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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第八章
158/573

先のしるべ

一部修正しました。

ご指摘ありがとうございます。

 

 マモンの発言に、フィノは目を見開いて息を呑んだ。


「あそこにすんでるの!?」

『己はそう聞いている。もっとも、この目で見たわけでも無し。ログワイドの世迷い言でないと言い切れないがな』


 どうやらマモンもこれに関しては不確定要素であると判断しているらしい。


『だが、そうであると切り捨てるには不可解な点があるのも確かだ』

「うー……、でもどうやってそこまでいくの?」

『……それが問題なのだよ』


 マモンはフィノの問いかけに頷きながら頭を垂れる。


 確証がないのならば確かめれば良い。それくらいはフィノにも理解出来る。

 問題は、瘴気を生み出しているであろう虚ろの穴の底に、どうやって向かうかだ。


『穴の底に行くのは問題ない。行きも帰りも己が運んでやれるだろう。しかし、そこまで身体が持つかが問題だ』


 マモンが懸念しているのは、高濃度の瘴気に触れて生身の肉体が耐えられるのか。

 これに関しては、フィノでは力不足である。可能性があるのは死ねない身体を持つ魔王の器であるユルグだけだとマモンは説いた。


 しかし、そんなことをしてしまえばただでさえ少ない寿命を更に縮めてしまうことになる。


『生物の身体を持つ以上、どうあっても瘴気の毒には耐えられない。大穴の底に辿り着くのは難しいだろうな』

「……マモンだけいくのはダメなの?」


 アリアンネと共に居たときの事を思い出すと、マモンはある程度、依代としている者の傍から離れられる。だったら単独で穴の底にも行けるのではないだろうか?


 けれど、フィノの妙案にマモンはかぶりを振った。


『それも難しい……己が器の肉体と離れられる距離は無制限ではないのだ。それに、あの大穴の底がどれだけ続いているかも分からん』

「そっかあ」


 せっかく希望が見えてきたと思ったのに、進展は無し。

 腕を組んで唸っているフィノに――しかし、とマモンは続ける。


『悲観するのはまだ早い』

「でも、どうにもできないよ?」

『考えてもみろ。ログワイドはあの大穴の底に辿り着いたのだぞ? ということは、何かしらの方法があるということだ』

「――っ、なるほど!!」


 それならばなんとかなるかもしれない! であれば、一番にすべきことは一つだ!


「てがかりをみつければいいんだね」

『うむ、その通りだ』


 目下の目標はログワイドの痕跡を探って、それに至る手掛かりを見つけることになる。

 それらは、ラガレット国内のどこかにあるはずだと、マモンは言う。


「じゃあ、さっそく――」

『やる気は十分なようで嬉しいが……まあ、待て。お主一人で突っ走っても何にもならんぞ』


 笑み混じりのマモンの制止に、フィノは彼を見つめた。

 確かにマモンの言う通りではあるが、時間が無いのだ。今すぐにでも探し回った方が良いのに、マモンはやめろと言う。


『今話した全てを打ち明けた訳ではないが、この話はユルグも承知している。おそらく怪我が治り次第、国内を巡る算段だ。となれば、フィノもそれに着いていっても良いのではないか?』

「……でも、はやいほうがいいよ?」

『どうせ目的は同じなのだ。入れ違いになって無駄な事をするよりはその方が効率的だと思うがな』

「う……んぅ、そうだね」


 マモンの話によると、国内を巡るにしても一月あれば十分。今のところ猶予は五年だが、それでも十分すぎる程には時間は残っているのだ。焦っても何も始まらない。


 彼の説得にフィノは頷いた。


『はやる気持ちも分かる。しかし、何の準備もなしに飛び出しても時間を無駄にしてしまいかねない。となれば、あやつの怪我が治りきるまでの間は入念な準備期間と見れば良い』

「……じゅんび」


 ラガレット国内を巡る旅の準備。

 今までユルグと一緒に旅をしてきて、その大変さは身に染みて分かっている。何が必要で、どうすれば良いのか。すべてお師匠に教えてもらったのだ。


 水や食料、野営の為の物資や装備。その他諸々……用意するものはたくさんある。けれど、一番大事なものは――


「おかね、かせがないと!」


 何をするにしても金は掛かるのだ! 

 散々その問題にぶち当たってきたのだから、こればっかりはフィノにだって分かるし間違えようがない。

 ユルグの怪我が治りきるまでの一月、フィノのする事は決まったも同然だ!


 ――十分な旅費を稼ぐこと!!



 鼻息も荒く意気込んでいるフィノを遠巻きに眺めて、マモンはある一点を見つめた。


 彼が気になっているのは、虚ろの穴がある祠である。


 昨日の黒死の龍との戦闘で、あそこの周囲一帯は地形が変わってしまった。積もっていた雪は吹き飛ばされて、下手をすれば雪崩が起きかねない。

 しかし、そのおかげで祠の入り口を封じていた雪も払われてしまった。


 マモンが懸念しているのは、開け放たれた入り口から何が現れても不思議ではないことだ。


 彼が吸収した瘴気は、黒死の龍が溜め込んでいたものだけ。祠の内部に安置されている匣は、未だ手付かずのままだ。五年も放置されていてはすでに機能していないはず。

 すぐにでも浄化すべきものだが……そんなことをしてしまえばユルグの寿命をさらに縮めてしまうことになる。


 彼に魔王の譲渡を持ちかけた時、マモンは最大限の譲歩として魔王の使命を強要することはないと約束した。

 つまりユルグに相談無しにマモンの独断で瘴気の浄化は成せない。寿命を削ることになるならば尚更だ。


『……今は様子見しておくべきか』


 誰にともなく呟いて、マモンはあーだこーだと独り言を零しているフィノを見遣った。


『そろそろ戻るか』

「うん、そうだね」


 彼の提案に頷いたフィノは、我先にと小屋へと向かう。


 どんな手段で金を稼ぐとしてもユルグにだけは伏せておいた方が良い。追求されればどうしてそんなことをするのだと理由も聞かれるはずだ。

 彼のことだ。きっと、また一人で旅立ってしまうはず。そうならないために、入念な下準備と作戦を練る。


 ――大好きな師匠に、恩返しが出来るように。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  これに関しては、フィノでは役不足である。可能性があるのは死ねない身体を持つ魔王の器であるユルグだけだとマモンは説いた。 「役不足」という言葉を使っていますが、「力不足」とした方がよ…
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