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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第六章
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小国アルヴァフ

 

 アルヴァフに着いたのはそれから一日半経った――ちょうど昼を過ぎた頃だった。

 一日で最も明るい時間帯だというのに、踏み入った森の中は薄暗い。空を覆う樹木の枝葉が天蓋のように陽の光を遮っているためだ。


 しかし空気はとても澄んでいる。雪山育ちのヨエルにしてみれば、こんなにも青々とした土地は初めてなのだ。

 キョロキョロと周囲を見渡しながらフィノの後ろを着いてくる。その隣を歩くレシカも、未知の世界に興味は尽きないらしくいつも以上に忙しない。


 森の中の舗装された道を歩くと、しばらくして目の前に門扉が見えてきた。

 門の前には衛兵が二人立っている。この向こうが、目的地であるアルヴァフだ。


 門衛の二人はフィノの姿を確認すると、二人揃って顔を見合わせた。そのうちの一人がいそいそと近付いてくる。


「お久しぶりです。此度はどのようなご用件で?」


 ハーフエルフの彼は以前、村の門衛をしていた兵士だった。フィノとは顔なじみである。

 いまでは国の入国管理を担う大事な役職に就いている。小さな村の門衛からだいぶ出世したものだ。


 彼はちらりとフィノの背後にいる二人に目を向けてから、再び向き直った。

 いきなり子連れで訪問されては不思議がるのも無理はない。


「呼ばれたから来たんだけど……レルフ、いる?」

「国主様ならいらっしゃいますよ。おそらく、到着を心待ちにされているかと」

「そっか、ありがと」


 レルフからの手紙が届いてより、かなりの時間が空いてしまっていた。今更来ても遅いと文句を言われる覚悟もしていたけれど、彼の話ではそんなことは無さそうである。


「どうぞ、お通りください」


 道を空けてくれた彼に礼を言って、フィノは門扉をくぐった。


「ねえ、フィノってもしかして凄い人なの?」

「わかんない。ぼく、何もしらないもん」

「ええ? 一緒にくらしてるのに知らないの? へんなの」


 後ろからは二人の会話が漏れてくる。

 レシカの反論にヨエルは言葉に詰まってしまった。図星だったのだろう。少しだけ不機嫌になったヨエルは無言でフィノの背を追っていく。


 けれど、門扉をくぐった瞬間――見えた景色にすべてがどうでもよくなってしまった。


「どう? すごいでしょ!」


 くるりと反転したフィノの背後には、天を貫く巨木が何本も聳えていた。頭をあげて首をぐっと逸らさなければ巨木の天辺は見えない。通常の視界では、目の前に巨大な幹が見えるだけだ。

 そして、その幹に空いた(うろ)がこの国の居住スペースになっている。幹と幹の間には吊り橋が架かっていて、地上に降りずとも往来が可能。開墾せずに自然を上手く活用しているのだ。


「うわあ……」


 これにはヨエルも思わず声が漏れてしまった。

 驚きよりも感動が勝っている。それは隣に居るレシカも同じようだ。


「なんだか小人になったみたい」


 彼女の感想も馬鹿に出来ない。

 実際、居住スペースである巨木の虚はかなりの広さがある。大きい所ならば、帝都にある城がすっぽり納まるほどだ。

 それほどの巨木であっても、エルフの神話に出てくる神木よりは小さいのだと言うのだから、例の神話も真偽は怪しいほどである。


「迷子にならないでね」


 立ち止まって景色を眺めている二人に釘を刺すと、慌てて駆け寄ってくる。

 人混みでごった返してはいないが、それなりに道行く人も多いのだ。見知らぬ地で迷子になってはそれこそ大変である。


 それは二人も十分に理解しているようで、フィノの指示に素直に従ってくれた。


「これからどこにいくの?」

「観光したいけど、その前に会わなきゃいけない人がいる。まずはその人の所にいくよ」

「フィノの知り合い?」


 ヨエルの質問に、フィノは腕を組んで考え込んだ。

 あの人は、知り合いというよりも……どちらかというと――


「ともだち、かなあ」


 自信なさげに答えたフィノに、ヨエルは不思議そうな顔をする。


「意味わかんない」

「悪い人じゃないよ。ヨエルも一度会ってる」

「ええ……おぼえてないよ!」

「だってずっと昔のことだから、とうぜん!」


 フィノの謎かけに、ヨエルはますます顔を顰めた。

 それを尻目に、フィノが向かったのは正面に聳える一番立派な巨木の虚。この国の国主が住まう、居城である。


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