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恐怖探究  作者: 篠田堅
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ロッカー

投稿者:フリーターJさん

 いきなりで悪いんだけど、お前って彼女はいる方か?

 俺はいないぜ。だから“リア充爆発しろ”とは言わせないからな。

 まぁ待て、こんな変な話をするのにはちゃんとした理由があるんだ。

 さっき言った事を条件にして“いる”方は今から話す事とお前の彼女を比較して欲しいんだ。

 逆に“いない”方だったら今後の知識としてとどめておけばいいと思うぜ?


 俺が学生で飲食店のバイトをしていた頃に経験した話だ。

 こう見えてもなんだが、俺が当時通っていた高校は進学校でバイトなんて当然、禁止していた。

 だからバレたら退学覚悟でバイトに通勤していた。理由は小遣い稼ぎと単純だった。

 お気に入りの楽器店にあるガラスケースで展示されていたギターを買うため、俺は部活に入部せず、夜の時間帯に必死こいて働いていた。

 そんな俺を雇ってくれた店は少しガラが悪い連中もやっぱりいる訳で……客は当たり前として同じバイトメンバー(バイトOKな学校からの奴もいた)や先輩・後輩にも多少混ざっていた。

 この頃、俺は先輩のKさんとは懇意にしてもらっていた。

 Kさんは俺がバイト初期に仕事のやり方や客に対しての態度や形振(なりふ)りを教えてもらった仲だ。

 雰囲気が少し俺と似ていて、金髪に唇ピアスをつけたいかにも不良(俺は髪は染めてないし、ピアスもしていない)って感じだったが、後輩には面倒見がいい頼れる先輩と人気な人だった。

 そんな先輩は付き合っている彼女がいて、何度かその人について話してくれた事があった。

 先輩の彼女(以降Aさん)――Aさんはバイト終了時に全員で帰る際、店の前でKさんを待っている所に顔を見た事があったが、俺基準にすれば中の中って感じな女の人――普通だった。

 まぁでも…KさんとAさんは結構仲良さそうな雰囲気でカップルとしては合っていた気がする。


 ここまで聞けばなんの事はない普通の立ち話みたいな物だが、問題はここからだ。

 俺を含めた飲食店のメンバーは専用のロッカールームがあってそれぞれに名前が書かれた札が張り付けられているんだ。そんな俺のロッカー――Kさんの隣でシフトが重なると着替えながらはち合う事も多数あった。

 この時のKさんの話がAさんとの[規制されました]とか[規制されました]という笑いでは済まされないあれやこれまでもを話してくるから俺は軽く鬱になりかけたのは懐かしい思い出だ。

 ここで質問。ロッカーに入れるのってどんな物かお前決めているか?

 俺はメモ帳、替えのエプロン、店の情報欄、広告の一部、持ってきたバックやらと何ともつまらない代物ばかりしか入っていない。

 別では瓶・缶や間食用の袋といったゴミをほったらかしにする奴がいた。そういう奴は悪魔のGが湧いた事があってオーナーにこっぴどく怒られたがな。

 閉話休題。

 俺はよくKさんと着替えを同時にしていた事はあったんだけど、Kさんのロッカーの中を見た事がなかったんだ。

 ほら、ロッカーって左から開けるから右で隣り合う人間には扉で見えないように、たとえ左で隣り合う人間でも自分で開けた扉で見えないようになる構造になってるじゃん?

 いくらなんでも他人のロッカーを勝手に開けるのは俺としてもまずかった訳で、何も気にせずにいたんだが、怪しい状況に出くわした。

 俺がロッカールームに入ってきた際、ちょうどKさんがロッカーを開けて何やらごそごそとしていたのを見つけたんだ。仕事着に着替えもせず、開けたロッカーの前でずっと同じまま。

 数十秒ほどして、Kさんがようやく俺の事に気付いた時、「何やってんすか?」と聞いてみたが、「いや、別になんにも」といかにも隠したい様子ありありな雰囲気があった。

 そのまま適当にはぐらかされ、Kさんは俺を置いて店へと急いでいったんだ。んで、そのチャンスを逃さなかった俺はKさんのロッカーを開けてみた訳。

 ロッカーには一応、鍵が添えつけられているが、使う奴なんて皆無だ。だからKさんのロッカーは普通に開けられた。


 …何があったと思う?

