三つの氏族
二人の口論が収まったところで、ギィ・ルヴィは自分たちの事を色々と話してくれた。
彼の話では、竜人という種族は人間や森人、機人とは様々な所で違いがあるらしい。
その一つが彼らの社会形態だ。
「竜人の氏族は三つある。ギィの他に、ドゥとヅェ」
この三つの氏族は、それぞれ姿形も異なるし、竜人の種族内での役割も違う。ギィ・ルヴィがトカゲのような姿なのに対して、後の二つの氏族はヒト型であるのだという。
「君たちみたいに元からヒト型なのは、ヅェの氏族。ヅェは種族の皆をまとめる長の役目をもってる。種族間の交渉もこの氏族が請け負う」
「なら、その氏族の人が一番偉いってこと?」
国では無いにしろ種族という括りの中で、沢山の同族をまとめるのだ。代表者のようなもの。
今後、彼ら竜人がどのように他の種族と関わりを持つのかはわからないが……出来れば知っておきたい。
そう思って、ギィ・ルヴィに尋ねると、彼は違うとかぶりを振った。
「竜人の中で、誰が一番偉いはない。みんな一緒。ギィが一番強いけど、力でみんなを従わせたりはしない」
氏族とはあくまで種族間での役割である、と彼は言う。その答えにフィノは驚いた。今まで見たことも聞いたこともないものだ。
人間やエルフが同じことをするとなっても、こうは上手くいかない。
「もう一つはドゥの氏族。これはギィとヅェを合わせたような姿をしてる。ドゥは種族の発展に尽くすのが役目」
この氏族が一番竜人の中では再生力に優れているのだという。頑丈で成長も早く、どんな環境にも適応出来るように身体を変化させる事も可能。
ここまで聞くと他の氏族よりも物騒に感じるが、それは見かけだけだとギィ・ルヴィは語る。
「ギィよりも温厚。ドゥの役目に荒事は含まれてない。それはギィの役目」
ギィ・ルヴィは、今は少し大きなトカゲであるが、成体になればそれはもう巨大な姿になるのだという。
そんな彼の役目は、種族を外敵から守ること。必要とあらば地を割り、大地を燃やし灰燼と化す。それはもはや天災といってもいい。それだけの力を彼は秘めているのだ。
「でもよっぽどのことがない限り、ギィは歯牙を余所に向けない。降りかかった火の粉を払うだけ」
だから安心していいと、彼はフィノに告げる。
彼ら竜人が大事にしている主神を貶されなければ基本的に温厚なのだと、ギィ・ルヴィは笑った。
『良く出来ておるなあ。種族間での結束がなければ出来んことだ』
彼の話を聞いて、マモンは感心したように唸り声をあげた。フィノもマモンと同意見だ。彼ら竜人は、種族の間でも容姿が異なる。しかしそれを理由に差別や迫害はないという。
人間やエルフならばあり得ない話だ。ついこの間まで、ハーフエルフを弱者として虐げてきたのだから。逆立ちしたって真似できやしない。
「みんな得意なことが違う。それを補うのが氏族。ギィは大きくて強くなれるけど、それ以外は難しい。難しいことは他がやってくれる。それで解決」
なかなかに心理を突いた答えに、一同は言葉もなく黙り込む。痛いところを突かれたというのだろうか。
口を噤んだままのフィノとマモンだったが、そんな二人を置いてヨエルは元気よくギィ・ルヴィに話しかける。
「じゃあ、ルヴィ。いま困ってることない?」
「ンアァ、たくさんあるよ」
他の氏族と違って、彼は出来る事が限られている。というか今の状態では何も出来ない。
ギィ・ルヴィがヨエルに頼んだのは、今後の竜人の未来に関わる重要なこと。
ずばり、衣食住の確保だった。




