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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第十章
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三つの氏族

 

 二人の口論が収まったところで、ギィ・ルヴィは自分たちの事を色々と話してくれた。


 彼の話では、竜人(ヤト)という種族は人間や森人(エルフ)機人(マグナ)とは様々な所で違いがあるらしい。

 その一つが彼らの社会形態だ。


竜人(ヤト)の氏族は三つある。ギィの他に、ドゥとヅェ」


 この三つの氏族は、それぞれ姿形も異なるし、竜人(ヤト)の種族内での役割も違う。ギィ・ルヴィがトカゲのような姿なのに対して、後の二つの氏族はヒト型であるのだという。


「君たちみたいに元からヒト型なのは、ヅェの氏族。ヅェは種族の皆をまとめる長の役目をもってる。種族間の交渉もこの氏族が請け負う」

「なら、その氏族の人が一番偉いってこと?」


 国では無いにしろ種族という括りの中で、沢山の同族をまとめるのだ。代表者のようなもの。

 今後、彼ら竜人(ヤト)がどのように他の種族と関わりを持つのかはわからないが……出来れば知っておきたい。


 そう思って、ギィ・ルヴィに尋ねると、彼は違うとかぶりを振った。


竜人(ヤト)の中で、誰が一番偉いはない。みんな一緒。ギィが一番強いけど、力でみんなを従わせたりはしない」


 氏族とはあくまで種族間での役割である、と彼は言う。その答えにフィノは驚いた。今まで見たことも聞いたこともないものだ。

 人間やエルフが同じことをするとなっても、こうは上手くいかない。


「もう一つはドゥの氏族。これはギィとヅェを合わせたような姿をしてる。ドゥは種族の発展に尽くすのが役目」


 この氏族が一番竜人(ヤト)の中では再生力に優れているのだという。頑丈で成長も早く、どんな環境にも適応出来るように身体を変化させる事も可能。

 ここまで聞くと他の氏族よりも物騒に感じるが、それは見かけだけだとギィ・ルヴィは語る。


「ギィよりも温厚。ドゥの役目に荒事は含まれてない。それはギィの役目」


 ギィ・ルヴィは、今は少し大きなトカゲであるが、成体になればそれはもう巨大な姿になるのだという。

 そんな彼の役目は、種族を外敵から守ること。必要とあらば地を割り、大地を燃やし灰燼と化す。それはもはや天災といってもいい。それだけの力を彼は秘めているのだ。


「でもよっぽどのことがない限り、ギィは歯牙を余所に向けない。降りかかった火の粉を払うだけ」


 だから安心していいと、彼はフィノに告げる。

 彼ら竜人(ヤト)が大事にしている主神を貶されなければ基本的に温厚なのだと、ギィ・ルヴィは笑った。


『良く出来ておるなあ。種族間での結束がなければ出来んことだ』


 彼の話を聞いて、マモンは感心したように唸り声をあげた。フィノもマモンと同意見だ。彼ら竜人(ヤト)は、種族の間でも容姿が異なる。しかしそれを理由に差別や迫害はないという。


 人間やエルフならばあり得ない話だ。ついこの間まで、ハーフエルフを弱者として虐げてきたのだから。逆立ちしたって真似できやしない。


「みんな得意なことが違う。それを補うのが氏族。ギィは大きくて強くなれるけど、それ以外は難しい。難しいことは他がやってくれる。それで解決」


 なかなかに心理を突いた答えに、一同は言葉もなく黙り込む。痛いところを突かれたというのだろうか。

 口を噤んだままのフィノとマモンだったが、そんな二人を置いてヨエルは元気よくギィ・ルヴィに話しかける。


「じゃあ、ルヴィ。いま困ってることない?」

「ンアァ、たくさんあるよ」


 他の氏族と違って、彼は出来る事が限られている。というか今の状態では何も出来ない。

 ギィ・ルヴィがヨエルに頼んだのは、今後の竜人(ヤト)の未来に関わる重要なこと。


 ずばり、衣食住の確保だった。


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