2話。プロローグっぽいナニカ②
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エレン視点。
「若返るのは、肌だけでよろしいのですか?」
「……詳しく聞きましょう」
ご主人様の言葉を聞いたルイーザ様が、私たちの目の前でご主人様に対して敵を睨みつけるような、いえ、完全に獲物を狙う目でご主人様を睨みつけています。
「お、お姉ちゃん……」
そしてご主人様とルイーザ様が睨み合いのようなモノを始めてしまったために、ヘレナが怯えて小声で私に話しかけてきました。
ヘレナの気持ちはわかりますよ? でもねぇ。なんと言いますか、実際問題としてここで私に話を振られてもどうしようも無いと言いますか。
いえ、ここは姉として妹の心配を和らげてあげるべきところなのでしょうね。
「落ち着きなさい。ルイーザ様がご主人様に危害を加えるようなことはないから。……多分」
「多分って?!」
そう思って冗談を交えてフォローして上げたというのに、私の言葉を聞いたヘレナは安心するどころか逆に不安になったのか、少し大きな声を上げてしまいました。
今は私たちの監督役であるルイーザ様がご主人様との会話に集中しているから良いものの、本来ならそのような不調法をしたら折檻を受けても不思議では……あ、今ルイーザ様がチラっとこちらに視線を向けましたね。
これは後から折檻ということでしょうか。
思わず溜息を吐きそうになりますが、流石にご主人様の前でそのような真似をしては侍女失格です。そう思った私はなんとか溜息を堪え、今も私の隣で焦った顔をするヘレナに声をかけることにしました。
「大丈夫ですよ。ご主人様の立場もありますが、元々ご主人様が作る薬は誰かに真似ができるものでもありませんからね」
だからルイーザ様と仲違いをしても侯爵閣下を敵に回すことにはなりません。そう言ってあげると、ヘレナはようやくホッとしたような顔をみせました。
まったくこの子は、心配しすぎ……とも言えません。
普通に考えれば、新興の準男爵でしかないご主人様が、後ろ盾である侯爵閣下のご意向を受けて動いているルイーザ様に逆らうなどありえませんからね。
そんなことをしたらお家取り潰し待ったなしです。私もヘレナも、こうしてご主人様に拾っていただいたからこそ幸せを掴みつつあるというのに、ご主人様の立場を支える要因である『侯爵閣下との良好な関係』が崩れてしまっては幸せどころではありません。
だからこそ、ヘレナがご主人様の失脚を恐れる気持ちはわかりますよ?
ですが、そもそもの話、ご主人様は『普通の準男爵』ではないのです。
なにせご主人様は【勇者】と共にこの世界に召喚された異世界人であり、その異世界の貴族であるお方なのです。故に侯爵閣下も国王陛下もご主人様を『異国からの客人』として扱っていますし、現在の立場も『侯爵閣下の寄子』と言うよりは『侯爵家の客人』に近いのです。
このような事情から、侯爵家の侍女長であったルイーザ様にとっても、本来ご主人様は主人と言うよりは遇すべき客人となります。
だから、今は薬のことであのような態度を取られておりますが、もしご主人様が本気でルイーザ様を叱責したならば、ルイーザ様とて頭を下げねばなりません。
……流石に『もう薬は作らないぞ!』などと言うことを口にするなら向こうも色々と考えるでしょうけど、ご主人様が望むのはあくまでレベルアップや、そこそこの自由でしかありません。
それにご主人様は『自分は薬を作り続ける機械になる気はない』と常々仰ってましたしね。ご主人様が望むそれを、ルイーザ様に止められるか? と言われれば、答えは否。
加えて言えば、現在の薬の製作は全てがご主人様のスキル頼りです。だからこそ、ご主人様は普通に『毎月これくらいの薬を作れるが、これ以上はスキルの都合上難しい』と宣言すれば、それで薬の製作については問題なかったのです。
実際、今の状態でも侯爵様は満足しているようですしね。
だというのに、ご自分から新しい薬の可能性を告げてしまってはさらにノルマを増やされることになりますよ?
