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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 廻
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藪の中の痕跡

サブタイトル変更しました。

 

 夜が明けた後、一行は祠を目指して出発した。

 昨日と変わらずスタール雨林は静かだ。不気味さを感じながらも歩き続けて、二時間後。


 あと少しで祠まで辿り着くというところでユルグはある物を見つけてしまった。


「……これは」

『なんとも奇妙な』

「んぅ、なにこれ?」


 三人の前に現れたのは無残になぎ倒された大木の数々。まるで大きな何かがこの場所を通ったかのように道が出来ていて、その道端には倒木の波が出来ている。

 道幅は五メートルほどだ。これを見ただけでも途轍もない大きさの生物が通った事が見て取れる。


「ケイヴベアでもこんなに大きな個体は見たことがない」

『そもそもこんなことが出来る生物が他にいるかも怪しいなあ』


 目の前の状況を調べていたユルグは、そこであることに気付いた。


「おかしい……」

「お師匠、どうしたの?」

「足跡がどこにもないんだ」


 これだけ大きな生物なら、足跡もそれだけ大きいはず。それなのにどれだけ地面を注視して探しても一つも見つけられなかった。


「まさかここだけ竜巻が起こったなんてことはないよな?」

『自然発生でそれは無理がある』


 マモンににべもなく否定されてユルグは荒れ道の先を見た。地面を耕したみたいにくっきりと残っている道はずっと先まで続いているようだ。そしてそれはユルグたちの進行方向と同じだ。


「とても嫌な予感がする……」

「フィノも」


 このまま進めば、正体不明の何かと遭遇するなんて事態になりかねない。痕跡から見てもかなり大きな生物だ。三人で何とかできる範疇を超えている。


「そうは言っても進まないわけにはいかないし……」


 嘆息してふと視線を逸らすと、ユルグの目に奇妙なものが映った。

 ちょうど倒木の陰になって気づかなかったが、何かが通った開けた道の端。ちょうど倒木との境目にぬかるんだ跡を見つけたのだ。


「……これ、何だと思う?」


 神妙な顔でそれを観察したのち、ユルグはフィノに意見を求めた。

 ユルグ同様、それを見たフィノは眉を顰める。


「足跡?」

「俺も最初はそう思ったんだが……こうして倒木があるってことは何かがここを通ったってことだ。ならその道の上に足跡が付くはずだろ?」

「んぅ、そっか」


 ユルグが発見した奇妙な跡は擦れた地面の外側にある。歩行する生物でこの痕跡は不可解すぎる。

 それにこの足跡のようなもの。整いすぎている。目で追って行けばずっとまっすぐ直線状に、擦れた道の端をなぞるように伸びているのだ。


「それにこれ、見てみろ」


 ユルグは二つの足跡を指で差した。

 フィノはそれを凝視する。初見ではすぐに気づかなかったが、よくよく見るとおかしすぎるのだ。


「これ、足跡の形がちがうね」

「ああ、はっきりと分かるのが爪痕が五本のものと、足先の形は分からないが細長いもの」


 それが二つ一組になっているように等間隔で並んでいる。


「前脚と後脚かな?」

「そうであってもおかしすぎる。こいつは一直線に続いているから、この横にもう一組足跡がないと」

「あ、そっか」


 ユルグの指摘にフィノはそうかと頷いた。

 難しい顔をしているフィノを置いて、ユルグは足跡の反対側を見た。荒れた道の向こう側、倒木の近くを探る。


「こっちにも同じようなものがあるな」

『いったい何だというんだ』


 さすがのマモンもこれには困惑している。

 マモンの小言を聞き流してユルグは思案する。


 あの道を作ったのが生物だとするならば、普通に歩いてはあんな風に地面が抉れたようなものにはならない。

 それに足跡が離れているのも気になる。仮に四足の生物だとしても足跡の位置がズレすぎている。


「マモン」

『なんだ?』

「おまえ、左半身だけで歩けるか?」

『はあ? 何を馬鹿なことを……』


 左側の前脚と後脚だけで歩けるか。

 おかしなことを聞くユルグにマモンは呆けて、そんなことできるわけがないと断言した。


『後脚だけで立って歩くことは可能だろうが半身を浮かせてなど無理に決まっているだろう』

「犬が出来ないんだったら他も無理か」


 そうは言ってもこの足跡の主が二足歩行であるなんて、それこそ荒唐無稽な話である。

 そこまで考えてユルグは考えることを諦めた。


「頭が痛くなってきた……」


 ユルグが頭を抱えている反対側では、フィノが足跡を見ながらじっと考え込んでいた。


「んぅ、これどっかで見たこと……」


 フィノが気になっているのは爪痕が多い足跡だ。

 それをじっと見つめて眉を寄せる。ふとその足跡に触れようと手を伸ばした瞬間――


「――あっ!」


 決定的なことにフィノは気づいてしまった。


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