冒険の果て
フィノが虚ろの穴から帰還する一時間前――ヨエルとルフレオンは長旅を経て、アンビルへと辿り着いた。
「やっと着いたなあ。いやあ、長かった」
窮屈な馬車から降りたルフレオンは、盛大に伸びをする。
彼は長かったと言ったけれど、道中は特に何事もなくこれでも早く着いた方だ。
共に馬車から降りたヨエルは、初めて見る街の景色に目を奪われつつこの街に来ているであろうフィノを探すことにした。
と言ってもフィノがどこにいるかも、何をしているのかも知らない。
一人で右往左往していると、ルフレオンがこんな提案をしてきた。
「ひとまず、どこかで飯でも食べようか。それから探しに出よう」
「でも、おじさんの用事はいいの?」
「私もこの街に探している鍛冶師がいると聞いてきたが、どこにいるかまでは知らないんだ。食事のついでに色々と聞いてまわるのさ」
頼りになるルフレオンの提案に、ヨエルは頷いた。
街中は広いし闇雲に探し回っても見つからないということだ。ヨエルにもそれは理解出来るから、彼の提案を断る理由はない。
「それにしても話に聞いていたのと随分様子が違う」
「なにかあったの?」
「以前から魔物の襲撃が絶えないって話を聞いていたんだ。でも、その割には活気があるし……もしかしたらもう問題が解決したのかもね」
ルフレオンの言う通り、道行く人々は皆笑顔で嬉しそうだ。
戦争のせいもあって、帝都でも数日前に立ち寄ったヴァレンの街でも、どんよりとした雰囲気が漂っていた。
けれど、ここの住人は誰も楽しそうに笑っている。とっても良い事でもあったみたいだ。
食事を終えて、ヨエルはルフレオンと共に街にくりだした。
そこで道行く人に色々と話を聞いてみると、長い間この街を苦しめていた魔物たちの襲撃が収まったのだという。
「なるほどなあ、それでこんな。確かに良いことだ」
「それを祝って、今日と明日は宴を開くんです。良かったら参加していってくださいね」
屋台の売り子をしていた女性は、嬉しそうに微笑みながら教えてくれた。
しかし、話を聞けども肝心の情報は得られない。
「フィノ、どこいったんだろ」
「もしかしたら街の外に出ているかもしれないね」
「そっか。そういえば、街の近くに用事があるっていってた」
「それに皇帝陛下にも色々と頼まれ事をされていたんだろう? だったら、この魔物の襲撃の件だって無関係とは言えないかもしれない」
腕を組みながら、ルフレオンはある仮説を立てた。
「もしかしたら、今回の一件だって彼女のお手柄って線もあるかもね」
「そうかなあ」
「彼女、腕は立つようだし全くないとは言い切れないよ。だから、おそらくまだこの街の周辺には居るんじゃないかな」
行き違いはないはずだ、とルフレオンは言う。しかし、依然フィノの行方は知れぬままだ。
「でもどうやったら会えるの?」
「うん。こればっかりは当てずっぽうで探し回ってもすぐに日が暮れてしまうね」
彼はしばらく考え込んだあと、妙案を思いついたと手を叩いた。
「そうだ! 私の友人に会いに行こう!」
「ともだち?」
「確かこの街で兵たちの指揮を執っていると聞いてね。帝都の鍛冶師も彼の依頼でここに呼び寄せたみたいだし…もしかしたら何か知っているかも」
善は急げで、ルフレオンはヨエルの手を引くと兵の詰め所へと向かった。
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詰め所へと向かうと、駐在していた兵士に事情を話す。
この街で指揮を執っていた、隊長を務めていたというルフレオンの友人に話を聞きたいと頼んだら、兵士の彼は言い淀んだのち暗い顔をしながら打ち明けてくれた。
「た、隊長は……もう」
「……そうだったか。辛い話をさせてしまってすまなかったね」
「い、いいえ。そんなことは」
友人の訃報を聞いたルフレオンは少しの間、沈黙する。そうして、深い溜息を吐いた。
「私はまた友人の死に目に会えず終いだ」
悔しげに吐き捨てた言葉の真意をヨエルには読み取ることは出来ない。それでも初めて目にする悲しげな表情に、ヨエルは気づくと彼の手を取っていた
「おじさん、だいじょうぶ?」
「ああ、大丈夫だよ。でも、せっかく来たのに当てが外れちゃったね」
困り果てていた所に、先ほどの兵士が尋ねてきた。
「何か困り事でもあるのですか?」
「ああ、人を探していてね。話を聞きに来たんだけど……」
諸々の行方を兵士に尋ねるけれど、彼はそれに関しては知らないようだ。
「もしかしたら、兵士長ならば知っているかもしれません。隊長に代わって兵の指揮を執っていたのは彼ですから」
「そうか」
「今は出ていますから、戻ってくるまでここで待っていてください」
兵士は二人を別室に通すと、一礼して出て行った。




