表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第十章
480/573

光明の先にあるもの

 フィノはヨエルを連れてシュネーに戻ることにした。

 しかしルトナーク王国からシュネーの雪山までは結構な距離がある。普通に陸路を行くならば二十日はかかる距離だ。


『帰るにしても道のりは長そうだ』

「どれくらいで着くかなあ」

「んぅ、と……二十日くらい」

「はつか!?」


 一月の半分か掛かると教えると、ヨエルは両手の指を折り曲げて数えながら絶叫した。


「これ、ぜんぶ歩くの!?」

「そうだよ」

「ええーっ、馬車のっていこうよ!」

『そんな金はないだろう』

「うん」

『自分の足で歩くしかないなあ』


 無理だと言うとヨエルは不満げに頬を膨らませて、抱きかかえていた黒犬のマモンを降ろすと足早に先を行く。


「じゃあマモンも自分であるいてね! ぼく手伝わないから!」


 八つ当たりのような癇癪の起こし方に、マモンはフィノの足元で苦言を呈す。


『そもそも勝手に……いや、これはよしておこう』

「あとで寂しくて戻ってくるよ」

『はあ……まだまだ手が掛かりそうだ』


 顔を見合わせて二人は笑い合う。

 保護者の心労はなくなることは無さそうだ。そのことに苦笑しながら、フィノは意を決してマモンに尋ねた。


「マモン、瘴気のことなんだけど……どれくらい持つ?」

『それのことなのだがな。少し奇妙なのだよ』

「何かおかしなことでもあるの?」

『うむ……』


 マモンはフィノが思ってもみないことを打ち明けてきた。


『四災をすべて解放したことで、地上に溢れていた瘴気はなくなりつつある。元々アレは地上に存在していなかったものだ。濃度が薄く、微量ながらも漂っていたものさえも消えていくのだろう。しかしなあ……』


 マモンはなぜか歯切れの悪い回答をする。


「どうしたの?」

『己は瘴気を浄化するために創られたものだ。そういった能力も備わっている。ログワイドだってそのように創った。だが……それがすべての根底にあるものではないと己は思っている』

「……?」


 フィノにはマモンが何を言いたいのかわからなかった。大人しく話を聞いていると、彼は意外な事実を打ち明ける。


『おそらく、己の存在の維持に瘴気の有無は関係ないのだと思うのだよ』

「……っ、それ! ほんとう!?」

『まだ曖昧なことしか言えんが……己はそうではないかと確信している』


 マモンの意見はフィノにとっても嬉しいものだった。彼の言葉は、瘴気が消えてもマモンは消えてしまわないと言っている。

 そうなればヨエルと別れることもない。マモンはヨエルにとってかけがえのない家族。大切な存在なのだ。まだ十歳の子供には辛い別れになる。それを無かった事に出来るならばこれほど嬉しいことはない。


『ログワイドは自身の寿命を代償に己を創ったのだ。己の存在はその時に定着している。瘴気云々は……いわば、生物にとっての飲食と同義。己は不死身の存在だ。最悪それがなくても生きてはいける、はずだ』

「んぅ、それならいいけど……」


 マモンの考察に納得しかけたフィノだったが、それには問題も付きまとっている。

 今までのマモンが良い例だ。彼は瘴気を失うと弱体化する。それはどうなんだと問うと、マモンもそれが一番の鬼門だと言う。


『どのみち瘴気はなくなっていく。それに変わる何かを原動力にする必要があるな。己の生態を変えるならば、呪詛であれば手立てがあるだろうが……まあ、そこは追々考えていこう。猶予はまだあるのだ』

「うん。そうだね」


 以前の世界だけならば不可能だと断じていただろう。

 しかし四災を解放したいまならば、手立てはあるはずだ。これから世界がどのように変化するのかは未知数だが……古代に生きていた者たちは呪詛を使えたと聞く。

 元の姿に世界を戻したのなら当然、呪詛についても知る機会だってあるはずだ。悲観することは何もない。


 先に行ったヨエルの背中を追いかけて、フィノはマモンを抱きかかえると長い道のりの帰路を行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