憧れの《龍殺し》
マモンの助けを借りて街まで戻ると、既に日暮れの時間帯だった。
そのままエルリレオの元まで向かうと、当然ユルグの姿を見た皆は驚き何があったのだと質問攻めにされる。
「怪我は酷いが……まあ、死ぬようなものではない。しばらくは絶対安静だがね」
バンッ――と包帯の上から叩かれて、ユルグは痛みに苦悶の声を漏らす。それでも事情を聞いたエルリレオはこの状況を喜んでくれた。
なんせ身体を蝕んでいた瘴気が消えたのだ。怪我ならば生きてさえいればいずれ癒えるもの。それを分かっているからこそ、弟子の無事を我がことのように嬉しく思ってくれている。
「ほ、ほんとうに大丈夫なの?」
「うん。心配かけて悪かった」
帰ってきたと思ったらボロボロの状態。それで心配するなというのは無理な話である。
今にも泣き出しそうなミアに優しく言葉をかけると、それを見ていたアルベリクが叫ぶ。
「ねえちゃんのこと、泣かせるなよ!」
不満げに頬を膨らませて吠える少年に、ユルグはどうしたんだと目を円くする。
「別に悲しませたくてこんなことしてるわけじゃ」
「言い訳なんてかっこわるい!!」
なぜかアルベリクは怒り出してそっぽを向いてしまう。
なんなんだ、と困り果てているユルグに彼の母親であるティルロットとエルリレオは二人揃って微笑ましげに笑っているではないか。
そうこうしている間にアルベリクはマモンを連れて、外に飛び出していってしまった。
「ごめんなさいねえ。あの子、あなたのこととっても尊敬しているのよ。街の人達に毎日龍殺しのこと、自慢しているんですもの」
笑って話す彼女の話を聞いて、ユルグはとても恥ずかしくなった。
最近街で聞く龍殺しの噂はユルグも、もちろんミアも耳に入っていた。噂に尾ひれがついているなあとは思ってはいたが、訂正するのも面倒だし目立ちたくはないので、知らぬ存ぜぬで通していたのだ。
「だから許してやってくださいな」
「子供に慕われるほどユルグも大人になったということだ。良いことではないか」
わはは、と笑いが巻き起こる。
ふと隣を見遣ると、先ほどまで泣きそうな顔をしていたミアも釣られて笑っているではないか。
その笑顔を見て、ユルグはやれやれと苦笑を零すのだった。
今回は少し短いです(o_ _)o




