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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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先客の妨害

 

 国王から書状を貰ったフィノはヨエルと合流すると王都を出た。目的地は虚ろの穴がある祠だ。


 去り際に簡単な別れの挨拶を済ませると、三人はまた会いに来てくれと笑って送り出してくれた。

 ヨエルも彼らとの城内探検が楽しかったようで、祠に向かう道中はその話ばかりだ。


『ははは、そんなに楽しかったのか?』

「うん! 冷たい風がでてくる道具とか、あとあったかい水が出てくるのもあった!」

「あれはアルマも見たことがない。とても興味深いものだ」


 フィノはヨエルが嬉々として語る話を、なるほどと思いながら聞いていた。

 ロゲンが作った色々な魔道具……あれを実用段階まで創り上げるのは相当な苦戦を強いられたはずだ。


 魔法技術も然り。ゼロから何かを生み出すのは難しい。それはフィノも匣の作成に苦労したから実感している。きっとフィノにはそういった作業が向いていないのだ。

 けれどロゲンはそれを楽しんでやっている。いわゆる天職というやつなのだろう。


 本来ならば魔法技術はもっと早くに進化を遂げているはずだった。それを阻んでいたのは他でもない世界が創り出した悪しき慣習が原因だ。

 魔王という脅威がなければ、人々は争いに目を向けずより良くなるための努力を惜しまなかっただろう。今は魔王が討たれた為、まだまだ色々な問題は尽きないが、世界は良い方向に進んでいる。


 きっと、これから先はもっと良くなるはずだ。



「そうだ。アルマに聞きたいことがあったんだ」

「かまわない」

「女神についてなんだけど……」


 国王からの話をふまえて尋ねると、アルマは無言でかぶりを振った。


「それについては殆ど知らない」

「んぅ、そっか」


 だが――と、アルマは続ける。


「女神は元人間だった。今のあれは人間が進化を果たしたもの。その形がどうであれ、本質は変わらないはずだ」

「……どういうこと?」

「アルマはどう変化してもアルマだ。この身体が生身の生物に変化することはない」

『つまり……どれだけ進化しようとも元は人間であれば、命を絶つことは出来るはずだ、ということか?』

「そうだ」


 アルマの話を聞いてフィノは腕を組んで思案する。


「いちおう、殺せるってことかな?」


 例え殺せずとも四災をすべて解放してしまえばどうにかなるとフィノは考えている。もしかしたら女神を殺さなくても良くなるかもしれない。

 国王の目的は女神を殺すことではなく、教会の権威を失墜させたいだけだ。その為に突飛もないことをフィノに頼んだわけだが……目的がそれならば手段は他にもある。


『だがなあ。こうして書状は貰ったわけだ。最悪、約束を反故にしても問題は無さそうだ』

「んぅ……」


 マモンの言うことにも一理ある。けれど国王との信頼関係は築いておいた方が何かと得だろう。どうしても無理だとわかるまで無碍には出来ない。


「約束破るのはダメだよ!」

『あ、ああ……そうだな』


 すぐにヨエルに窘められてマモンは首を竦めた。無敵の魔王様もこれでは形無しである。




 ===




 二度目の訪問――虚ろの穴の祠に赴くと、入り口を守っている兵士に国王から貰った書状を見せる。

 すると彼らは顔を顰めつつも道を空けてくれた。


「上手くいったみたい」

『うむ……しかし、ここからが正念場だ』


 フィノの目的は無人の四災を大穴から解放することだ。けれど、彼にどんな目的があるのかは一つも知れていない。もしそれがこちらにとってどうあっても許容出来ないものであったら……振り出しに戻る可能性もあるのだ。それ以前にこちらの望みを聞き入れない可能性も有り得る。


 つまり四災相手にどう立ち回るかが重要になってくるというわけだ。

 マモンもアルマも居るけれど、最終的な決定を下すのはフィノの役目である。責任重大だ。緊張が身体に重くのし掛かる。


 それを振り払うように、フィノは祠の石扉を開いた。



「……うん?」


 物音を聞いてこちらを振り返ったその人は、怪訝そうな眼差しをフィノに向ける。

 石扉を開いた直後、見えた内部。大穴の淵には誰かが立っていた。その人物は身体をすっぽりと覆うローブに身を包んでいる。


 あの服装は……教会にいる神官や僧侶が着ているものと似ていた。


「君たちは誰かね? どうして私の許可なしにこの場所に侵入している?」

「それは――」

「誰であろうと、どんな理由があろうとこの場所に部外者を入れるわけにはいかない」


 男はそう言うと、片手をあげた。

 すると、石扉前に待機していた兵士たちが中に入ってきて、周りを取り囲まれる。


『これは……どうする?』

「うん、従った方が良さそう」


 小声で答えてアルマにも目配せする。

 ここで無為に争う必要は無い。抵抗するだけ無駄だろう。

 それに、フィノの予想が当たっていれば目の前の男はリエルが言っていた大司祭出間違いないはずだ。彼女の話ではいま王都を離れていると言っていたし、あんな物言いが出来るのは彼くらいしかいない。

 当初の予定では大司祭に用があったのだ。ここで会えたのは僥倖と捉えるべき。


 抵抗する事なく兵士の指示に従って、連行されたフィノたちは再び王都の大聖堂まで戻ってくることとなった。


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