表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第七章
328/573

解決の糸口

 

 アルヴァフから戻ったフィノは数日間、山小屋へ籠もりっきりになっていた。


 すぐにでもアリアンネの元へ行くべきだが、帰ってきたばかり。ヨエルは長旅に慣れていないし少しばかりの休息が必要なのだ。

 ……というのは建前である。本当は、やり残した事を済ませてから向かいたいと考えたからだ。


「んぅ、上手くいかないなあ」


 溜息交じりに、テーブルに魔鉱石を転がしてフィノは溜息を吐く。


 フィノがシュネー山へと戻ってきて、一番始めに取りかかったのは地中に埋まっている魔鉱石の採掘だ。

 おかげで小ぶりながら質の良い品物を手に入れられた。しかし、これを匣の製造に転用できるかというと難しい所だ。


 エンチャントの質は、込める魔力量によって変わってくる。そしてそれは、器の大きさと比例するのだ。

 だからこそ、フィノは適度な大きさの魔鉱石を求めている。こんな小石サイズのものでは役不足なのである。


「ねえ、いつになったら出発するの?」


 テーブルに突っ伏して呻いていると、横からひょっこりとヨエルが顔を出して聞いてきた。

 彼にはフィノの用事に付き合ってもらうことを話してある。アルディア帝国まで行くと言ったら、それはもう飛び跳ねて喜んでいた。


「んぇ、っと……まだ準備出来てないから、もう少し待って」

「ええーっ!?」


 ぼくもう準備出来てるのに、とヨエルは地団駄を踏んだ。

 しかし、そう言われてもどうすることも出来ないのが現状。あと数日かけて何も進展がなかったら後回しにしてアルディアへ向かおう。


 ヨエルの反応を見て決意を決めた所で、ふと彼がフィノの作業に興味を持ってテーブルを覗き込んできた。


「それむずかしいの?」

「うん、かなりね」


 先ほど作りだした匣(小)をコロコロと転がしてフィノは答える。


 こうして作ることは可能なのだ。しかしそれではフィノの必要としている用途への使用は難しい。少なくとも、大穴の底へと行けるくらいの容量がなければ幾ら作ったところで無意味である。


「それじゃダメなの?」

「うん、これよりも大きくないと使えない」

「ええ、それじゃあ……大きくしたらいいよ」


 そう言うとヨエルは、テーブルに散らばった魔鉱石を両手に握りしめて、カンッ――と打ち合わせた。それを片手で握りしめて、ずいっとフィノの顔面に突き付ける。


「どう!?」


 自信満々なヨエルに、フィノはじっと考え込む。

 良いところまで来ている気がする……が、あと一歩、閃きが足りない。


 匣の製造について、考えを改める必要があるとはフィノも思っていた。遙か昔の製造方法は今の時代には合っていないのだ。

 出来ないならば出来るように少しずつ変えていくしかない。


 そこで、ヨエルに与えられたヒントを今一度精査することにした。

 確かに……あのサイズの魔鉱石なら魔力切れの心配も無いし、フィノ一人でも容易に増産可能だ。問題は出力。小ぶりサイズの魔鉱石ならば込められる魔力だって微々たるものである。幾ら数を用意しても迫り来る瘴気を吸収出来なければ意味がない。


 そこまで考えて、フィノは昔ユルグに聞いた話を思い出した。どうして変わった戦い方をするのか、と尋ねた事があったのだ。

 ユルグは勇者であるから魔法に関しては不自由しない。それなのに、魔鉱石を戦いに用いるのだ。初めはそれが不思議でならなかったが、ユルグはフィノの疑問に丁寧に答えをくれた。


 利点として取り上げると、戦術の幅が広がることと、事前に魔力を貯めておける。この二つが挙げられるのだという。

 魔鉱石に貯めた攻撃魔法を、いっぺんに使うことで容易に瞬間火力を上げられる。しかもリスクは限りなく低い。なんたって、纏めた魔鉱石を敵に投げつけるだけだ。


 その威力はフィノにも覚えがあった。以前、スタール雨林で植物の魔物に襲われた時に体験したから骨身に染みている。



 そこまで想起して……フィノは答えを見つけた。

 ユルグの魔鉱石と同じなのだ。出力が足りないなら、ありったけの数を集めて上げればいい。

 今まで固執していたものとは正反対な案であるが……試してみる価値はある。


「よし、それでいこう!」

「えっ!? なに??」

「そうと決まれば……掘りにいくよ!」


 勢いよく立ち上がったフィノはスコップを手に取ると、一つをヨエルに手渡した。有無を言わさず先に外に出て行ってしまったフィノを見つめて、ヨエルはきょとんとする。


 なんだかよく分からないけど、いきなり元気になって外に行ってしまった。けれど、さっきまで落ち込んでいた表情は明るさを取り戻したように晴れ晴れとしたものだった。

 ここ数日は前みたいに怒っているような、不機嫌そうな表情をしていたから、ヨエルも話しかけるのを遠慮していたけれど……あれなら大丈夫そうだ。


 ほっと胸を撫で下ろすと、ヨエルはスコップを握りしめてフィノの後を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