65 狂暴な獣と魔女の娘
少々 乱暴なシーンがございます。
不快な方は ご遠慮ください。
ジェスが待っているから。
カルヴィナが他の男の名を呼んだ途端、俺の中で何かがブチ切れた。
やぐらを降りる理由がそれなのか?
あの男が一方的に取り付けた約束を守るために?
強烈なまでの怒りが沸き上がり、押え付ける事など不可能だった。
逃げを打つカルヴィナを捕らえると、後ろから羽交い締めにする。
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『おばあちゃん、怖いよ、助けて』
人は窮地に陥ると、自然、一番頼りにしている者に縋るものだ。
予測は付いていた。
それなのに、カルヴィナが助けを求める相手にすら嫉妬した。
これが予想外の相手だったら、自分はこの娘をどうしてしまうか予想もつかなかった。
おそらくどころか確実に、この程度では済みはしない。
力の差にモノを言わせて身も心もズタズタに引き裂いてしまったかもしれない。
後先も考えず、己の嵐をその小さな体に知らしめてやればいい。
そんな狂暴な想いに支配される。
振り払えなかった。
傷痕をたどりながら右足を撫で上げる。
『この足で踊ろうというのか?』
カルヴィナは首を振っている。
か弱く、ふるふると震え、泣きじゃくりながら。
『恨むのなら大魔女を恨むのだな。こんな男に借りを残したまま亡くなったのだから』
嫉妬でどうにかなりそうだった。
怒りのあまり、破滅的な行いをしている自覚はあった。
だが、止まらない。
『仕える主の異常時だというのに、おまえは何をしてくれた? 大魔女の娘』
今更、そんな事を持ち出すなんてどうかしている。
それでしか縛る方法の無い自分にも笑える。
ここ最近まで、主従の関係など無いのだと思わせるようなそぶりを務めておいて、いざとなったらそれを持ち出す。
思えば希薄な間柄だ。
そもそも始まりからして、それだった。
だったら。
いまさら。
何を取り繕う必要があるのか。
『ジェスは私に対して罪悪感を持っているだけです。ただ、それだけです。だから、もういいよって伝えたくて。他にジェスの事、待っている子がいるのに……。だから! お願いです、地主様。だから、降りなきゃ』
もがいて腕から逃れようとする身体を、思い切り抱き込んだ。
恐怖からか身動きが弱くなった。
そんなカルヴィナの身体を抱え上げ、敷き織り物へと連れ戻した。
そうやって腰下ろせば、やぐらの囲いに阻まれて、外からは見えなくなるだろう。
『あ、あの、地主様を待っている子も、いると思います。一緒に踊って欲しくて。だから降りましょう?』
見当違いの事ばかりを紡ぎ出す、その口を黙らせるにはどうしたらいい?
組み敷いて、その白い喉がのけ反る様を見定めていた。
差し出されるがごとく誘う、そこのどこに食らいついてやろうかと。
口元を寄せるも、仮面が邪魔だった。
仮面の下で唸る。
文字通り、ただの獣でしかない。
甘く香る肌を前に、飢えはつのるばかりだ。
『地主様? どうされたの? お祭り、本当は嫌だったからお怒りなのですか? 無理やり付き合わせてごめんなさい』
ただ、ひたすらに詫びて詫びて許しを請う。
それすらも腹立たしく、獣の本性をむき出しにさせるだけだった。
泣き出したカルヴィナの泣き声も涙も、奪い尽くしてやりたいと思った。
だから宣言する。
『おまえはもう俺以外に嫁に行けないようにする』
顎をつかみ、そらせないようにして見下ろす娘は、忙しなくまばたきを繰り返している。
『お嫁に、行けない?』
見開かれた瞳が瞬くと、涙がひとしずく零れ落ちた。
『もともと……どこの誰にも、行けませんよ?』
魔女ですからと不思議そうに告げられた。
何故、俺がそのような事を言い出すのか、知りもしない無垢な娘。
まるで理解できないといった表情は、最初に連れてきた時から全く変わりが無いものだった。
『あああああ。レオナル、取り返しつかなくなるよ』
もう少し地主には冷静になってもらいたかったのですが。
無理でした。
あああああ。
下書き無視ですよ、また。
終わりから遠ざかる~。




