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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第二部:白麗の変革者 第六章
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ハーフエルフの小国

 

 空の彼方が赤く染まるまで作業をして、掘り当てた高品質の魔鉱石は両の指で数えられるほどの数しか得られなかった。


 予想はしていた事だけど、これっぽっちでは何にもならない。そもそも小石程度の大きさでは目的には見合っていないのだ。

 地面を穴ぼこにして探し回っても十分な大きさの魔鉱石があるとは言えないし……やはり匣の製作にはデンベルクから採れる魔鉱石がなければ成り立たない。


 苦労した割には何の成果にもならなかったことに気落ちしているフィノの隣では、ヨエルが満足そうな笑みを浮かべてご満悦である。


「はああ~、たのしかった!!」

「よかったね」


 楽しそうにするヨエルを見ていると、落ち込んでいた気持ちも持ち直してくる。

 問題にぶち当たるのは何もこれが初めてでもないのだ。一つずつ乗り越えていけばいずれ解決していく。大事なことは無理だと決めつけて足を止めること。諦めないことだ。


「あしたもするの!?」

「う~ん、どうしようかなあ」


 小屋までの帰路を辿る道すがら、ヨエルは疲れなど感じさせることなくフィノへと尋ねた。


「一日早いけど、明日出発しよう」

「……っ、ほんと!?」

「うん。だからちゃんと準備してね」

「もうできてる!!」


 フィノの提案に、ヨエルははしゃぎながら我先にと隣を歩いていたフィノを追い越して小屋へと戻っていく。


「げんきだなあ」


 その後ろ姿を眺めながら、フィノは苦笑を刻むのだった。




 ===




 フィノが日程を一日早めたのは、作業に一区切りを付けたかったからだ。ずっと籠もっていてもマンネリするし、進展しない作業を延々と繰り返すのは精神的にもよろしくない。

 ヨエルは旅行を楽しみにしているが、フィノにも気分転換というものが必要なのだ。


「明日はここにいくよ」


 夕食を済ませてテーブルに地図を広げると、フィノはある一点を指差した。


「アルヴァフ?」

「少し用事があって、観光はそのついで」


 メイユの街から遙か南東に位置する小国、アルヴァフ。ハーフエルフが国主を務める、建国してまだ日が浅い国家だ。

 フィノにも馴染み深い場所であり、今回の旅行に選んだ真の目的はそこに暮らす知り合いに呼ばれているからである。


 アルヴァフにはフィノも数回しか足を運んだことはない。それも数年前が最後だし、最近は発展も目覚ましいと聞く。

 けれど、急速な発展の裏にはそれなりの問題も多く抱えているのが常である。それをどうにか出来ないかといった相談の手紙が数日前にフィノの元へ届いたのだ。


「とおいの?」

「歩いて五日くらいかなあ。前みたいに飛んでいけば、三日くらいで着くよ」


 アルヴァフは十年前にフィノが世話になったハーフエルフの村があった場所に建国された。その周辺にある森を開拓して建国したから少しばかり道も景色も変わっているだろうけど、道程は昔のまま。


 アルディアがラガレットを併合して、公都であったサノワはただの都市となった。当初はそこにアルヴァフを据えようという話もあったのだが、ラガレットの貴族やらの反発が強まることを懸念して、新たな地に国を興したわけだ。


 極力軋轢を生まないように配慮していたが、それでも何の問題もなかったわけではない。この十年、アルヴァフの国主となった元村長であるレルフの心労は凄まじいものだとフィノも風の噂で聞いていた。

 だからこそ、自分に出来る事ならばと今回の要請に応じたのだ。


「観光には付き合えないと思うけど、知り合いに案内を頼むつもり。だから楽しみにしてて」

「うん!!」


 話が終わるとヨエルは明日持って行く荷物のチェックを始めた。繰り返して、三度目である。

 それに倣ってフィノも出立の準備を済ませる。

 一月も留守にするわけではないから何も問題はないだろうけれど……一応、出掛けにはメイユにいるアルベリクに話してから出発しよう。




 ===




 翌日、早朝に小屋を出立したフィノとヨエルは一度メイユへと立ち寄った。

 アルベリクに二人で出掛けてくると話して、南へ伸びている街道をゆっくりと歩いて行く。


 幸いにして、今日は朝から晴天に恵まれた。

 隣を歩くヨエルに歩幅を合わせて歩きながら今日の道程を説明する。


「このまままっすぐ行くと、東……あっちの海の方に繋がってる道があるから、そこを曲がってベルゴアって街に行くよ」

「どれくらいで着くの?」

「歩いて二日かなあ。そんなに急いでないし、ゆっくり行こう」


 ヨエルにとって初めての旅行である。出来るだけ景色を楽しみながらアルヴァフまで行きたいとフィノは考えていた。

 しかしまだ体力の無い子供でもある。疲れたようならフィノがおぶって飛んでいく。臨機応変に行こう。


「ぼく、海ってみたことない!!」

「私も昔はそうだったなあ」


 ヨエルの反応に、若かりし頃の記憶を思い起こす。

 今思えばあの時の旅が師匠との最後の旅になったわけだ。もう少し一緒に色々な場所に行ってみたかったなあ、としんみりとしていると何者かがフィノたちの行く手を塞いだ。


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