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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第四章
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はじめての

 

 冒険者ギルドというものは、どの街でも然程遜色はないらしい。


 フィノと二人、連れだってギルドの扉を潜ると、屋内は冒険者の人波が出来ていた。ざっと二十人はいる。

 流石アルディア帝国と言うところか。国土も広いなら人も多い。そうなればギルドの依頼も増えて冒険者もそれに倣って大挙するというわけだ。


「すごいひとだね」

「俺もこの人数は初めて目にするな」


 ギルド内に設けられている待合所は、冒険者パーティの一団で既に満員だ。

 この人数が毎日何かしらの討伐依頼を受けているにもかかわらず、魔物の数は増加の一途を辿っているらしい。

 ユルグも勇者として旅をしていた時もこの手の話は聞いていたが、やはり魔王の存在が一枚噛んでいるのだろうか。憶測ではあるが、その可能性も捨てきれない。


「……初心者用の依頼は、この辺りが良いかな」

「ほら……くま?」

「洞穴熊。ケイヴベアの討伐依頼だよ」


 ボードに張り出されていた依頼書を取って、フィノに手渡す。

 本当ならもう少し小型の魔物の依頼を受けたかったのだが、先着順で既に受注済みであった。

 しかし、このケイヴベアは図体はデカいがとろい魔物だ。一対一で、相手の動きをしっかり見て対峙すればまず危険は無い。


「んぅ、これをたおせばいいの?」

「そうなるな」


 じっと依頼書を見つめて、何を考えているのか。分かりはしないが、少なくとも緊張しているような素振りは見られない。


 それに安堵して、依頼書をギルドの受付へと提出する。

 フィノにとっての、初めての冒険者家業の始まりだ。





 メルテルの街からほどよい距離に位置する森の中。

 ケイヴベアの討伐依頼を受けたユルグたちは、対象の魔物を探して獣道を歩いていた。


「まずは獲物を探さないとお話にならないからな」

「んぅ、みあたらないね」


 キョロキョロと周囲を見回してフィノが呟く。


「こういう時は上じゃなくて下を見るんだ」

「した?」

「生物なら足跡や排泄物……何らかの痕跡が残っているから、まずそれを探す」


 告げて、ユルグは不意に立ち止まった。それに釣られてフィノも足を止める。

 地面にはユルグの靴跡よりも一回り大きい獣の足跡(そくせき)があった。


「こいつだな」

「でっかいね」

「この大きさなら成体だろう。それでこいつは……あっちに向かってる」


 ユルグは人差し指を立てて、右方を指した。


「なんでわかるの?」

草叢(くさむら)が不自然に倒れているだろ。デカい図体をしていればそれだけ痕跡は残りやすいんだ」

「へぇ」


 フィノの問いはユルグにも覚えのあるものだった。かつて、ユルグも同じ質問をしたことがある。


 勇者として旅に出ろと言われ、右も左も分からないなか、師であり仲間でもある彼らには様々な事を教わった。戦闘技術は勿論、生き残る術を叩き込まれたのだ。

 今のユルグの言葉は、すべて師の受け売りである。


 懐かしさを感じながら、痕跡を追っていくと目の前に洞穴(ほらあな)が見えてきた。


「あそこが巣穴だろうな」


 二人揃って近くの草叢に身を隠して、様子を見る。

 周囲には魔物の姿はない。この洞穴の奥に潜んでいる可能性はあるが、だからといって馬鹿正直に突入する事は無いのだ。

 ここはまず、煙で燻して外に誘き出した方がやりやすい。


「あそこにいるの?」

「たぶんな」


 ユルグの答えを聞くや否や、フィノは洞穴の前に飛び出した。

 いきなりの行動に止める暇も無かった。呼び止めようにも、声を張り上げれば獲物に気づかれてしまう。


 草葉の陰で成り行きを見守っていると、フィノは洞穴の中に向けて火球を放ったのだった。



 ――あれは、〈ファイアボール〉の魔法だ。


 魔鉱石の練習で魔法を扱うコツは覚えていたから、魔法として放つのはそれほど難しいことではない。

 しかし、こんなことに驚いている余裕はなかった。


「お前! 何やってんだ!」


 こんなことをしでかした後では、魔物に気づかれる云々だのと言っている場合ではない。


 フィノに続き、草叢から飛び出したユルグはすぐさまフィノの腕を取った。

 続けて、二発目の〈ファイアボール〉を放とうとしていたからだ。


「なに?」

「なに、じゃない。こんなことしたら――」


 フィノへの説教を全て言い終わる前に、洞穴の奥から何かが這い出してくる。

 地面を揺るがしながら猛進してきたモノは、討伐対象のケイヴベアだった。


「ブオオオォォォオオオオ!!」


 大気を揺るがす咆吼は、憤怒を孕んでいる。


 立ち上がった巨体は、二メートルは優に超えていた。そんなものにこれだけの威圧を掛けられれば足が竦んでしまう。ユルグならば問題はないが、フィノはそうもいかないだろう。


 眼前の魔物に意識を向けながら、フィノの顔色を(うかが)う。

 しかし、ユルグの予想に反してフィノは微かに笑みを湛えていたのだ。


 その微笑の意味は、ユルグには分からない。けれど、それに意識を奪われたのは確かだった。




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