一件落着
誤字修正しました。
すべてを話し終えた四災は、これ以上は語ることはないと言った。
まだ色々と聞きたいことはあるけれど……必要な情報は得られたので良しとしよう。
ともあれ、これから先フィノのすべきことが固まった。
彼の話では、ログワイドが出会った四災は、遙か西の地に居を構えたのだという。ということは……現在のルトナーク王国がある場所にいるということだ。
それだけわかれば上出来である。虚ろの穴は各国に一つずつ。消去法で考えればフィノが次に行く場所はデンベルクのスタール雨林にある大穴になる。
あの場所には良い思い入れはないから近付きたくはないのだけど……こればかりは仕方ない。
それに、現在のスタール雨林はデンベルクとアルディア間での戦争の激戦地でもある。色々と嫌な予感はする。
「最後に、これを返しておこう。大事なものなのだろう」
「うん。ありがとう」
四災はまっしろになった匣をフィノに返してくれた。
図らずも、アリアンネの心配事である瘴気の問題が呆気なく解決してしまった。街への襲撃も四災との交渉のおかげで解決できたし、上手く行き過ぎな気もするけれど終わってみれば満足のいく結果になったわけだ。
しかしフィノには一つ心配事がある。それは帝都に残してきたヨエルのことだ。
予定より早く戻れる事は嬉しいけれど、あれから五日も経っている。マモンも調子が悪そうだったし、大きな問題が片付いた途端に猛烈に心配になってきた。
「……大丈夫かなあ」
ヴァルグワイに背負われて大穴の底から這い上がってきたフィノは、祭壇に匣を戻すとすぐさま街へと戻った。
出来ればすぐさま発っていきたいけれど、荷物はすべておシャカになってしまったのだ。必要な物を調達しようにもお金は大穴の底に落としてしまった。
なんとかお金を工面しようとフィノが考えた方法は、今回の手柄として報酬をもらおうということだった。
無償でやってあげられれば良かったけれど、事情が事情だし兵士長には悪いけれどなんとか頼んでみよう。
そう考えて街へと戻ったフィノは……けれど、街中の様子を見て感嘆に声を上げる。
「うわあ、すごいなあ」
大通りは今夜の宴の準備に大賑わいだった。
本来の活気を取り戻したかのように、屋台が列をなし道行く人々の喧騒でがやがやと騒がしい。
それにすれ違う人達、みなが笑顔なのだ。これにはフィノも自分の事のように嬉しくなる。
今回の街の問題を解決したのはついでのようなものだったけれど、こんなに喜んでもらえたのなら頑張った甲斐があるというもの。
街の雰囲気を楽しみながら兵士長の姿を探していると、目の前から探し人が近づいてきた。
「よかった、ここにいましたか」
息を切らしながら近付いてきた彼は、どうやらフィノを探していたようだ。
「どうしたの?」
「度々で申し訳ないのですが、もう一つだけ頼みたいことがありまして」
頭を下げた兵士長は、フィノにある頼み事をする。
「今回の功労者である貴女を讃えるべきだと皆が言うのです。もちろん私もそうするべきだと思っています。ですので、多忙な身というのは重々承知なのですが……もう少しだけ我らにお付き合い願えますか?」
「えっ……ううん」
兵士長の懇願に、フィノは腕を組んで思案する。
彼らは善意で言ってくれているのだし、ここで断るのは悪いような気がする。でも、これを断って、且つ金がないからと報酬を要求するような図太い神経をフィノは持ち合わせていない。
「いいけど……その代わり、というか。いまお金がなくて」
「もちろん、報酬も用意しております」
兵士長は快くフィノの言い分を快諾してくれた。
何か催し物をするにしてもそれほど時間を取られはしないはず。今日は無理でも明日にはここを発っていけるだろう。
詰め所に向かう間、兵士長の説明を聞きながらフィノは街の様子に目を向ける。
願わくば、帝都で待ってくれているヨエルにもこの光景を見せてやりたかった。こんなに賑わっている祝い事なんて見たことないだろうし、とても喜んでくれたはず。
ヨエルのはしゃぐ様子を想像して、フィノは微かに微笑んだ。




