久しぶりの帰郷
まっすぐな讃辞に照れながらも、フィノはアリアンネにこれまでの経緯を伝える。
当初の目的通り、大穴から四災を解放できたこと。そのせいで各地に様々な異変が起きていること。
スタール雨林の浮遊城も、アンビルの近くに出現した巨木も。それのせいであるとフィノは結論づけた。アリアンネもフィノの意見に賛同する。
「あの規模の現象ならば、超常の何かの仕業であるとわたくしも考えます。今のところ、脅威であるという報告は受けていません……ですが、あれが何なのか。確かめる必要はありますね」
「私もそう思う」
――とは言ったものの、現状維持が好ましい場合もある。
突如現われたあれらと何の諍いもないのは、どちらも不干渉を貫いているからだ。適度に距離を保っているから何の問題も起こらない。
しかしそれを破ってこちらから接触するとなると、どんなことが起こるやら。予測がつかない。この問題は早急に対処すべきものだけど、もっと慎重になるべきだ。
それをアリアンネへと進言すると、彼女は少し考えたあと静かに頷いた。
「やはりここは、後手に回るべきでしょう。静かなうちは手出しをしない方が無用な争いは避けられる」
不安要素ではあるが放置すべきだとアリアンネは結論づけた。フィノもそれが良いと、相づちを打つ。
「何かあったら呼んで。協力はする」
「ふふっ、頼もしいですね。では、お言葉に甘えましょうか」
巨木の調査ならば手伝うこともやぶさかではなかった。それをアリアンネに頼まれたなら、ちょうど帰路の途中である。寄り道も考えていたのだが……大穴のあった場所に奇妙な変化が立て続けに起きているのだ。きっとシュネー山の大穴も例外ではない。
あの場所に何かあれば麓にあるメイユの街にだって何かしらの被害があってもおかしくはないのだ。
帝都から発って、最短で戻るとしても北の山脈を越えて三日。
はやく家に帰りたいというヨエルではないが、フィノもはやく戻って安全であるかを確かめたい。
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アリアンネへと報告と挨拶を済ませると、フィノはヨエルを連れて帝都を発った。後のことは彼女に任せることにする。何かあったら連絡をくれるというし、ヨエルもこの通り。故郷に戻るのを楽しみにしているのだ。
北の山脈を経由して、三日後にはシュネーの山小屋へと帰って来れた。
しかし予想した通り、なんだか様子がおかしい。
「少しあったかいね」
「んぅ、……なんだろ」
シュネー山脈近辺の気候は万年雪に閉ざされている。一面雪景色なのは当たり前の光景で、毎日雪が降る。晴れている日はほとんどないほどだ。
それがどういうわけか。舞い落ちる雪は欠片もなく、堆積している雪は心なしか減っているようにも思う。
ただの気候の変化、というには片付けられないほどに環境が変わっているのだ。
『言われてみると……行きと帰りでは見える景色が違うようにも思えるな』
温度の変化を感じないマモンはいまいちピンときていないようだった。
そんなマモンを置いて、ヨエルは一目散にある場所へと駆けていく。
「ああっ、ぼくの秘密基地!」
『むっ、これは……崩れてしまっているのか?』
「せっかく頑張ってつくったのに!」
秘密基地もとい、ヨエルが丹精込めて作ったかまくらは見るも無惨に崩れてしまっていた。悲しみに暮れるヨエルの傍で、マモンはこの状況に疑問を抱く。
シュネー山の寒冷な気候ならば、ヨエルの作った秘密基地が自然と溶けて崩れるなんてことはあり得ない。
外から何か力が加わったのなら可能性もあるが……この状態は誰かが意図的に壊したとも考えにくい。勝手に瓦解したように見える。
『この大きさが溶けて崩れるとは考えにくいが……ううむ』
「ぼくの秘密基地……」
『そんなに落ち込まずとも、また作れば良いだろう。今度は己も手伝ってやろう』
「ほんと!?」
『次はもっと大きい物を作ろうか』
「やった! じゃあいますぐやろう!」
マモンの進言によりヨエルはすぐに元気になった。
持っていた荷物を放り投げるとさっそく秘密基地作りに邁進する。
「私は街まで行ってくるから、ヨエルとお留守番してて」
『うむ、気をつけてな』
「いってらっしゃい!」
山での変化は麓の街でも話題になっているはず。
何があったのかを探るために、フィノはヨエルとマモンに留守番を頼んで少し出掛けることにした。




