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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 廻
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百薬の長

 

 陽が落ちかけたころ。マモンが帰ってしばらくするとミアとカルロが山小屋へと戻ってきた。


「おかえり。楽しかった?」

「うん。とっても!」


 満足げな表情を浮かべてミアはご満悦である。ゆっくりと羽を伸ばせたみたいだ。


「お兄さんは留守番お疲れさま」


 一緒に帰ってきたカルロはテーブルに一抱えもある包みを置く。


「……これは?」

「肉塊」

「それは見ればわかる」


 麓の街の肉屋から買ってきたのだろう。まあまあな値段のする馴鹿肉の塊がユルグの目の前に鎮座している。

 しかしただのお土産としては不自然である。怪我人に肉のお土産とは。


「酒を飲みたいっていう口実だろ」

「まあ、そうとも言うね」


 ユルグの指摘はどこ吹く風。カルロは隠し持っていた酒瓶を取り出すと、聞いてもいないのに語りだした。


「ほら、ミアと一緒の時は断酒してたんだよ。私にしては頑張った方だと思うけどなあ」

「今も一緒にいるだろ」

「ちがうちがう! これは言葉のあやってやつ! 友達と二人きり、楽しく遊んでる時に一人だけ酒飲むほど私は落ちちゃいないよ!」

「すぐにバレる嘘は吐かない方がいいと思うけどなあ」


 張り切って弁明しているカルロの横から、今まで静観していたミアが口を挟む。

 それを聞いて殊更、カルロは焦ったように早口になった。


「う、うそなんて言ってないじゃんか! 今日はちゃあんと素面だったでしょ!」

「うんうん。今日は頑張ったよね」


 慣れたもののように適当にあしらうと、ミアはテーブルに置かれた肉塊を持っていく。


「はあ、くだらない」

「あっ、馬鹿にしちゃってさ! 酒は百薬の長って言うんだから!」

「酒のことは馬鹿にしていない。お前が馬鹿だって言っているんだ」

「あー-っ、もう! 怒ったかんね!」


 叫び声を上げてカルロは椅子にどっかりと座ると、酒をあおり始めた。まさに浴びるように飲むとはこのことである。

 それを呆れながらも見物していると、今度は焼き上がった肉塊が運ばれてきた。


「お肉焼けたよ」

「いただきます!!」


 誰よりも早く手を伸ばしたカルロは肉の塊を頬張って酒で流し込む。なんともまあ、行儀の悪い食べ方だ。


「もう少し大人しく食えないのか?」

「おんふぁいっ、わふぃいすふな」

「食べながら話すな。何を言っているかわからん」

「細かい事は気にするな、だって」


 なんで分かるんだ、なんて思っていると切り分けた肉がユルグの前に置かれる。

 出来立ての料理はなんとも美味そうだ。


「どう? おいしい?」

「うん。うまいよ」

「ふふっ、よかった」


 ミアは微笑むとカルロが持参した酒を少し注いでくれた。


「少しくらいなら飲んでもいいんじゃない?」

「んっ、そうそう! 適量なら身体に悪いもんじゃないからね」

「お前が言うと説得力がないな」

「お兄さんさあ、一言多いって言われない?」

「よく言われる」


 まあいいけど、と流してカルロは酒をあおる。


 こんなにも騒がしい食卓だが、ユルグの隣に座ったミアは満足げである。

 喧しいだけとは思うが、それでもこんな風に笑えるくらいには楽しいことらしい。であればこれも悪いことではないような気もしてきた。


「そうだった。お前に頼みがあるんだ」

「んぇ? なに?」

「村に戻ったらフィノに大事な話があるって伝えてくれ」


 ユルグの頼み事にカルロはミアと顔を見合わせた。


「あら、これは奇遇だね」

「うん、びっくり」


 そんなことを言われても話の意図が見えない。

 呆けていると、ユルグの心情を察したミアが説明をしてくれた。


「実はね、カルロにフィノのことお願いしてたの。ユルグ、考えさせてくれって言ってたじゃない」

「ああ、あれか」

「お節介かなって思ったけど、そんなことなかったみたい」


 ほっとしたようにミアは胸を撫でおろした。それを見てユルグは反省する。

 わざわざこんなことを言い出したのだ。それだけミアにとっての悩みの種だったのだろう。


「あの子、説得するのは大変だろうけどなんとかしておくから。まあ、お兄さんから大事な話があるっていえばすぐに飛んできそうだけどね」

「私も会いたがってたって伝えてね」

「うんうん。わかったよ。んじゃあそろそろ退散するとしようかねえ」


 よっこいしょ、とカルロは重い腰を上げた。

 テーブルを見ると彼女が持ってきた酒瓶はものの見事に空である。


「えっ、もう遅いし泊まっていけばいいのに!」

「流石にそこまで無恥じゃないよ。今日はおじいちゃんのところに泊めてもらうからさ」

「こんなに飲んで帰れるのか?」

「酔っぱらって遭難しないでね」

「あーいあい、わかってるよう。じゃあね」


 適当に返事をするとカルロは不安になる足取りで出て行った。

 彼女の後姿を見送って、二人は顔を見合わせる。どうやら同じことを考えているようで、間髪入れずにミアは立ち上がると外套を手に取った。


「やっぱり心配だから送ってくるね」

「無理そうだったら連れ帰ってきてもいいよ。ベッドなら余ってる」

「うん、わかった」



 ――数分後、酔っ払いが舞い戻ってきたのは言うまでもない。



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