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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 廻
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青天の霹靂

 

 療養中の身であるユルグの一日はとても退屈なものだった。

 なんせ師匠であり薬師でもあるエルリレオに絶対安静であると念押しされているのだ。それを破るような真似は今のユルグには死んでも出来ない。

 そもそも出掛ける用事だってないわけで、日がな一日寝て起きての繰り返しである。


 そんな毎日を送っていたある日、山小屋に来客が訪れた。


「ひさしぶり~元気にしてた?」


 勢いよくドアを開けて入ってきた人物に、ちょうど昼餉を摂っていたユルグは思いきり顔を顰めた。


「げっ……」

「あっ、なあんでそんな嫌そうな顔するかなあ。せっかく顔見に来てやったのにさあ」

「頼んでないだろ」


 減らず口を叩くユルグにカルロは大袈裟に肩を竦めて見せた。

 そんなユルグとは対照的に、ミアは大変嬉しそうにカルロの訪問を喜んでいる。


「久しぶりじゃない! いつこっちに来たの?」

「ほんとついさっきだよ。こっちは雪深くて嫌だねえ。ああ寒い寒い」


 我が物顔でどっしりとテーブルに着いたカルロにミアは温かいお茶を淹れる。


 ユルグの知らないところで何があったのか。二人は仲が良いらしい。こうしてたまに遊びに来た時なんかは決まって二人で街まで降りて買い物やら食事やらしてくるのだ。男子禁制の女子会である。


「フィノは元気? たまには遊びに来てくれても良いのに」

「元気だよ。私も誘ってるんだけどさあ。何が嫌なんだか頑ななんだよね。きっと会いたくない人でも居るんだろうねえ」


 カルロはわざとらしく言うと、ちらちらとユルグを見遣る。奇妙な言動に心当たりがないままユルグが固まっていると、そういえば、とカルロはある事を話し出した。


「二人ともあの話は知ってる? アルディアの皇帝が亡くなったってやつ!」


 意外な事を素っ気なく話したカルロは冷ましたお茶を一気飲みした。ゴクゴクと喉を鳴らしている彼女を前にユルグはミアと顔を見合わせる。

 当然ながら二人とも、そんな事実は初耳である。


「知らない」

「あっ、やっぱり? こっちは田舎だからねえ。サノワじゃこの話題で持ちきりだよ」


 こう見えてもカルロは意外と情報通である。旅の商人に着いていって色々な場所に行っているから時勢にも明るいのだ。


「なんでそんなことになったんだ?」

「さあ? 詳しくは知らないけど、次期皇帝にはあの皇女様がなったもんで、彼女が何かしたんじゃないかって噂は絶えないね」

「アリア、皇帝になっちゃったんだ」


 カルロの話を聞いてミアは感嘆の声を上げる。

 旅をしている最中は気にならなかったけれど、アリアンネはあれでも皇帝の嫡子なのだ。皇帝が隠れたのなら皇位を継ぐことになる。


「まあ、でもラガレットにとってはこっちの方が都合が良いんじゃない? なんたって次期皇帝は平和主義だって言うし。この国も帝国には色々と圧かけられてたからね。心配事が一つ減ったって感じかな」


 ペラペラと喋るカルロの話を聞きながらユルグは思案する。


 以前アリアンネにはある計画を持ちかけられた。皇帝の暗殺云々の物騒なものだ。

 その時は断ったのだが……あれが無関係とは思えない。


「そんで近々皇帝様が挨拶に来るってんで、今はどこも慌ただしくなってるんだよ。外交問題は最初が肝心だからね」


 ――しかし、気にはなっても真意を探る必要は無いとユルグは判断した。既に先代の皇帝は死んだのだ。目的を達したのだからこれ以上何かを企てているとは思えない。


「そんなに難しい顔をしなくてもいいんじゃない? こっちはご覧の通り雪深い田舎だし、特段何かあるとは思えないけど」

「なら良いんだが……」

「そうそう~取り越し苦労ってやつ! それよりさあ……」


 にっこりと笑ってカルロは立ち上がるとミアの腕を取った。


「ミアのこと借りて行くけど良いよね」

「えっ?」


 突然の宣言に当の本人であるミアは驚きに声を上げた。

 瞠目している彼女にカルロは笑顔で告げる。


「ほら、たまには息抜きも必要だし! お兄さんの面倒ばっか見てると疲れちゃうからさ! 街まで遊びに行こう!」

「えっ? ええ……ええっと」


 行こう行こうさあ行こうと、問答無用でカルロはミアを引っ張る。

 戸惑いながらも満更でも無さそうなミアの様子を見て、ユルグは快く送り出した。いつも世話をかけているのだ。こんな時くらいゆっくり羽を伸ばして来るのもいいだろう。


「俺は大人しく留守番してるから、ゆっくりしてこいよ」

「そ、そう? ……じゃあお言葉に甘えて」


 そわそわと落ち着きのないミアはユルグに断わりを入れると出掛ける準備を始める。あの様子を見るにカルロの誘いも満更でもなさそうだ。


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