……本来ならお諌めするべきなのでしょうけど、今更新薬の存在を告げられたルイーザ様を抑えられるとは思えませんし、なによりご主人様の『ふっふっふっ。我が妙薬の存在に畏れ慄くが良いわ!』と言わんばかりの、ドヤぁっとしたお顔を見ていると、もっと見ていてしまいたくなりますね。
うん。やっぱり私には、あのお顔を曇らせるようなことを言うのは無理です。
で、ルイーザ様は乗せられた振りをして新たな薬の情報を得ようとしてますし、ヘレナはそんな二人の睨み合いに怯えている。マルレーン様とマルグリットさんは……あぁ、特に気にしてませんか。
ご主人様の護衛を任務とするお二人にとっては、薬の製作云々よりもご主人様がレベルアップするために外出することになった際の警備体制をどうするかが問題ですものね。
翻って、私たちはどうするべきでしょう?
基本的にはご主人様に従うべきなのでしょうけど、そのご主人様がルイーザ様と敵対を望んでいませんから、とりあえず今は様子見に徹するべきでしょうか?
「ふっ。これを見て下さい。……どう思いますか?」
いざという時、私はルイーザ様を止めるのか、それともご主人様を止めるか……そんなことを考えていたら、ご主人様が懐から二本の少し大きめの試験管を取り出しました。
おそらくあれが先程まで実験室で作っていた新薬なのでしょう。
試験管の中に入っている薬品の色は、一つは濃い緑でもう一つは濃い青色です。あとの特徴は向こうの世界の文字が書かれたラベルが貼られている程度ですが、私にはなんと書いてあるか読めないのでなんとも言えません。
「……少し、大きいですね」
そして試験管に書かれてある字が読めないのはルイーザ様も同じようで、自信満々にラベルを見せるご主人様に対して訝しむような視線を向けながら、私が考えたことと同じように普通の試験管よりも少し大きいことを指摘します。
そんなルイーザ様のお言葉を聞いたご主人様は「むぅ。やはりこの大きさは微妙か……」と、呟いていますが……大きさに何か意味があったのでしょうか?
それも気にはなりますが、今重要なのは大きさではなく中身ですよね。
「で、ご主人様。それはいったいどのような効果があるお薬なのでしょう?」
そのことを何よりも気にしているであろうルイーザ様が、些か焦れたような口調でご主人様へと問いただします。あれは演技ではなく半分以上本気ですよ。
まぁ、元々ルイーザ様はご主人様に『若返るのは皮膚だけで良いのか?』などと挑発じみたことを言われていますからね。あの薬がご自身の『何か』を若返らせると言うのならば、気になるのは当然のことです。
(これ以上焦らしたら大変なことになりますよ)
実家の母もそうなのですが、基本的にあの年代の女性に『若さ』を餌に何かをするのは危険なのです。絶対に餌ごと腕をもぎ取られますからね。
「ゴホン。これはですね」
「それは?」
ご主人様もルイーザ様から発せられる空気に剣呑なモノが混じったのを感じ取ったのか、それまでの挑発的な笑みを消して、真顔になって薬の効果を話し始めます。
「これは髪に栄養を与える薬なのです」
「「「カミ?」」」
「そう。髪」
そう言いながらご主人様はご自身の頭を指します。
「なるほど。御髪ですか」
ルイーザ様も得心がいったとばかりに頷いていますが、私にもルイーザ様のお気持ちはわかります。確かに御髪となれば女性にとっては捨て置けるものではありませんよね。
実際にこれまでも、異世界から召喚された方々によってシャワーや髪用のシャンプーが普及しましたが、ご主人様が作り出したモノはきっとそれ以上のモノなのでしょうし。
「えぇ。とりあえずの試作品として二種類作りました。こっちの緑が毛根に栄養を与えて根元から髪を強くしたり新たに髪を生やすタイプ。そしてこっちの青が今ある髪のダメージをケアするタイプです」
へぇ。ふぅん。ほぉ。なるほどなるほど。緑色が髪を強くして青が髪のケアですか。それはそれは。
