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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第六章
307/573

ワケありの少女

加筆、修正しました。

 

 牢から出された少女は、この状況から助け出してくれたフィノへと抱きついてきた。


「な、なんなの?」


 困惑したまま、率直な感想が口を出る。

 この少女、囚われていた割にはやけに元気が良いというか……思ったほど弱っていない。もちろんそれは喜ばしいことなんだけれど、少し違和感を覚える。


「ねえ、さっきのってどういう意味?」


 少女の口走ったおかしな発言について、問い質すと……なんてことはない。珍しいフィノの容姿を見て、驚いてしまったのだという。

 確かにハーフエルフでも白髪はそうそう居ないし、驚くのも無理はない。それでも、お姫様なんてこの状況でなくても夢見がち過ぎる。


「残念だけど、ただの旅人」

「でも助けにきてくれた!」

「そうだね……でも、まずは外に出よう」


 これからの事は落ち着いてから決めればいい。そう言うと、少女は素直にフィノに従ってくれた。



 彼女の名前は、レシカ。歳は十歳。紫苑色の瞳をしているハーフエルフの少女だ。


 小さな手を引いてアジトの外に出ると、草むらに隠れているヨエルの元へ向かう。しかし、ここまで柔順だったレシカは、急に立ち止まって動かなくなってしまった。


「どうしたの?」

「わ、わたし……やっぱりここに居た方がいいと思う」

「……どうして?」

「だって、行くところないし……わたしが帰ってもみんな喜ばない」


 泣きそうに、声を詰まらせて絞り出した言葉に、フィノは何かしらの事情があるのだと察した。

 おそらく、あの人攫いたちはこの少女を攫ってきたわけではないのだ。それでもあんな場所に置いていくわけにもいかない。

 レシカの悲痛な訴えを聞いても、フィノの心は変わらなかった。


「行くところがないなら、一緒に行こう。本当は家に帰してやるのがいいけど……帰りたくないなら、うん。仕方ないね」


 わざとらしく何度も頷いて、フィノはレシカの手を握りしめた。

 フィノの台詞を聞いて、レシカは目を円くする。目尻に浮かんでいた涙は、驚きに引っ込んでしまったみたいだ。


 そもそも、子供であろうと大人であろうとハーフエルフであったなら、アルヴァフへ一緒に連れて行こうとフィノは考えていた。

 どうせ旅路は変わらないのだし、一人増えたところで問題はない。


「い、いいの?」

「もちろん!」

「でも……怒られない? わたしが一緒だとお父さんもお母さんも、みんな怒るよ」


 彼女は何かに怯えたように、声を震わせた。囚われていた時よりも今の方が怖がっているように見える。


「レシカがこれから会う人は、皆。あなたのこと、何も知らない。家族も知り合いも誰も傍にいない。だから、怯えなくても大丈夫」


 ――何かあったら私が助けるから。


 フィノの言葉に、レシカは俯いていた顔をぱっと上げた。

 見えた表情は年相応の幼いものだ。どうにか、彼女の抱える不安を払ってあげられたらしい。


「う、うん……わかった。ありがと」


 子供らしい、あどけない笑顔がフィノへと向けられる。それにフィノも微笑んで、彼女にあることをお願いした。


「ええと……それで、少しお願いがあるんだけど」

「わたしに?」

「うん、そう。歳も同じだし、そんなに難しくはないと思うんだけどね」


 前置きをして、フィノはあることをレシカへと頼むのだった。




 ===




 ――その頃。


 フィノがアジトへ向かった後、ヨエルは近くの草むらの中にマモンを抱えて潜んでいた。

 置いていった背嚢を隣に置いて、誰にも見つからないようにじっとしている。

 しかし、手持ち無沙汰であるし、じっとしているのはとても退屈だった。


 幸い、今は話し相手もいるし……ヨエルは腕の中にいるマモンと少しだけおしゃべりに興じることにした。

 なんたって、マモンが姿を現わすことなんて滅多にない! 


「ねえ、マモン」

『なんだ?』

「いつまで起きてられるの?」

『ふむ……フィノが戻ってくるまで、だろうなあ』


 大きな欠伸を零しながらマモンは答えた。今も眠気と戦っているであろうマモンは、それでもヨエルの話にはちゃんと返事をくれるのだ。

 なんだかその事が嬉しくなって、この数日にあったことをヨエルは嬉々として語った。


「今ね、フィノと旅行に行くところなんだ。アルヴァフってところ。マモンは行ったことある?」

『ないなあ』

「じゃあ一緒に観光しよう! フィノは忙しいから無理だって言ってたし……ひとりだとつまらない」

『うむ……わかったよ』


 苦笑を混ぜて、マモンは頷いた。

 とはいえ、ヨエルのわがままに付き合える力がない事はマモンも、そしてヨエルも知っている。けれど、難しいと知っていながらマモンはヨエルのわがままを受け入れたのだ。

 その気遣いが、ヨエルはとても嬉しかった。


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