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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 最終章
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最後の旅路

 思い立ったが吉日。

 旅の準備を済ませたユルグは、翌日にはフィノを連れて麓の街へと向かっていた。


 一先ずは麓のメイユへと降りて、そこで軽い打ち合わせをする。これからどういうルートでどこへと向かうか。情報を共有して、円滑に旅を進めるためだ。


「まずは、ここから南……ティブロンへ向かう道を途中で東に進路を変えて、その先にあるベルゴアに向かう。二日もかからないはずだ」


 ベンチに積もった雪を払ってその上に地図を広げると、道順を指で差して説明していく。

 それを大人しく聞き入るフィノと、彼女に抱きかかえられている黒犬のマモン。


『しかし、ベルゴアが最終目的地ではないのだろう?』

「ああ、そこから海沿いを北上して公都サノワを目指す予定だ」

「うみ!?」


 真剣に話を聞いていると思っていたら、海と聞いてフィノは目を輝かせた。

 今まで旅をしてきた場所はすべて陸続きだった。ユルグは一度目にしたことはあるが、彼女がこうして大仰に反応するのは何も驚くことでもない。


「観光しに行くんじゃないんだぞ」

「わ、わかってるよ!」

「ならいいが……俺の話はちゃんと覚えてるだろうな?」

「サノワってところにいくんだよね」

「そうだ」


 どうして公都に向かうのか。

 もちろん理由あってのことだ。


 一つは、言わずもがな。ログワイドの手掛かりを探るため。

 しかし、闇雲に国中を探し回っても効率が悪い。だから、事情を知っていそうなこの国の最高権力者に話を聞きに行こうという魂胆だ。


 もう一つは……ミアからの頼み事に関係しているからである。

 流石に情報がゼロでは動けない。そこでミアに何か手掛かりはないかと尋ねてみると、彼女から興味深いことを聞けた。


 ティナとの別れ際にこれからどこに行くのかと尋ねたら、公都へと用があるのだと。子細は聞けなかったが、おそらくアリアンネが言っていた根回し云々に関係がありそうだ。


 それらを加味して、目的地を公都サノワに決めた。


 ここからベルゴアを経由して、最短で四日。久しぶりの長旅になるだろうから、ペースを落とすとして多く見積もって六日というところだろう。


「天候が荒れないといいが……こればっかりはどうにもならないな」

「むりしちゃダメだからね」

「わかってるよ」


 事あるごとに言われている文句を聞き流して、ユルグは地図をしまうとベンチから立ち上がる。


「お前は足手まといになるなよ」

「むぅ、まえとはちがうもん!」

「はっ、どうだか。無駄口叩いてないでさっさと行くぞ」




 ===




 それから雪道を無心で歩き続けて、日が暮れた頃。

 暗くなる前に巨木の下で野営をすることとなった。


 一月にも及ぶ旅を経て、ユルグは元よりフィノの手際も中々に良い。手早く天幕を張ると薪を集めに向かう。

 その間にユルグは簡単な飯の準備をする。


 雪を煮沸して、そこに干し肉と香草を適当に入れて少し煮込む。肉が軟らかくなったら食べ頃だ。


 飯が出来上がる頃にはフィノが薪集めから戻ってきていた。

 焚き火の傍に座ったところで、椀に盛って差し出す。


「いただきます!」


 元気よく唱えて、匙ですくって一口食べる。直後に、なぜかフィノは目を白黒させながら、ごくんと口に入れたものを飲み込んだ。


「おししょう……これ、あじみした?」


 じっとりとした眼差しを受けて、自分用に盛った椀の中身を見つめる。


「……いいや」

「すっごいまずい!!」

「そんなにか? いつも通り作ったつもりなんだけどな」


 フィノが言うにはものすごく塩辛いのだそう。


 干し肉は塩漬けだったし、もしかしたら入れすぎたのかもしれない。それか水の量が足りなかったか。

 原因はどうであれ、味覚がないものだから確認のしようがない。


「ミアにまかせっきりだったから、こんなことになるの!」

「……うるさいな。今度から気をつけるから、文句言ってないで食べろ」


 小言をシャットアウトして黙々と食べるユルグに、フィノは信じられないものを見るような目をしている。

 匂いならわかるが、焦がさない限り味に変化はないし、塩気がありすぎるだとか薄味だとか。そういうのは流石に分からないのだ。


「そこまで言うなら、今度からお前が作ったらいい。それなら文句は出ないだろ」

「うっ……そうだけど」


 なぜかフィノは口籠もった。

 もじもじとしながら、椀の中身を匙でぐるぐるかき回している。意味不明な言動に怪訝な眼差しを向けていると、彼女はこれまた意味の分からないことを言い出した。


「おししょうのでいい」

「……はあ?」


 一貫性のない発言に困惑していると、それを焚き火に炙られて見ていたマモンが頷きながら口を挟む。


『ははあ、なるほどなあ』

「なんなんだ、まったく」

『つまりはあれだろう。惚れた男の作ってくれた飯は、不味くても気にしないということだ。己にはこれのどこが良いのか、まったく分からんが』

「お前は一言多いんだよ!」


 ぎゃあぎゃあと言い争っている二人の正面では、フィノが無心で椀に残った飯をかき込んでいる。


「ごちそうさま!」


 特急で食べ終わったら、すぐさま逃げるように天幕へと消えてしまった。

 半分以上残った夕飯を見つめて、乗り気でないながらものそのそと椀に盛って無心で食べる。


 ……次からはちゃんと味見してもらった方が良いかもしれない。


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