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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第六章
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仲良しごっこ

 

 アンビルの街に滞在したのは僅か一日程度だった。


 本当ならばあと一日は羽を伸ばしたかったが、そんなミアの願いも虚しく、翌日の朝早くに街を出ることになったのだ。

 もちろん反対はした。けれどユルグの強行は止められず、こうして未練たらたらな状態で荷馬車に揺られているのである。


 なぜ彼がこんな暴挙に出たのか。その理由はミアも深くは知るところではない。しかし、昨日の迷子捜しの一件が関与しているのは確かだ。

 きっとこれ以上街に留まっていては、また厄介ごとに巻き込まれると思ったのだろう。


 進んで事件に関わろうとするアリアンネがいるのだから、ユルグがここまで警戒する気持ちもわかる。


 それでも、早々に街を出たのだ。

 これで後顧の憂いを絶ったというのに、なぜか幼馴染みの機嫌は治ることはなかった。



 ――そろそろ機嫌、治してくれても良いんだけどなあ。


 荷馬車の後方を歩いて着いてくるユルグは、昨日と変わらず仏頂面をしている。普段見る表情(かお)と比べても三割増しほど、表情に覇気がない。


 その様子を垂布の隙間から覗き見て、ミアはやれやれと嘆息するのだった。


「ねえ、ユルグ」

「どうした?」

「アリアと喧嘩でもしたの?」


 禁断の質問に、ユルグは誰が見ても分かるくらいに顔を顰めた。嫌悪感丸出しのそれに、聞いたらいけないことだったかも、と一瞬反省するが聞いてしまったものは仕方ない。


「喧嘩というか、見ての通りだよ。分かるだろ」

「ええと、そうなんだけどさあ。……仲良く出来ない?」


 ミアの一言に、ますます表情が渋くなる。

 こんな顔を見てしまえば答えなんてわざわざ聞かなくても分かってしまうというものだ。


 それでも、ミアとしては二人には仲良くしてもらいたい。

 どちらも悪い人ではないのだ。ただすこーし意見の対立があるだけで、それを抜きにすれば両者の関係は至って良好。

 現にヴァレンに着くまでは上手くやれていた。不可能ではない。

 しかし、拗れてしまった関係を当人だけで修復するのは至難の業である。


 というか無理だ。一生掛かってもできっこない。


 だから、両者の間を取り持ってあげる必要がある。

 とは言っても――


「別に、無理に仲良くする必要はないだろ。俺は何も困ってない」


 ユルグはこんな態度で一貫している。

 ここまで取り付く島もないのはいっそ清々しい。けれど、感心している場合ではない。


「……っ、そ、そうだけどさあ。まだ旅は続くわけだし、ずっとこのままって訳にもいかないでしょ?」

「……わかったよ。努力はする」




 ===




 ――などと彼女の手前、言ってみたもののそんなものは夢物語も良いところだ。


 ミアの言い分が分からないほど朴念仁でもない。

 しかし、無理なものは無理である。それが出来るのであればとっくの昔に成している。

 アリアンネが良い奴というのはユルグも承知の事実だ。あそこまで心根が良い者など、そうそう見つからない。

 とはいえ、それとこれとは別である。


 どれほどの人徳者であろうとも、決定的に相容れない部分があるのならば、手を取り合うことなど出来るはずもない。


 事実、両者の間ではこれ以上はわかり合えないと結論が出ている。それを蒸し返すのはユルグも、そしてアリアンネだって望んではいないはずだ。


 しかし、大切な幼馴染みの願いを無碍にするのは心苦しい。



「――というわけで、上辺だけでも仲良くしておこうと思う」


 本日の野営準備の最中。

 和気藹々とした話の輪から離れて、アリアンネと二人。雑木林に小枝を集めに足を踏み入れたところであった。


 ユルグの言動に、対面していたアリアンネは呆気に取られたかのように瞠目した。

 けれどそれも一瞬のこと。すぐさま答えが返ってくる。


「勇者様は絶対に折れないと思っていました」

「だから言っただろ。対面だけ取り繕っておこうって話だ」

「そうですね。わたくしも異論はありません」


 ユルグの提案に、アリアンネは素直に頷いた。

 あまりにも素っ気ない態度に、拍子抜けも良いところだ。確実に一悶着ありそうだと踏んでいたのが蓋を開けたらこの有様である。

 口論にならずに済んだのは有り難いが、なにやら裏がありそうだと勘ぐってしまう。


 そんなユルグの胸中を察してか、口元に笑みを刻んで彼女は続けた。


「マモンにも厳重注意を受けていたところです。あまり嫌われるようなことはするな、と」

『以前は散々、己に事を荒立てぬようにと口うるさく言っていただろう。これでは完全に立場が逆ではないか』

「それを言われては耳が痛いですね」


 懇々とマモンの説教が続く中、どうやら聞こえた言葉以上の他意はないらしい。それに一先ず安堵するも、だからといって彼女らに気を許してはならない。


「言っておくが、懐柔されるつもりはないからな」

「あの件に関しては無理に言っても聞き入れてはもらえないでしょうから、わたくしからはこれ以上は何も言いません」


 あくまでもユルグの意思を尊重するとでも言うような口振りである。

 やけに余裕ぶったその態度が気に障る。そこまで悠長にしている余裕はないはずだ。

 瘴気のせいで魔物も増加している。アリアンネの性格を考えればそれを黙って見過ごせるとは思えない。


 おそらく何かしらの思惑があってのことだ。

 しかし、それを看破できるほど頭の回転が速いわけでもない。


 どうであれ、強硬手段に出ないというのならばしばらくは安泰である。引き続き彼女らの動向には目を光らせるとして、上辺だけの友好関係を築く分には障害にはならないだろう。




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