隠された真意
最後に少しだけ加筆しました。
まずは四災の目的を突き止めなければならない。
フィノは話が一段落ついたのを見計らって問いかける。
「あなたの目的はなに?」
「……目的?」
すると無人の四災はフィノの問いにオウム返しで答える。難しい質問ではないはずだ。けれど彼はどうしてかその意味を理解出来ないとでも言いたげだった。
「君のそれは漠然としすぎて何を指しているのかわからない」
「う……そっか」
至極真っ当な答えにフィノは言葉に詰まる。彼の言う通りだ。
そこでフィノは質問を変えた。すべてを一気に知ろうとするのは愚策である。一つずつ詰めていくのが今は賢いやり方だ。
「どうしてこの場所にいるの?」
「私がここに籠もっているのは、ある約束の為だ。それがある以上、私が自力でここから出ることはない。どうしてもと頼まれたなら別だがね」
「じゃ、じゃあ! 私が頼んだら!?」
「もちろん、従おう」
あっさりと快諾した四災の返答にフィノは瞠目した。拍子抜けしてしまうほどにすんなりと事が運んでしまった。嬉しさ半分、驚きもある。
彼が快諾してくれたおかげで、フィノがここを訪れた目的は達成されたも同然だ。けれどあまりにもこちらにとって都合が良すぎる。
ログワイドが無人の四災を大穴から解放しなかったこともある。諸手を挙げて喜んで良いものか。
『怪しすぎる。素直に信じるのは早計かも知れんぞ』
用心しろとマモンは言う。
腹の底が知れぬ相手だ。警戒するに越したことはない。
相手の言動に目を光らせていると――
「もとより君はその為にここを訪れたのだろう?」
「……え?」
予想外の返答に頭がまっしろになった。
どうしてそれを知っているのか。無人の四災をこの場所から解放するのが目的だが、それを明かした覚えはない。それなのに、彼はドンピシャで当ててきた。
「どうして……」
「それにこうなることは初めから予言されていた。私はその時が来るのをこの場所で待っていただけだ。残念なことに二千年前も、十年前もそれは叶わなかった。しかし君は私に会いに、自らの意思でここに来た。何に置いてもそれが重要なんだ」
四災は奇妙な事を言う。
初めからこうなることを予期していたこと。そして、自らの意思で無人の四災に会いに来ること。それが何よりも重要なのだと。大事な事だと彼は言う。
「……予言?」
「予言といっても大層なものじゃない。息を止めたままでは窒息して死んでしまうのと同じ。必ず実現するものだと彼女は言うんだ。そしてそれはやはり外れなかった。この五千年、邪魔は入ったが……君が私をここから解放するのなら、それすらも些細な問題だ」
彼女、というのは女神のことで間違いないだろう。
それが四災にいずれこうなるのだと言って、彼はその通りに今まで大穴の底で待ち続けていた。
要約するとこうなる。けれど、それでは矛盾が生じてしまう。
女神の予言では、いずれ四災はこの大穴から外に出る事になってしまう。それは女神にとって不利に働く。
マモンの助言もあって、女神の目的は一貫して定命……人間への復讐だと答えが出た。それとこの予言は明らかな矛盾を孕んでいるのだ。
無人の四災が解放されたのなら、地上を瘴気で覆うことは不可能になる。その時点で女神の計画は破綻する。それなのに、女神は四災を大穴に留めることはしないでここから出て行けと言うのだ。そして彼もそれを望んでいる。
「……どういうこと?」
無人の四災が女神と関わりがあるのなら、彼女の計画に彼が無関係とは思えない。この前提は覆ることはないはず。となれば、その他が間違っているということになる。
『ううむ……これは悩むより聞いた方が早いかもしれんな』
マモンでもこの疑問の回答を出せないらしい。
せっかく当事者が目の前にいるのだ。悩んでいても埒があかないし、ここは素直に聞いてみるのが一番である。
「聞きたいことがある」
「何かな?」
「女神は何をしようとしているの?」
今この段階で一番の不確定要素は女神について。先にそれを明かしてしまおうという魂胆だ。
フィノの問いに四災は躊躇うことなく情報を開示してくれた。
「根本にあるのは人間への復讐だよ。けれど彼女はそれに固執してはいない。だから復讐は目的には成り得ないんだ。彼女の真の目的は、私をここから解放することにある」
四災の口から話された真実に、フィノは度肝を抜かれた。
彼が嘘を吐くとは思えない。だから、これは真実だ。けれどあまりに予想外すぎて思考力を根こそぎ奪っていく。
女神の目的が無人の四災をここから出すことならば、ログワイドの行動にも納得がいく。けれどここで疑問が出てくる。
「あ、あなたは自分の意思でここに入ったの?」
「いいや、私がこの大穴の底にいるのはそうしてくれと頼まれたからだ。そもそも、その必要もなかった。だが望まれては断れない。女神と言えどもかつては人間。庇護対象だったからね」
無人の四災は女神との契約を果たしてここに居るだけだ。けれどその女神は四災を大穴にずっと閉じ込めておくつもりはなかった。
だったらどうしてそんなことをしたのか。
「なんでそんなこと……」
「さあ? 私には人間の心の機微は知れないよ」
あっけらかんとして、彼はわからないと答える。
一連の騒動の鍵を握るのは、無人の四災ではなく女神だった。彼女が何を想ってこんなことをしたのか。それを知らなければ、真の解決には至らない。
無人の四災は女神の考えはわからないと言う。けれどそれは彼の主観で物事を見ればだ。
「私はあなたをここから出すつもり。でもその前に聞いておかないといけないことが沢山ある」
「ああ、いいとも。何でも聞きたまえ。拒みはしないよ」
彼は快く承諾してくれた。それに安堵して、フィノはまず彼に何を尋ねるべきか考える。
やはりここは新たな情報よりも、今知り得ているものが本当に正しいのか。それを確認するのが最善だろう。
マモンが無人の四災と会った時に聞けなかったことが沢山あった。まずはそこから潰していく。
「二千年前に会った人のことを知りたい」
「二千年前……ああ、良く覚えているよ。あの森人……ログワイドと言ったかな。面白い事をいう輩だった」
昔を思い出したのか。四災は楽しそうにかつての話を語る。




