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恐怖探究  作者: 篠田堅
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焼却炉

投稿者:高校生T君

 小学生の頃、俺は地区の剣道場で剣道を習っていた。

 夏になれば狭い分蒸し暑くて、冬になれば構造上、床が氷みたいに冷たいと二つの季節――約半年は地獄を味わうとんでも道場だったが、師範が教士にまでなったかなり強い人(段位以上の称号というもので錬士・教士・範士と右から順に強い方)だったので、教わる価値は十分にあった。

 なので今でも居合刀で太刀筋をまっすぐにして振る鍛錬を怠らないくらいには剣を振り続けている。

 だけど、いくら剣が上手くなったって未知の存在には心が砕かれやすいと知ったのも同じ頃だった。


 三日間の夏合宿が始まった夏休みだ。

 朝稽古を終えて昼食、昼稽古を終えて休憩――。

 次に待っているのは最後の踏ん張りどころである夜稽古であってか、休憩=自由時間をここぞとばかりに満喫することにしていた。

 合宿場所は家からでも徒歩20分ほどで着くS神社という道場が贔屓にしてもらっている所だった。

 大きなイチョウの木と樫の木が道路沿いにある鳥居から見ても目立つ小さな神社だけど、神聖さに満ち溢れた場所だと今でも俺は思う。

 話を戻そう、俺は休憩では神社の庭に出ていた。宿泊で使われる集会場では道場仲間がこぞってカードや漫画やらと遊んだり寛いでいたが、俺は狭い所にいるのは性に合わないのが理由でもあった。

 合宿はこの時で三回目、稽古がキツイのは相変わらずで、神社全体の構造を覚えるのはそうかからなかった。

 ふと、俺は庭の裏側に入ってみる事にした。そこにあるのはちょっとした花や細い木々といった当たり前な物だが、もっと特異すべき物があるのを知っていた。

 焼却炉――それも昭和初期か下手すれば大正あたりから存在する塗装部分なんざ剥がれきって丸一面錆だらけな代物。

 蓋はがたがたで今にも取れかけた状態だったが、ちゃんと機能していて閉開はしっかりできていた。

 俺は何度も見てきたから焼却炉の存在は当たり前のように知っていたが、知らなかった事が一つあった。


――中身はどうなっているんだ?


 そこにあるのは知っていても、中を確認した事はなかった。

 焼却炉の隣には薪らしき古ぼけた丸太が置いてあったから使っているのかもしれないと考えてはいた。

 だから、悪魔の悪戯か……この三回目である合宿で俺は蓋を何気なく開けて調べる事にしたんだ。

 閂をゆっくりと開け、錆が引っ掛かって歪な音を響かせる中、俺はゆっくりと焼却炉の中を見てみた。

 光が照り差し、焼却炉の中をはっきりと映し出した時、何を見たと思う?


【大量の焼け焦げた人形の山】だったよ……。


 元はどんな物だったかわかったのはせいぜい五体ぐらいだった。

 日本人形もあれば、西洋人形もあった。顔部分がただれ、眼球にあたる部品が眼窩から膨れ上がりように浮き出たのを見た時、“見られてる”と一瞬錯覚してしまった。

 見た瞬間、思わず飛び跳ねてしまい、あわてて焼却炉の蓋を閉めた。もちろん二度と開かないように閂をしっかりとかけて……。

 だけどな、見えちゃうんだよ……。

 焼却炉は所々と亀裂もあって、蓋には中を確認するために柵状の部分があって……。

 良く見てみたら、うっすらとした内側がそんな所から覗けるんだ。

 背筋が凍ったよ。人形がまるで“俺を待っていた”ように中で潜んでいる姿という風に見えたから。

 俺は慌てて集会所へと逃げるように帰った。道場仲間が何人か相手をしてきたけど、空返事で一刻も早くその時見た光景を忘れたいと必死に考えていたから……。


 ちなみに、その神社では【お焚き上げ】をやっているとかの霊的儀式。そんな物は一切かかっていないらしい。

 なら、なんで“あんな物”が焼却炉で燃やされた後のままになっていたんだろうか?

 合宿で使わせてもらっている身ではあったが、神社の裏を知ってしまったみたいで何年か神社での合宿が怖くなってしまい、「あんな物に触ってしまった自分がこんな所にいて大丈夫だろうか?」と大人数が横たわる中、一人だけまともに寝れない経験ができてしまった。


 大人になった今、合宿なんて行事とは関係ないが、今でも俺はS神社には一般では知られていない何かがあるんじゃないかと思えて仕方がない。

 今度、試しに御参りついでに見に行ってみようと思う。

 十年も経ったが、まだあの焼却炉が残っているのなら覚悟しなきゃならないかもな……。

 

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