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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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笑顔のつくりかた

 

 湧き出た疑問は一先ずこのままに、王城へと着いたフィノは国王へと謁見を申し出た。

 アロガやロゲンの口添えもあり、突然の訪問にも関わらずすぐに取り合ってくれることになった。


 その間、手持ち無沙汰になるであろうヨエルの相手は、三人が務めてくれる。


「大事な話があるから、ヨエルはここで待ってて」

「う、うん……」


 少し前までお城の中を探検するんだと意気込んでいたヨエルは、どうしてか元気がない。その理由はマモンと一緒に居られないからだ。

 念のため、マモンにはフィノと行動を共にしてもらう。その間のお守りとして、あの三人にヨエルの遊び相手を頼んだのだ。

 けれど、少年にはそれが少し不服だったようだ。


「なんだか元気がありませんね」

「アロガがしつこく迫るからですよ。だからあれほど、ほどほどにしろと言ったじゃないですか」

「俺のせいか!?」


 しょんぼりと肩を落とすヨエルを見て、なんとか機嫌を直して貰おうとフィノも言葉を尽くす。

 それでもやっぱり乗り気ではないみたいで、怒ってはいないけれどしょぼくれている。

 どうにもならないとフィノがお手上げ状態でいると、それを見ていた三人は顔を見合わせて一つ頷いた。


「ロゲン、アレやってみせろ」

「試作一号、ついにお披露目の時ですか!」


 自信たっぷりに宣言したロゲンは、羽織っていたローブの内側から何やら道具を取り出した。

 手のひらサイズの皮袋に、小さな丸い玉。軽い材質で出来たそれの上部には穴が空いており、ロゲンはそれをヨエルに手渡した。


「穴を上向きにして、これを持っていてください」

「? うん」


 訳もわからないヨエルを置いて、ロゲンは皮袋の中に手を突っ込んだ。彼が握り込んで取り出したのは何かの粉だ。

 細かい粒子のそれを一度ギュッと握りしめると、穴の中に入れていく。


「……これなに?」

「とっても面白いものですよ。でも不安定なものなので、強く動かしたり落としたりしないでくださいね」


 ロゲンの忠告にヨエルは身体を強張らせた。その背後で、フィノも興味津々に事の成り行きを見守る。

 一部始終を観察しているが、ロゲンが何を作っているのか。フィノにも知れない。

 けれど、玉の中に入れているあの粉に、少しだけ見覚えがある。


「そんなに危ないものではないので、安心してください」


 ロゲンの脅し文句を訂正するようにリエルが横から一言。

 何を作っているのか不明のまま、ロゲンは再び粉を取り出すと玉に詰めていく。黙々と作業をするその様子をじっと見つめて、フィノはやっとあれの正体がわかった。


「あの粉って、魔鉱石?」

「よく解りましたね。流石です」


 フィノの呟きにロゲンは満足げに頷く。

 正確には魔鉱石もどきである。あの粉は魔鉱石が結晶化せずに粉々になったものだ。使い道はなくフィノも特に気にも留めていなかった代物である。

 それを使っていったい何をするつもりなのか。


 玉に粉を詰め終えて準備を終えたロゲンは、その穴に布を詰めて塞ぐ。


「それじゃあこれを上に思い切り投げてください」

「えっ、でもあぶないって」

「いいから」


 ロゲンの押しに負けて、ヨエルは振りかぶると思い切り玉を放り投げた。

 けれど子供の腕力で投げられたそれは、そんなに飛ばずに少し空中に滞空したと思ったらすぐに落ちてきて地面に転がった。


「あっ」


 ゴンッ――と、音を立てて落ちた玉を見てロゲンは一瞬固まった。表情がこれはヤバいと言っている。

 落ちた玉を見ると、少しだけ膨張しているようにも見えた。咄嗟にヨエルの手を引いたフィノだったが、それよりも先にアロガが玉を引っ掴むと――


「オラァッ!」


 全力で投げた玉は、王城の高い天井に届きそうなくらいの高さまで打ち上がった。それと同時に、衝撃に耐えきれなくなったそれはボンッ、と爆発する。


 小爆発の後、それは中に詰めた魔鉱石の粉を撒き散らす。

 けれどロゲンの小細工のせいだろう。降ってくる粉は空中を漂いながら微かに発光していた。

 薄暗い天井の影と相まって、夜空に浮かぶ星のようでもある。


 これにはヨエルはもちろんのこと、フィノも目を奪われた。


「ふう、危なかったぜ」

「助かりました……今のは少しヒヤッとしましたよ」


 あぶないあぶない、と額の汗を拭ってロゲンはほっと息を吐く。

 先ほどリエルが危険なものではないと言っていたけれど、まったくのデタラメだったわけだ。

 適当というか、彼らの言動にはたまにこういう時があっておちおち信じて良いものか判断に困る。

 けれど、結果的には何の問題もなかったわけだ。


 隣にいるヨエルが目を輝かせてとても嬉しそうにしているのだから。


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