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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第九章
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手段と目的

 

 アルマの証言に、マモンはある事を思い出していた。

 確か……女神は元々人間だった、というもの。四災はそう言っていた。これと照らし合わせると、アルマの語りも嘘とは断言できない。


「女神様って人間だったの?」

「そう聞いている」

「ふーん。どうやったら神様になれるんだろ」

「それはアルマにも解らない」


 ヨエルの質問に、アルマはかぶりを振った。

 どうやら事情を知っているアルマでも全てを網羅しているわけではないらしい。


『おおよそは予測がつく。無人の四災とやらに望んだのだろう。神になりたいなどと……不相応な願いだ。思い上がりとはよく言ったものだな』


 上位者である存在に神にならんと欲す。それを愚行と呼ばずになんとするのか。

 それを望んだ人間は、きっと四災と同等の力を欲したのだろう。しかし、上位者である彼らには自らと同等の存在を生み出すことは、禁じられている。

 どうあっても、神とやらには成れないわけだ。


『だがそやつも女神と呼ばれ崇められているのだ。本望だろうよ』

「……なぜだ?」

『女神が生まれたのは五千年前、四災がすべて封じられた後と聞いている。上位者に代わり世界を支配したかったのなら、女神の目的は達せられているのではないか?』


 神に成りたいと望んだ。その動機はしれないが、突き詰めて考えればその答えに行き着く。そもそも、それ以外に確たる理由が思い浮かばない。

 何の野心も抱かずに神に成りたいなどと言う輩はいないのだから。


 しかし、マモンの考察をアルマは否定した。


「それは勘違いをしている」

『……なんだと?』

「人間が女神に成ったのは、目的ではなく手段だ。その先に何かしらの大願がある。マスターはそのように予測をつけた」


 アルマの言に、マモンは開いた口が塞がらなかった。

 まったくの予想外の展開。目的ではなく手段だと彼は言った。つまり……女神の目的は未だ、達成されていない可能性もあるのだ。


『……っ、なんということだ』


 話を聞いて、マモンは唸り声をあげる。彼の頭の片隅にはある推察が渦巻いていた。

 ログワイドがどうしても阻止したかったこと。それが女神の目的そのものならば、未達の可能性だって信憑性を増す。


 ログワイドがマモンを創り出して、二千年。その間に世界が大きく変わった様子は見られない。だからこそ、マモンは確信していた。


『おぬしの主人はそれに当たりをつけなかったのか?』

「マスターでもそこまでは探れなかった。あくまで予測だ」

『そうか……』


 結局進展はないまま。女神の目的は知れない。けれど今まで知り得た情報を集めると、少しばかり見えてくる気がする。


 女神が成したであろうことは、四災を大穴に封じ魔法を創りだした。しかしこれらは女神の目的には成り得ない。その先にまだ何かあるのだ。


『ううむ……わからんなあ』


 そうした、ということはそれに意味があってのことだ。けれど点と点を繋げられない。

 唸っているとヨエルが気の抜けた声を上げた。


「神様かあ……たいへんそうだね」

「なぜだ?」

「だって、みんなのお願い、聞かなきゃダメだもん。たいへんだよ」


 ほら、とヨエルは祈りを捧げている人達を指差した。


「みんなのこと、好きじゃないとできないよ。ぼくはムリ!」

『……好きじゃないと出来ない?』


 何気ないヨエルの会話に、マモンはある事を想起する。

 女神は定命が嫌いであると。もしそれが本当のことで、恨んでいたのならば……女神が成したことはすべて、逆の結果を招くのではないか?


 よくよく考えてみれば、その可能性も大きい。

 四災を大穴の底に封じたのは、最初は人間たちの意思によるところだ。けれど、彼らは最後に残った無人の四災ですら封じてしまった。その結果、瘴気が世界に溢れて自分たちの首を絞めることとなった。


 女神のもたらした魔法も、それと似たようなものだ。

 竜人(ヤト)の四災が言っていた。呪詛を廃して、魔法を生み出した。唯一瘴気をどうにか出来る方法を棄てて、魔法を確立させたのだ。

 偶然ならばいいが、もしこれが知っていて行ったことだというのならば……そこには確実に悪意がある。定命……いや、人間にたいしての底知れぬ悪意だ。憎悪と言ってもいい。


『もしかすると、今まで見えていたものはすべてが真逆であるのかもしれない』


 この事実に気づくのが遅れたのは、それらが上手く巧妙に隠されていたからだ。初見ではまず気づかない。

 表向きでは女神は定命に尽くしている。魔法が最たるものだ。これのおかげで人々の生活は遙かに向上した。


 しかし、それらはすべて表向きの欺瞞である。

 真実はさらにどす黒く、おぞましいものであるかもしれない。その片鱗がいま、眼前に顔を出しつつある。


『だが……どうしてそこまで人間を恨む?』


 マモンが気になっているのはそこだ。

 アルマの話では女神は元々人間だった。同じ穴の狢。ともすれば、同族を皆殺しにしかねないほどに、抱える憎悪は激しいもの。

 何があってそこまで憎悪を滾らせるのか。マモンにはいくら考えても理解出来ない境地だ。


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