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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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やり残した心残り

 

 ルトナーク王国までの旅はフィノが予想したものよりも快適なものだった。


 以前ならば野営時の不寝番はフィノが率先してやっていた。マモンも本調子でなかったし、出来るのがフィノくらいしかいなかったからだ。

 けれど今回の旅……アルマが同行してくれたおかげでそういった心配がなくなった。


 マモンと同様にアルマも睡眠は必要ない。一晩中起きていられる彼らに見張りを任せて、野営時にはフィノも充分な休息を取ることが出来た。

 おかげで陽が昇っている日中は万全な状態で進めた。


 ヨエルがへばってしまったらマモンに背負ってもらい、出来るだけ野営の回数を減らす。いくら休める場所を確保出来るとは言え、子供に何日も野宿を強いるのは酷である。


「フィノ……まだつかないの?」

「んぅ、っと。もう少し」


 ヘルネの街を出たのは一日前。

 今は迷いの森を進んでいる。もう少しで出られるとフィノが言った、その一時間後。やっと森の出口が見えてきた。


『ほら、抜けられたようだ』

「ぼくもう疲れたよ」

『途中から己が背負ってただろうに』


 軽いマモンの小言に、ヨエルは彼の背で丸まったまま下りようとしない。

 ここ数日の野宿で疲れ切っているらしい。途中で寄ったヘルネの街でも宿に泊まらずそのまま街を通り過ぎたのだ。やはり無理をしすぎたみたいだ。


『これは街で一泊した方が良さそうだなあ』

「うん」


 迷いの森を抜けて、街道を進みながらフィノは背嚢から地図を取り出した。


『ここからどこに行くのだ?』

「まずは王都の前にある、ダラムって街に行く。ここから街道を進めば着けるはず」


 でも――と、フィノは言葉を区切った。


「その前に寄りたい場所がある」

『寄りたい場所?』

「そこに用事はないんだけど、気になって」


 その場所に心当たりがないマモンは首を傾げる。ヨエルは彼の背中で丸まって、いつの間にか寝息をたてていた。


 フィノの目的地はここから一時間ほど歩いた場所にある。ちょうどダラムとの間に位置する。寄り道と言ってもついでだ。まだ日暮れまで充分に時間もある。



 そこはフィノも一度訪れたことがある。

 十年前、ユルグを追いかけて、やっとのことで追いついた。ユルグとミアが育った故郷の村だ。

 あの時は見るも無惨な廃村だった。

 けれど、十年経った今。フィノが訪れたそこは、小さいながらも村として再興していた。


「人いるね」

『うむ……十年も経ったのだ。変わりもするだろうなあ』


 村の様子を眺めながら、フィノは村の外れにある墓場に足を運ぶ。フィノがずっと気になっていた場所はここだった。


 あの時、ユルグは墓参りに立ち寄ったのだと言っていた。彼の口振りではちゃんと挨拶も出来なかったのだろう。だからフィノも気になっていたのだ。

 例え既に死んでしまった人でも、誰かの大事な人だった。それを蔑ろにしていい理由はない。


 二人の両親の墓を探し当てたフィノは、花でも供えようと周囲を見渡す。しかしこんな時に限って見つからない。


「フィノ、どうしたの?」


 困っているとマモンの背で目を覚ましたヨエルが尋ねる。


「んぅ、どこかに花が咲いてないか、探してる」

「おはな?」


 フィノの話を聞いて、ヨエルは少し考えた後マモンに降ろしてもらった。そして脇目も振らずにアルマのそばに寄る。

 何をするつもりだろうと見守っていると、ヨエルはアルマに持たせていた背嚢からある物を取り出した。


「これ、フィノにあげる」

「……いいの?」

「レシカにあげたの、あまったから」

「うん。ありがとう」


 ヨエルがフィノに渡したのは、以前作った押し花だった。

 綺麗な色合いのそれは、押し花としてはしっかりと作られていてお供え物としても充分だ。


「このお墓、だれの?」

「ユルグとミアの両親のって言ってたから……」

『ヨエルの祖父母になるな』

「おじいちゃんとおばあちゃんかあ」


 自分に祖父母がいるとは思っていなかったのだろう。ヨエルは驚きつつも、それを受け入れている。

 墓があると言うことは、もう死んでいるということだ。子供ながらにその事実をちゃんと理解している。


「ぼくの大事な人、みんないないんだね」


 どこか寂しそうな呟きに、フィノはどきりとした。

 いずれヨエルの傍から離れなければならないと決意している。それを見透かされたように感じたのだ。

 言葉もなく黙っていると、それを聞いたアルマが珍しく開口する。


「君は祖父母と親しかったのか?」

「ううん。どんなひとかも知らない」

「ならばどうして悲しむ必要がある?」

「えっ、……ぼくの家族だから」

「どんな人物か知らなくても、家族であれば悲しいのか?」

「うっ……わかんないよ。むずかしいこと言わないで!」


 アルマのしつこい追求を逃れて、ヨエルはマモンの元へ戻っていく。

 けれど、アルマもヨエルを困らせたかったわけではない。ただ疑問を解決したいのだ。

 喜怒哀楽の感情を、アルマは未だ掴めていない。辛うじてヨエルが悲しんでいることは知れたが、どうしてそこに至ったのか。それがアルマには理解出来ないのだ。その証拠に、ヨエルに拒絶されたアルマは何を言うでもなくじっと考え込んでいる。


 二人のやり取りを遠巻きに眺めて、フィノはヨエルに貰った押し花を墓に供える。

 フィノがこうして代わりにしても、意味はないかもしれない。

 けれど、せめて師匠が叶えられなかった心残りであるならば。出来るなら叶えてあげたい。そう思ったからこその寄り道だ。


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