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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 廻
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蛇蝎の門番

 

 あることに感づいたフィノはユルグとマモンを呼びつけた。


『何かわかったのか?』

「うん!」


 何事だと寄ってきた二人に向かって、フィノは自分の手のひらを突き付ける。


「これだよ!」

「手がどうしたんだ?」


 二人はフィノの言動に眉を寄せる。いまいちな反応にフィノは答えを叫ぶ。


「これ、ヒトの手だよ。ほら!」


 そう言って地面に残っている足跡の傍に手形を付ける。二人はそれを見つめて更に困惑した様子だった。


「確かに似ているが……」

『それがわかった所で、これの正体は依然不明のままだ』


 マモンの意見にフィノは否定しなかった。手形に似ているとしても奇妙であることには変わりない。


「たぶんこっちが足だよ」

「……片手と片足で歩いてるって?」

「うん」


 フィノの考えを聞いてユルグは腕を組んでマモンに目を配る。


「今まででそんな生物見たことあるか?」

『いいや、今回が初見だ』


 二千年を生きるマモンでさえも初めて見たという。どだい荒唐無稽な状況だ。そもそもが正体を探ることさえ無意味なことなのかもしれない。

 そう踏ん切りをつけたユルグは痕跡の残る道を見つめた。


「迂回しよう。馬鹿正直に後を追う必要はない」

『それが賢明だな』


 無難な決定にフィノもそれに賛同した。

 痕跡からこの生物が恐ろしく巨大なことは皆が予想している。もし遭遇したら逃げるのも一苦労だ。なら最初から避けて通るのが賢いやり方である。


 けれど、その選択も最善とはならなかった。




 ===




 迂回をして祠を目指すことを決めた一行は、そこから一時間ほど歩いて目的の場所についた。

 しかし三人の足は祠に近づく前に止まってしまう。


「お師匠、あれって……」

「あれじゃ中に入れないな」

『むぅ……』


 三人の視線の先にはある物があった。


 遠目に見える生物を端的に形容するならばデカイ蛇だ。けれどその大きさが規格外。祠をすっぽりと覆うようにとぐろを巻いている。入り口の石扉も天井の穴も塞がれていて、あれでは中に入ることは出来ない。


「どうにもただのデカイ蛇ってわけでもなさそうだ」


 身を隠している草陰から睨んで、ユルグは警戒を強める。

 あの蛇の側面からは無数の手足が生えているのだ。ヒトの手足……それを見てユルグは雨林の中で見たあの痕跡の主だと判断した。

 あれはこの蛇が通った跡だったのだ。


『通常の生物や魔物であってもあの大きさになることはない。おそらく瘴気の影響を受けているはずだ』

「またそれか……」

「んぅ、倒せる?」


 マモンの所感にユルグは顔を顰めた。

 黒死の龍と戦った時も大いに苦戦した。あの蛇相手に同じ作戦は使えない。けれどそれはユルグ一人で戦った場合だ。


「あの手の相手には一点に攻撃を集中させる必要がある。つまり俺一人じゃ力不足ってことだ」


 背中の剣の柄を握ってユルグはフィノに目配せをした。


「期待してる」

「まかせて!」


 師匠からの励ましの言葉にフィノは拳を握って勇んだ。こんなに嬉しいことはない。

 張り切りすぎて思わず立ち上がってしまったフィノに気付いた魔物が二つの目をこちらに向けた。


「あっ」

「……」


 フィノのうっかりにユルグは大きく溜息を吐く。

 それに謝る前に、傍に居たマモンをユルグは掴んであろうことか敵の前に投げ出した。


「行ってこい!」

『な、なにをするぅぅぅ!!』


 遠ざかっていく叫び声を聞きながら、どういうことだと師匠に目線で問う。

 するとユルグは敵から目を離さずに手短に説明した。


「まずはあれを祠から遠ざける。あの場所を倒壊させるわけにはいかない」

「マモンは?」

「あいつは囮だ。こっちに突っ込まれたら攻撃する暇がないからな」


 不死身のマモンならば適任だとユルグは言った。作戦としては問題ないが少々可哀そうにも思える。


「……動き出した。いくぞ」

「うん!」



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