔を出したミアが、ユルグを心配して声を掛けてきた。
当初の予定通り、ユルグとフィノは荷台に乗らず、フィノは前方。ユルグは後方を着いていっている。
水と食料、それに各々の荷物に加えて全員を乗せるスペースも、それを運べる設備だって揃ってはいないのだ。これが最善で、他の皆もそれに納得してくれたがやはりミアは心配なのだろう。たまにこうして気を配ってくれている。
ミアはルトナークからアルディアまで、アリアンネと旅をしてきたと言っていた。そんなに柔ではないと言われたが、ユルグとしても無理はさせたくない。
アリアンネに関してはティナが猛反対したおかげで、ミアとともに荷台に押し込められている。本人は不服なようだが、有無を言わさないティナの様子を見てはユルグもそれ以上は言えなかった。
「この様子では、天気も崩れる心配はないでしょう。問題は夕刻までにどれだけ進めるかです。それ如何では、次の街のヴァレンまでにかかる日程をある程度把握出来るので、ペース配分も容易でしょうね」
前方から御者をしているティナの声が聞こえてくる。
帝都から出ているヴァレンまでの相乗り馬車で向かって約五日の日程だ。このオンボロ荷馬車と馬ではそれ以上掛かることは明白である。
長旅になることは分かりきっているし、無理をしないように進まなければ。
それから三十分ほど経った頃だろうか。いきなり荷馬車が急停止した。
「――わっ、なに!?」
それに驚いて、ミアが垂布の隙間から顔をだす。ユルグも前方を確認しようと荷馬車の側面に移動しようとした。
けれどミアの声がそれを留める。
「ゆ、ユルグ……あれ」
ミアは真正面を指差していた。荷馬車の後方、今まで辿ってきた街道である。
呼び声に釣られて目を向けると、そこには三人の人影が見えた。各々、手には剣やら斧などの武器を携え、物々しくにじり寄ってくる。
この状況を見れば否が応でも何が起こったか予測はつく。
「何の用だ」
背負っている剣を抜いて、目の前の男たちに問いかける。
おそらく、荷馬車の前方でも同じ状況に見舞われているだろう。助けに行きたいがまずはこいつらを排除してからだ。
「結構な歓迎の仕方ですね」
外での喧騒を聞きつけて、ミアの隣からアリアンネが顔を出してきた。
「こいつらは俺一人で対処する。アリアンネは前方の警護を頼む」
「分かりました。遠慮無くぶちのめしてあげます!」
「ぶ、ぶちのめす!?」
なぜか活き活きと語るアリアンネに、ミアは困惑した様子である。これについてはユルグも同意見だ。なんというか、若干この状況を楽しんでいるようにも感じる。
「はっ……言ってくれるじゃねえか!」
対面している野盗は随分と威勢の良い台詞を吐く。
どうやらあちらもぶちのめす気満々らしい。
「……ユルグ、あの人たち見覚えあるかも」
「知っているのか?」
「う、うん。荷馬車を調達に行った奴隷商店で用心棒をしていた人が混じってる」
「……なるほどな」
ということは、この襲撃は意図的なもの。仕組まれていたということか。
だからといって、ユルグがする事は変わらない。
「ミアは中に引っ込んでいてくれ。終わるまで顔を出すなよ」
「う、うん……気をつけてね」
ミアの声を背に、ユルグは改めて野盗もとい襲撃者たちを睨めつける。
「お前ら、俺の邪魔をして生きて帰れると思うなよ」




