見かけによらない
グァリバラの初動を見てユルグは即座に反応する。
横薙ぎの剣撃――迷いなくそれを剣で受け止める。しかし吹っ飛ばされそうな勢いにユルグは奥歯を噛みしめた。
「ぐっ――!」
危うく剣を離すところだった。攻撃を受け止めた衝撃で手が痺れる。
この男、随分と直情的な戦い方をする。力任せに突っ込んできてなんでも解決するタイプだ。こういった輩は小手先の小細工は考えない。
しかし、だからこそユルグにとっては扱いやすい相手ともいえる。
「吹っ飛ばすつもりだったのに、なかなか上手くいかねえもんだな」
感心したように零すグァリバラ。それを見据えながらユルグは数歩、距離をとる。
未だ痺れが消えない右手から左手に剣を持ち替えて、どう攻めるべきか。
冷静に考えて、刺客がこの男だけとは限らない。他にもいると仮定すると、フィノが付いているとはいえ安心するべきではない。
呼吸を整えると、ユルグはグァリバラに突っ込んだ。
殺しはしない。追ってこられないようにするだけ。ならば足を負傷させればそれでおしまいだ。
けれどユルグの狙いをグァリバラは読んでいた。
強襲を邪魔するように大振りの剣撃が迫りくる。石畳の地面を抉るほどの威力にユルグは息を飲んだ。
あんなのが直撃したら一撃のもとに沈むだろう。下手をすれば死ぬことだってあり得る。
「……っ、馬鹿力め」
「狙いが見え見えだぜ? そんなんじゃ俺はヤれねぇよ!」
「でかい声で喚かなくても聞こえてる」
上がった息を整えて、ユルグは痺れが収まった右手で雑嚢を探る。
掴んだのは投げナイフ――ユルグの十八番、〈ホーリーライト〉による目眩まし。これが決まれば勝負はすぐに着く。
先の展望を予想して、ユルグは攻撃を仕掛けた。
〈ホーリーライト〉を込めた投げナイフを、グァリバラの顔目掛けて投擲する。
こういった投擲物は武芸者ならば大抵が受け流す。軽いものなら弾くことが多い。それを逆手にとってのユルグの作戦だが、例にもれずグァリバラもその筋の男だった。
カンッ――と投げナイフが弾かれる。
直後、眩い光が周囲を包み込む。〈ホーリーライト〉の魔法は、ユルグの作戦通りグァリバラの顔面付近で発動した。
その隙をユルグは見逃さない。
男の下段から駆け寄って握り込んだ剣を振るう。狙いは足元。ここを負傷させたなら馬鹿みたいに追ってはこられまい。
しかし、ユルグの甘い考えはすぐに打ち砕かれることとなった。
「言ったろうが。そんなんじゃ俺はヤれねえってよお!!」
怒号が聞こえたその直後――馬鹿力で振るわれた鉄棒が、ユルグの背を思い切り叩いた。
「ぐっ――ッ!」
肺が潰されたと思うほどの衝撃。それに呼吸が止まって、ユルグは大きく咳き込む。
視界がチカチカと点滅する。
痛みに呻き声をあげながら、何とか顔だけでも上げるとこちらを見下ろすグァリバラと目が合った。
にやりと口元が弧を描き、持ち上がった足がユルグを踏み潰さんとする。
なんとか力を振り絞って、転がってそれを避ける。けれど長引く痛みと眩む視界……満身創痍だ。
「……っ、いまの」
先ほどの陽動は完璧だったはずだ。
魔法の不発もあり得ない。だったらなぜ、あの男はユルグの奇襲に即座に対応できたのか。
「お前がナイフを構えた瞬間、なんかするとは思ったぜ。俺はこれでもちゃあんと見てる。見て、考えてヤってんだ。頭の回転は速い方だし、経験もある。なめてもらっちゃあ困るぜ」
勝ち誇ったようにグァリバラは声高に言う。それはユルグの心を見透かしたような指摘だった。
――直情的で、力任せ。小細工は使わない。
それらを覆すグァリバラの宣言に、ユルグは甘かったと奥歯を噛みしめる。
「……っ、腕も感覚も鈍ってるな」
こんな所をグランツに見られたら、鍛え直されるだろう。彼の修練はスパルタだ。嫌だと泣きごとを言ってもやめてくれない。
昔の記憶を思い出して、ユルグはこんな状況だけど苦笑を零す。
きっと頭を殴られて、その次にはあの台詞を言われるんだ。
何遍も聞いた、戦闘の心得――
「お前が腕の立つ奴だってのは、見りゃあ分かる。師事した奴もいただろう。そいつに教わらなかったか? まずは相手の出方を見ろってなァ!」
吠えるグァリバラを見据えて、ユルグはある違和感を覚えた。
なぜだか分からないが……とてもよく似ているのだ。
久しぶりの戦闘描写、やっぱり苦手だ~~




