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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第八章
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予想外の連続

 

 馬の背に揺られる中、ようやく目的地に到着する。


「ここからは徒歩でいく」


 馬から降ろされたヨエルは、目を見開いた。

 目の前には鬱蒼と茂った森林。

 どうやらここがスタール雨林と呼ばれる場所の入り口らしい。


 みとれていると、男はロープ片手に近寄ってきて手足の拘束を解いていく。


「この雨林は危険な場所だ。一応拘束は外しておくが、俺の目を盗んで逃げても迷って死ぬだけだからおすすめはしない」


 逃亡防止として左手首にロープを括って、手綱を握られる。これならば数メートル、自由に行動出来る。

 しかし、男がこうしてヨエルの行動をある程度緩和したのは、自分の手で守りながらここを抜けるのは厳しいと判断したからだ。


 つまり、男の言葉は偽りではなく国境越えは至難であるということ。


「おじさん、マモンも一緒じゃダメ?」


 ダメ元で聞いてみると、男は熟考し始めた。

 すぐにダメだと言われると思っていたが、どうやら一考の余地はあるらしい。


「雨林に入ってしまった後なら、まあいいだろう。だが、妙な真似は起こすなよ? どうせ逃げ出したところで助けてくれる奴なんざいないんだからな」


 雨林での危険性を加味して、男はヨエルの提案をのんだ。

 思ってもみない展開に、ヨエルは戸惑いながら頷く。




 ===




 男が先頭に立って、手綱を引かれながらヨエルもスタール雨林へ足を踏み入れた。

 少し歩くと彼の言葉の意味がヨエルにもはっきりとわかった。


 この場所は到底人が生活出来る場所では無いのだ。

 高温多湿な環境に、足元だって起伏が激しく歩きづらい。加えて鬱蒼と茂った深林は、最初こそ目を奪われるが、一歩足を踏み入れた途端、薄暗く不気味な雰囲気が漂っている。


 この場所を延々と歩き続けるのは子供には過酷である。

 男の忠告を今更ながらヨエルは実感していた。確かに、こんな場所で逃げ出しても迷って野垂れ死ぬのがオチだ。


「よし、そろそろ良いか」


 男から許可をもらって、ヨエルはマモンに声を掛ける。すると黒犬がヨエルの足元に湧き出てきた。

 それを確認して男は再度忠告をする。


「いいか、くれぐれも妙な真似は起こすなよ?」

「うん」

『わかっている』


 二人が素直に従ったところで、男は前を向いて歩き出す。

 それを追いながら、ヨエルは転ばないよう足元を見ながら慎重に進んで行く。


『ヨエル、大丈夫か?』

「うん。マモンがいるから平気」


 マモンの心配を余所に、ヨエルは普段通りだった。

 先ほど戻ってきた時は明らかに様子がおかしかったが、今はそんなことは無さそうである。

 それを喜んで良いものか……しかし、相変わらず無力なマモンにはこの状況に胸を撫で下ろす他はない。


『今は奴の言う通りにしよう。ここで逃げ出しても無事に帰れる保証はないのでな』

「うん」


 ヨエルの足元を歩きながらマモンはいま動くのは得策ではないと判断した。

 過酷な環境もさることながら、魔物だって襲ってくるかもしれない。そうなった場合、マモンではヨエルをずっと守り続けることは出来ないのだ。


 情けないことだが、ヨエルの身の安全を考えるならばそれが最善である。


『しかし、奇妙だな』

「どうしたの?」

『こちらは帝国領のはずだろう? それなのに駐屯しているはずの兵士の姿を見かけていない。戦地というにはあまりにも不自然だ』


 スタール雨林が戦場となっていることはマモンも、ヨエルだって周知の事実であった。

 マモンの指摘を受けてヨエルもここまで来る間、兵士の姿を見かけなかった事を思い出す。言われてみれば確かにおかしい。


「……なんでだろ」


 二人揃って不思議がっていると、それを聞いていた男が口を挟んできた。


「確かに今は戦争中だが……いまだけ一時休戦しているんだ」

『……なぜだ?』


 予想外の答えにマモンは内心驚きを隠せない。

 しかし男はこの事実を予め知っていたようで、隠し事もせずに教えてくれる。


「一月前はこの場所でドンパチしてたんだがな」


 男の話では、戦争のため雨林の中央に補給路を確保しようと動いていたらしい。そう考えるのはどちらも同じで、その度に小競り合いは起きていた。

 それが決定的に崩れたのは、雨林の中央に建っている祠に手を出した後だ。


「詳しくは知らないが、あの祠から怪物が出てきた。魔物とも少し違うらしい。そいつが脅威だってんで、今は休戦中ってわけだ」


 経緯を聞いてマモンは唸る。

 思った以上にこの場所では良くないことが起こっているらしい。そして、マモンが抱える懸念はこれだけでは無い。


『……やはり勘違い、というわけでもなさそうだ』


 先ほど姿を現わした直後から、以前と同じ視線を感じるのだ。確実にどこからか見られている。

 先刻はこれを目の前の男のものだったと断定したが……ここまで来るとその線は無いとみて良いだろう。


 つまり、正体不明の何かがずっとこちらを……マモンを監視しているのだ。


「……どうしたの?」

『いいや、なんでもない――』


 不安を与えないように答えた直後、前を進んでいた男の足が急に止まった。


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