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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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決着のとき

 

 フィノの予想を裏切って、四災は女神が助言したその後の話をする。


「……元の姿?」

「そうだ。人間たちが望んだ結果が今の世界。それをすべてなかったことにするべきだ、というのが彼女の意見だ」


 女神の言う元の姿に戻すとは、まだ四災たちがすべて地上にいて四つの種族が存在していた古代の時代の話だ。

 その時の環境に世界を戻すべきだと、女神は主張している。これにはフィノも驚いた。


「それだと人間も生きてることになる」

「そうだね」

「それ、本当に女神が言ったこと?」

「もちろんだとも」


 女神である彼女は人間を憎んでいる。それを生かすような行いをすることに疑問を感じたが……彼女が一番に成したいことは何かを考えると、その疑問も解決する。


 女神が何よりも優先したのは、彼女の友人でもある四災の置かれている環境だった。彼女は四災に自由になって欲しかったのだ。人間たちに縛られず、理不尽な扱いをされないように。


 四災にとっては人間の行いなど眼中に無い。どんな扱いをされてもどうでも良かったのだろう。

 しかし女神である少女はそれを受け入れられなかった。どうにかしたいと思ってしまったのだ。


 そして、どうすればこの状況を打開出来るのかを考えた。結果、彼女が導き出したのが世界を元の姿に戻すこと。

 つまり……無人の四災を解き放って、他の四災を大穴の底から出す。


 その結果がどうなるか……未知数ではあるが、フィノにも少しは予測がつく。

 四災をすべて解放すれば地上に溢れていた瘴気はなくなり、無人の四災の独断行動もある程度制御出来るだろう。

 おそらく、人間たちの望みを見境なく叶えるような状況にはならないはずだ。


 そして――


「そうなったら女神はどうなるの?」

「うん? そうだなあ……私はこのままでも良いと考えているけれど、彼らはそうとは限らないだろうね」

「彼ら……?」

「私が大穴の底に押しやった上位者たちのことだ。女神の存在そのものを彼らは許しはしないだろう」


 無人の四災の言葉に、フィノは思い当たる節があった。

 彼だけなのだ。女神を悪し様に言わないのは。他の四災は明確にその存在に嫌悪を抱いていた。

 彼らが地上に戻ったのなら、女神をそのままにしておくとは思えない。彼女が消えてしまえばこの世界の理である魔法も消えてしまうかも知れない。いや、それ以前にもっと恐ろしい事になりかねない。


「あなたはそうなったらどうするつもり?」

「どうする、とは?」

「……た、助けてあげないの?」


 あの少女は彼を想ってこんな事をしたのだ。そこにどんな気持ちがあったのか、なんてフィノにだって理解出来る。

 それなのに当事者である四災は他人事なのだ。


「助ける? どうしてそんなことをする必要があるんだ?」

「え?」

「確かに昔、色々と関わりはあった。けれどそれはあくまでも彼女が人間で、私に望んできたからだ。そうであったのなら私は無条件に手を貸す。けれど今の彼女は女神に成った。人間とは別の生物だ。もはや私の管轄外。それがどうなろうと私には何の関係もないね」


 悪びれもせず、飄々と四災は語る。

 彼の言動は女神がどうなろうと知ったことではない、何があっても助力はしないというものだった。


 それを聞いて、フィノは絶句する。


「と……っ、ともだちじゃないの!?」

「私は一言もそうだと言った覚えはないよ。ただの勘違いだ。私にとって彼女は特別でも何でもない。有象無象の人間の一人。それが勝手に私の傍に来て、過ごして、望んだだけのこと。それを特別扱いされたと思い込んだだけだろう?」

「っ、そんな」

「ああ、でも彼女は案外気にしていないかもしれない。そういうのに拘らない性質だったからね」


 ハハハ、と笑って、四災はだから――と続ける。


「君が抱く懸念事項は憂慮だ。私は彼らと事を交えるつもりはない。そんなことをしたら地上がどうなるかなんて、わかるだろう?」


 四災はフィノの不安を的確に言い当てた。

 彼が女神の味方であったら……他の四災と敵対するかも知れないと考えたのだ。そうなれば最悪の事態になる。

 上位者の存在は定命にとっては天災よりも恐ろしいもの。人智を越えた存在に暴れられたらその時点で終わり。どうすることだって出来ない。


 けれど無人の四災の口からその可能性は否定された。

 彼らもせっかく創った世界を壊したくないのか。修復不可能な損壊を負わせるつもりはないらしい。


『それで、世界を元の状態に戻した後、お主はどうするつもりだ?』


 ヨエルを肩車したまま、鎧姿のマモンは四災へと問う。


 今の世界の在りようは、無人の四災が人間に干渉したからだ。彼の行いがすべての引き金。それを辞めない限り、世界はまた同じ歴史を歩むことになりかねない。


「私の目的は変わらないよ。被造物である人間の進化。それは未だ途上だ。諦めるつもりはない」

「じゃあ、また同じことをするつもり?」

「いいや、それはないね。彼らとは適度に距離を置くつもりだ。それがどんな結果を生むかは知れないが……また同じことを繰り返すと、上位者の彼らも黙っちゃいないだろう。今度は私が永久に大穴の底に押し込まれるかもしれない。流石にそれは私も御免だ。退屈で死にそうになる」


 笑って言うと、無人の四災はゆっくりと身じろぎをした。


「これで君たちの疑問にはすべて答えられたかな?」

「ん、うん。後は何も……ない、と思う」


 フィノが望むべくもなく、無人の四災の行動は瘴気をなくすことに繋がる。それがわかれば後は何も望まない。

 今ここで、四災を解放すれば……すべてが終わるのだ。


 そう思っていた矢先――


「それだけは……それだけは許してなるものか!」


 突然、怒声が暗闇に響き渡った。


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