 お守りだったよ。それも一個や二個じゃあ飽き足らず、十数個も仲で紐によってぶら下げているという圧巻的光景。

 初めて見たときは「うわ意外!?」と感じた。言っちゃ悪いけど、あんななりしてて、お守りだなんて年寄り連中やオカルトマニアが好きそうなグッズを集めているだなんて考えもしなかったからな。

 その中には俺が初詣で行った事がある所の物も混じっていたよ。

 だからつい触っちゃったんだよね……。その瞬間、嫌な感触が指に伝わった。

 ゴロゴロした小さな物がなんかいくつも入っているような……そんな感じの物。

 お守りって中には霊符やお札みたいなのが入っているだけでこんな感じはありえないんだよな。

 だって自分も一応、家に持っているお守りだったし、どんな感触かはよくわかっていた。

 よく見ると、結び目も綺麗に直されているんだが、チョウチョ結び。お守りの結びは『二重叶結び』っていう特殊な結び方をしているから、後から素人が結びなおした物だと直感的に思った。

 結び目はするすると簡単に解け易かった。口を開けたお守りを傾けて中身を取り出して――。

 

 中身が何かを聞く前に、先に聞いておいてほしい。

 実は俺、後日Kさんにシフトが同じではち合った際、ロッカールームで初めて見たように演技してKさんのロッカーを何気なく覗いてから驚いたふりしながら「このお守りの山ってなんですか?」って聞いてみたんだ。

 すると、「なんかAの実家から最近たくさん送られてきたヤツだってAが言ってた。俺がAのマンション行った時に見せつけられてな、そのままノリでAからいくつかもらったモンだ」って楽しそうに答えてきた。

 

 この答えに俺は「そうですか」としか答える事ができなかった。

 じゃあ実家が異常なんだなって俺の中で完結できたかもしれないけど…そうはいかねぇんだ。

 この時、もう一度お守りをよく見てみるとな…違いがわかるんだよ。

 ほら、さっき言った結び目な? ちょうちょ結びと二重叶結びで結ばれた紐のお守り。

 これを種類別にして数を数えてみたんだけどな…。

 

 ――ちょうちょ結び、少ねぇんだよ。

 

 おかしくないか? ほとんどが後者の結び方で作られているっていうのに、送ったAさんの実家の奴らがわざわざ前者の結び方をしたお守りを少数ながらも作ると思うか?


 こう考えると二つの憶測が浮かぶ。


 結び目は俺が見る以前に一度解かれていた――。


 それを解いたのは最初にお守りを受け取ったAさん――。


 もしかしたらKさんの方かも――と考えたが、あんな物を面白おかしく仕事場のロッカーまで持ってくるなんて、いくら姿がDQNみたいだからってさすがに正気を疑っちまうよ。

 仕事場でも見る限り、まじめにする時はまじめにやる人だったからな。この線はありえないだろう。


 二つの憶測が正しければ、Kさんはとんでもない女を彼女にしてるかもと考えてしまい、不安で仕方がない。今でも連絡をとっている事はあるが、これといった災難に見舞われていないから大丈夫なんだろうけど…。

 オカルトなんて正直、俺は信じないが現実でそれに関する物を見つけたら普通はどうすりゃいいかわかんねぇよ。


 あぁ、言い忘れるところだった!

 お守りに入っていたのは黒ずんだ歯と爪と乾燥した髪の毛だったぜ。

 Aさん、あなた家族にどんな人持ってるんですか…。

 おまけに中身わかってて渡すとか…やべぇって……。

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