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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第七章
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尽きぬ怨恨

 

 城の衛兵に謁見を求めると、アポなしだったがすんなりと通してくれた。

 案内に従って、謁見の間に通されるが……そこにアリアンネの姿は見えない。


「あれ? おかしいですね」


 これには衛兵の彼も戸惑っていた。

 彼の話ではこの時間はいつもここに居るのだという。


「確認して参りますので、少しお待ちください」


 慇懃に礼をして、衛兵は謁見の間から出て行った。残されたフィノとヨエルは、手持ち無沙汰に立ち尽くすだけだ。


「どこいったのかな?」

「連絡もしないで来ちゃったからなあ」


 衛兵の彼にも悪い事をしてしまったと、少しの罪悪感を覚えていると直後。

 きょろきょろと辺りを見渡していたヨエルが「あっ!」と叫び声を上げた。


「どうしたの?」

「あれ」


 ヨエルが指差したのは、謁見の間から見える庭園だった。釣られてフィノも目を向けると、そこには見知った姿が見える。

 それにヨエルを連れて外へと出ると、こちらが声を掛ける前に物音に気づいた彼女が振り返った。


「ああ、お久しぶりですね」

「うん、アリアも元気そう」


 フィノの挨拶にアリアンネは柔和な笑みを浮かべた。にこにこと笑顔を浮かべる彼女に、例の如くヨエルはフィノの後ろに隠れている。


「その子を連れて、今日はどうしたのですか?」

「ちょっとお願いがあって」

「そうですか。とりあえず、座ってください」


 申し訳無さそうに切り出したフィノの態度に、アリアンネは頷くとテラス席を促す。それにヨエルの手を引いて座ると、アリアンネは他愛ない話を始めた。


「この場所、城下を一望できて息抜きにたまに来るのです」

「良い場所だね」


 彼女の言葉通り、とても景色が良い。この庭園も草花が綺麗だし、眼下に見える城下町も絶景である。

 アリアンネもレルフと同様、公務に忙しくしている身だ。息抜きとしては最高の場所だろう。


「三年ぶりですけど、今までどこに居たのですか?」

「戦争があるから、アルディアから西には行ってないけど……いろんな街に行ったり、あとアルヴァフでも少し過ごしてた。それで、一年前からヨエルと一緒に暮らしてる」


 いきなり話に出されたヨエルは驚きに瞠目した。向けられる視線に目を逸らしてもじもじとしている姿に、アリアンネは微笑んだ。


「アルディア帝国皇帝、アリアンネです。よろしくお願いしますね」

「う、うん」


 緊張にヨエルはごくりと喉を鳴らした。どうにも彼の人見知りはなかなか治らないみたいだ。

 アリアンネは終始穏和でカルロとは正反対な性格である。ヨエルともソリが合わないなんてことは無いと思うけれど……どうやら彼のこれは合う合わないの問題では無さそうだ。


「ねえ、フィノ」

「ん、なに?」

「つまんないから、遊んできてもいい?」


 沢山の草花が揃っている庭園を見てヨエルは言った。

 大人の話というのは子供にとっては退屈なのだ。それに見知らぬ人が傍に居てはヨエルの気も休まらないのだろう。


「良いですよ。子供は遊ぶのが仕事ですからね」

「あ、ありがと」

「あまり危ないこと、しちゃダメだよ」

「うん、わかった!」


 ぴょんと座っていた椅子から飛び降りると、ヨエルは駆けていった。

 その後ろ姿を眺めていると、不意にアリアンネは笑みを潜める。


「彼は変わりないですか?」


 声音を落としてフィノに問いかける。それの意図にフィノはすぐに理解出来なかった。けれど、アリアンネがこうして気にかける者など、一人しかいない。


「マモンなら元気。たまにしか話せないけどね」

「そうですか……あの事は、彼に打ち明けたのですか?」


 アリアンネの詰問に、フィノは言葉を詰まらせる。


「……まだ、言ってない」

「フィノは優しいですね。わたくしなら、秘密にせずにすぐにでも明かすというのに」

「べつに私はマモンのこと、恨んでない」

「魔王さえいなければこんなことにはなっていないのに? 貴女の師匠だって、まだ生きていたかもしれませんよ」


 自虐的な笑みを浮かべて、アリアンネは無慈悲な宣告をする。

 全ての元凶がマモンであることは、フィノも知っている。けれど、どうしても彼を恨む気にはなれないのだ。


 フィノはマモンが苦しんでいる事を知っている。彼も好きであんな事をしていたわけではない。それはアリアンネだって知っているはずだ。

 それでも……憎悪というのはいつまで経っても消えてくれない。


「あの子だって、寂しい思いをせずに済んだでしょうに」

「……っ、それ」

「わかっています。わたくしが言うべきではないことは」


 あの時のことは、アリアンネも無関係ではないのだ。声を荒げたフィノに、アリアンネは謝罪を述べた。

 けれど、自業自得とはいえ彼女も大事な人を亡くしている。お前が悪いのだと糾弾することなんて、フィノには出来なかった。


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