「……ほう。それは両方同時に使えるのですか?」
ルイーザ様がギラリと目を光らせます。私としては後者のダメージのケアに興味がありますが、ルイーザ様はおそらく前者。いえ、両方でしょうか。
「残念ながら、まだそこまではわかりません。ですのでとりあえずは一種類ずつ試すべきでしょうね」
「……なるほど」
ほほう。
「では僭越ながら、私が髪のダメージをケアする薬を試させていただきましょう」
私もご主人様の侍女として薬の実験に付き合うべきですよね。えぇ。絶対に私がやるべきです。
「エレン?」
「お姉ちゃん?!」
「……ここで貴女が動きますか。いや、確かに秘薬が二種類有るなら両方試さなければいけません、か」
ですよねぇ。ルイーザ様の御髪は綺麗な銀髪ですが、お若い時と比べればその本数などはどうしても少なくなっているはず。なのでルイーザ様としては、まずは髪を増やしてから、ケアですよねぇ。
対して私は今のところ御髪を強くする必要はありませんからね。最初からケアに集中できます。それに、私が結果を出せば、ルイーザ様にも損はありません。
「はい。それに最初は何かあってもご主人様がフォローできる場所にいる、私とルイーザ様が被験者となるべきかと」
ヘレナはまだ早いし、マルレーン様とマルグリットさんは護衛だから何かあっても困ります。ならばあとは消去法で私とルイーザ様が実験をするしかありませんよね。
いやぁ新しい薬の実験なんて怖いなぁ。もしも失敗したら困るなぁ。でも試さないとなぁ。怖いけどご主人様の実験に協力しないとなー。
そう思いながら、私はご主人様に近づき、その手にある青の薬を手に取ります。
「いや、別にエレンじゃなくても従士の人とか……」
あーあーご主人様が何か言ってますけど、聞こえません。聞こえませんよー。
「「ではご主人様。お薬を頂戴します。それで、これはどのように使うのですか? 塗るのですか? 飲むのですか? 一回の分量は? そもそもこの量は何日分なのですか?」」
「お、おう。これはだな……」
「「これは?」」
……………………
結局、ルイーザ様と共にご主人様に詰め寄り、用法や使用上の注意を確認した私はこの日、この薬を髪に塗ってから就寝しました。
結果は……流石ご主人様と言うべきでしょうか。
翌日にはいつもよりサラサラでツヤツヤになった私の髪を見て、ルイーザ様が羨ましそうなお顔をされていました。
ふふっ。物欲しそうなお顔をなされていますが、このお薬はもう私のモノですからね!
いくらルイーザ様相手でもこれは絶対に譲りませんよ!
「お姉ちゃんの髪がすっごく綺麗! ねぇ私にもちょっと……「ダメです」……えぇぇぇ!」
いや、あげるわけないでしょうに。
「何を驚いているのよ? そもそも貴女の髪の長さだとダメージケアなんて必要ないでしょ?」
無い無い。必要なーい。
「いや、必要ないってことは無いでしょ?!」
聞こえなーい。
「お姉ちゃーん?!」
私はなおも抗議の声を上げているヘレナを放置し、ご主人様へ『若返りの薬とかレベルアップとかしなくても良いから、すぐさまこの薬の量産をしてほしい』という嘆願書を提出するため、机に向かうのでした。
元々胃薬と毛生え薬は製作予定でしたからねぇ。
それと戦争中の国がリンスだのトリートメントに気を使うとは思えない……と言うか、基本的に先進国の中でもここまで一般人が普段使うシャンプーとかに気を使ってるのって日本くらいでしょ? と田舎者の作者は思った次第でございます。
レディースアートネ○チャー的なウィッグではなく、毛根から毛を強くするタイプですってお話。
―――
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そんでもって☆は全部で5個あるそうですよ? (チラチラ)
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