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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第六章
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秘密の話

 

 夕刻までカルロに案内されて城下を散策した後、フィノはレルフに呼び出しをくらって三人と別れることになった。


「ほんっとに人使い荒いんだから」

「昼の話の続きだと思う。先にご飯食べてて」


 カルロの文句に苦笑して、足早にフィノは去って行った。その後ろ姿を眺めて、カルロはやれやれと肩を竦める。

 フィノには他にやるべき事があるのだ。今回の件だって断れば良いものを律儀に果たそうとしてくれている。彼女の師匠と違ってお人好しなのは、昔と変わらずらしい。


「さて、お腹も空いたしご飯食べに行こうか」

「ここのご飯って、何がおいしいの?」


 ヨエルは声高に宣言したカルロを見つめて問う。その隣では、樹液蜜を冷やして固めた飴を美味しそうに頬張るレシカ。


 巨木の天辺から降りてきた後も、二人はずっと手を繋いだままである。カルロに冷やかされてむくれていたが、はぐれるといけないからと結局今の今までこうしているのだ。

 この行動は誰に言われるでもなくヨエルから進んでしたことで、これだけを見てもこの少年は優しい子なのだとカルロにはわかった。それを何度も苛めてはかわいそうである。


 その事にはわざと触れないで、カルロは腕を組むとううんと唸り出した。


「特別これが美味しいっていうのって無いんだよねえ。特産品が酒やら甘味やらだから、食事に関しては可もなく不可もなくってところかな」

「そうなんだ」

「でも酒飲みながら食べる料理が多いね。だから、大通りを少し外れると居酒屋がいっぱいあるんだ」


 それを聞いて、ヨエルはレシカと顔を見合わせた。


「またお酒飲むの!?」

「もちろん!!」

「昼間も飲んでたじゃん!」


 非難してもカルロはどこ吹く風で受け流している。

 今日一日で、彼女がどれだけダメ人間なのか、まだ幼いながらも二人はわかりかけてきていた。フィノは何も言わないけれど、昼間から酒は飲むし、大人なのに子供っぽいし。ヨエルが今まで出会った人の中で、ワースト一位かもしれない。


 とはいえ、面倒見は良い。子供の相手なんて大変なのに、それに関しては愚痴一つ零さないのだ。

 大人だけど、ちょっとだらしない人。それがヨエルがカルロに抱く印象だった。そして、今後その評価が覆されることはないだろう。


「昼間から酒飲むやつはロクデナシだって、おじいちゃん言ってたよ!」

「いっ、いいじゃんか! 少しくらい! それに私は、酒に呑まれるほど弱くない!!」


 子供相手に大人気なく力説するカルロは、吹っ切れて目星を付けていた食事処に入っていく。

 慌ててその背中を追いかけて、二人は店に入る。テーブルに着くや否や、カルロはいの一番に酒を注文した。


「食べたいのあったら何でも頼んで良いよ。おごったげる」


 上機嫌なカルロは早速一杯やりはじめた。それを尻目に、言われた通り各々、好き勝手に料理を注文する。


 ――焼きたてのパンと、鹿肉の香草焼き。腸詰めの燻製。

 ハーフエルフの国であるのに、肉料理ばかりである。エルリレオと暮らしていた時は、もっぱら野菜中心の食事だった。質素な生活をしていたわけではないが、肉なんて一月に二回食べられたら良い方だったのだ。


 なんだかなあ、と思いつつ先に出された腸詰めは今まで食べたことのないくらい美味だった。じゅわっと染み出る肉汁から旨味が溢れ出す。

 カルロは普通だと言っていたけれど、充分美味い。これだけでも満足できる代物だ。


「これ、おいしいね!」

「う、うん」


 肉叉を持って固まっていると、にししとカルロが笑った。


「普通に食べても美味いけど、酒の肴に合うんだなあこれが」


 まだ酔っ払っていない……はずのカルロは機嫌良く腸詰めを頬張った。そしてそれを酒で流し込む。

 彼女の飲みっぷりに驚きつつも、頼んでいた料理が次々と運ばれてくる。

 それらに舌鼓を打ちながら、食事を楽しんでいると――


「フィノ、おそいね」


 隣から聞こえたレシカの声に、ヨエルも頷く。あれから三十分は経っている。早く来ないとせっかくの料理が冷めてしまう。

 少しだけ気落ちした表情を見せたヨエルに、カルロは空になった酒瓶をドンッ――とテーブルに打ち付けた。


「ねえ、面白い話してあげようか?」

「え?」


 いきなりカルロは何事か話し出した。突然の事に困惑しているヨエルを置いてけぼりにして、彼女は続ける。


「私ねえ、フィノとはそれなりに付き合いがあるんだけどさあ」

「う、うん」

「とっても大事な秘密、しってるんだよね」


 ゆったりとした口調で話すカルロの言葉に、ヨエルは肩が跳ねた。

 秘密……フィノのことは、ヨエルも言うほど詳しくはない。きっとカルロの方がヨエルよりも色々と知っているはずだ。

 だから、彼女の話す秘密の話は信憑性がある。知りたくないと言えば嘘になってしまう。けれど、カルロは秘密だと言った。


「それ、話してもいいことなの?」


 知られたくないから秘密と言うのだ。それをペラペラ喋っても良いものなのか。

 怪訝な顔をするヨエルに、カルロは酒を一口含んでから答えた。


「いいと思うよ。たぶん、もう時効だからね」


 意味深な事を言って、カルロは秘密の話を語り出した。


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