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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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一縷の望みを掴み取れ

 

 眼前に立ち塞がったプロト・マグナ相手に、どう対処するべきか。フィノは思案する。

 しかし悠長に考えている暇もない。


 向こう側では不死人の大群が迫ってきている。あの数に襲われてはマモンだってヨエルを守りきれるかわからない。

 そもそも未だヨエルは男の手の内にあるのだ。まずはあれをどうにかしなければ!


 つまりフィノには呑気にこれの相手をしている余裕はないのだ。


「――っ、うわっ!」


 しかし、逡巡する暇も与えないとでも言うように背後から不死人が襲いかかってくる。

 それを紙一重で避けたフィノは、構えていた剣で不死人を斬り付けた。


 けれど手応えがあまりにもない。それに少し斬り付けたくらいでは彼らの足は止まらなかった。

 どれだけ損傷を与えても彼らには痛覚も存在しない。かつ瘴気に冒された身体はすぐに再生してしまう。厄介な相手だ。そしてそれは、フィノだけに言えることではなかった。


「まったく、邪魔くさい奴らだ」


 不死人は見境なく襲いかかってくるようで、プロト・マグナにも群がっている。

 これには彼もうんざりしているようだ。怪力で手足を吹き飛ばしても、頭を潰しても起き上がってくるのだから文句の一つも言いたくなる。


 とはいえ彼は苦戦している様子もない。不死人だって適当にあしらっているといった風だ。

 立ち塞がるなら打ち負かすだけだと勇んでいたフィノだったが、そうそう上手くはいかなさそうだ。


 どうやって仕掛けるか。襲い来る不死人をいなしながら思案していると、突然、誰も予期していなかった事が起こった。


 何を血迷ったか。ヨエルを抱えていた男が、自分から大穴に飛び込んだのだ!


「――っ、ヨエル!?」


 突然の事にフィノは目を見張った。まさかあんな行動に出るとは夢にも思わない。

 それはマモンも同じだ。しかし彼はフィノよりもいち早く行動に移った。大きな獣の姿が一瞬で消えたのを見るに、マモンはすぐさまヨエルの元へ向かったのだろう。


 マモンの瞬時の判断にフィノはほっと息を吐く。けれどだからといって静観している余裕はない。

 すぐさま大穴の淵に向かおうとするが、それをプロト・マグナは許さなかった。


「私の相手をしてくれるのではないのか?」

「っ、邪魔しないで!」


 尚も立ち塞がる彼に、フィノは声を荒げる。

 フィノが苛立つ理由を察したプロト・マグナは、悠然と語りかける。


「今更追いかけた所で手遅れだ。お前では同じ場所には辿り着けない。もちろんそれは、私にも言えることだがな」

「それって……」


 彼の話は森人の四災の話と似通ったものがある。大穴の最奥に向かえ、というものだ。

 しかし彼の話すそれは厳しい現実を突き付けてくる。


「あそこに落ちてしまったのなら、最早助ける術はないということだ。自力で戻ってくる他はない」

「そっ――そんなの嘘だ!」

「私がお前に嘘を吐いて何の得がある?」


「くだらない」と彼は一蹴した。


 反応を見るに、彼はフィノのように焦った素振りは見せていない。

 ヨエルが辿り着く場所が安全であると知っているからか。それとも別の理由があるからか。


 どうあっても彼にとって魔王の存在は無視出来ないものだ。興味を抱いているし、手に入れたいと欲している。それをむざむざ棒に振ることなどしない。

 彼の態度が全てを物語っているとフィノは結論づけた。ヨエルの心配はいらないと、そういうことだ。


「まあいい。あれが戻ってくるまで待てば良い話だ。そうなると……私にとってお前は邪魔者というわけだ」


 プロト・マグナはフィノを指差して宣言した。

 彼の目的は魔王の奪取。それを邪魔するフィノの存在を快く思わないのは当然である。

 どうやら彼はフィノを排除すると決めたらしい。これ以上の交渉は無意味。何を言っても取り合ってはくれないだろう。


 彼の話が本当ならば、ヨエルを助ける術はなく自力で地上に戻ってくることに賭けるしかない。フィノには待つ以外の選択肢はないのだ。

 とはいえ、それを許さないのが目の前にいる。


 だとしたらフィノが取れる行動はひとつしかない。


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