世界の王に…?
彦三郎とカールと共に、ジュノーが 言っていた、祭壇の奥の部屋に入ると、目がくらみそうな程、金銀宝石で溢れかえっていた。
「ジュの字と申すは、案外正直者なのだな。その呪いに使った呪われた宝石以外は、全て残しておいたのか。」
「その様だ。じゃあ、そこに丁度ある箱に、オルトロス分、ペガサス分、麒麟国分と分けて持って帰ろう。」
カールが露骨に嫌そうな顔で文句を言った。
「ええー!?これ全部分けるのおー?!嫌だよ、そんな面倒くさい事ー!」
アレックスは呆れ顔で、カールを見た。
「嫌なら帰ってもいいが、ここまでやって、依頼を達成したって事になるんだよ。あんた帰るなら、依頼金に、この手間分も上乗せするが、いいか。」
「うん、いいよ。お金払って済むなら。」
アレックスは眉を吊り上げて怒り出した。
全身真っ赤で、ただでさえ、大きな目だけが目立つ状態だから、怒ると、鬼か悪魔の様に恐ろしい事になる。
カールは思わず後ずさりしてしまった。
「だからあんたはボンクラって言われちまうし、マリーにあっさり捨てられちまうんだよ!その金は何処から出てると思ってんだ!額に汗して働いた民から出てるんだぜ!?」
「ーそんな事言われてもお…。」
カールは口を尖らせ、べそをかいて、いじけてしまった。
「もういい。とっとと帰れ。後はやっとく。」
「うん。じゃあ、宜しくね。」
カールが本当に帰ってしまうと、アレックスは大きなため息をつき、分別を始めた。
「ボの字は、駄目だなあ。絵に描いた駄目男だ。」
「本当にもう…。マリーの話では、俺にとってのダリル達の様な存在の、マックスという男が、相当苦労しているという事だったが、主君があれでは、本当に不憫だ。」
「まことよのう。だから、アの字、兄上殿の仰る通り、この世界を統べて、ボンクラ王でも、国民が難儀せぬ様にしたらどうだ。」
「彦三郎まで何を言う…。勘弁してくれ。」
「ジュの字の扱いを見ても、立派な王になれると思うが。」
「ーそんなのが居なくても、みんな仲良く、助け合える世界にしなくては、長続きしない。アレキサンダー王が亡くなったら、また戦乱の世になってしまった。そうならないように、膿があれば、出し尽くして、根本的な問題を解決すれば、世界の王など要らない。アレキサンダー王一代では、時間が足りなかったんだろう。」
「ふーむ…。まあ、俺としても、アの字と口も利けぬような間柄は寂しくてかなわんがな。」
「俺もだ。」
分別し終わり、ボロボロの城から出てくると、アデルとリチャードが相談しながら、忙しく指示を出していた。
ダリル達も、当然の様に待っていてくれている。
「ああ、アレックス。」
アデルが寄ってきた。
「やはり、ウロボロス国民は、殆ど殺られてしまっていた。
もう数える位しか居ない。
リチャード公と相談して、ここは、聖魔導士の学校地域にする事にした。
世界中、どこの国民でも、等しく学べる所に。
ジュノーも学べるし、監視も出来る。
元のウロボロス国民も、学校が出来る事で、商いもしやすくなるだろうし、人の出入りも増えて、潤うだろう。一石二鳥だ。」
「流石です。有難う御座います。」
「俺はもう少し残って、復興の計画を立ててから戻る。気をつけて帰れよ?」
「はい。」
「えええ!?本当に泳いで行かれるのですか!?」
ダリルが泣き叫んでいるかの様に聞いた。
「ああ。オルトロスは、ここから1番近い大陸だし。イリイ、その箱持って、オルトロスまで行って、いつもの所で、待っていてくれ。」
イリイがクーと返事をして、箱を掴んで飛び立つと、ダリルの大鷹にペガサスの配達分を頼み、心配そうなダリルとアンソニーに見守られながら、本当に泳ぎ始めた。
彦三郎は、ダリルの隊の男の大鷹に箱を掴んで貰いつつ、乗せて貰い、アレックスを見守りながら、上空を飛んでいた。
ダリルの大鷹に乗っているアンソニーに、彦三郎が話しかけた。
「魔導士殿。何故アの字には、悪い魔法は効かぬのでござるか。」
「人というのは、誰しも、何処かしらに弱い心というものを持っております。
保身の為に嘘をついたり、裏切ったり。
自分の身可愛さに人を殺めたり。
小さな事では、面倒だからと後回しにして、やるべき事から逃げて、人に迷惑をかけたり。
又は自分が困る事になって、自分が悪いのに、人の所為にしたり、愚痴を言ったり。
その弱さが悪を許す事になり、自ら悪に転がる。
しかし、それが人とも言えます。」
「うむ。確かにな。」
「闇の魔法、黒魔法というのは、いわば、その弱さに付け込み、利用し、効くものなのです。
それ以外でも、人に害を為さずとも、人は普通死を恐れます。
その恐れも利用するのが、闇魔法、黒魔法です。」
「つまり、アの字は、弱さも恐れも無いから、効かぬという事か。」
「そうです。無効にすら出来るのです。」
「うーん、大したものだな、アの字は。」
彦三郎が、静かに感心していると、突然、ダリルが、真っ青になって叫び、大鷹を急降下させた。
「アレックス様あああああ!」
アレックスは、うつ伏せの状態で、動かなくなってしまっている。
「ダリルー!我らに救助は無理ぞー!宝石の箱を海中に落としたら、アレックス様に真っ二つにされてしまうわああー!」
アンソニーに言われ、ダリルがはたと気付いたところで、別の騎士が、大鷹を急降下させ、アレックスを引き上げた。
「ああ、良かった…。隊長!お休みになっているだけです!血もすっかり綺麗に!」
「大義!はあ、良かった…。あんな戦いの後だというのに、本当に無理をなさる…。」
アレックスは可愛い寝顔で、スヤスヤとよく眠っていた。
「アデル。本当にいいのか。」
リチャードが探るような目でアデルを見ながら聞いた。
「何がですか。」
「フィリップは、ジュノーのせいで亡くなった。許していいのか。」
アデルは少し暗い顔になると、言葉を選びながら答えた。
「ーアレックスとアンソニーの話を聞き、ジュノーの様子を見て、今回の件は、全てキマイラ国王が仕組んだものであり、ジュノーもまた被害者である事が分かりました。
怒りに任せてジュノーを殺しても、フィリップは戻って来ないし、何も生まれない。
フィリップが死んだのは、キマイラ国王の所為です。
そしてそのキマイラ国王は、アレックスが真っ二つにしてくれ、息子に助けても貰えず死んだ。それで十分です。」
「そうか…。よくそこまで整理できたな…。大したものだ…。ではもう一つ。」
「なんですか。」
「ここを竜国にしたいと言いそうなものだと思うてな。
これでは、どこの国のものだか分からん感じだ。
勿論、約束通り、竜国と共に、ここの警備や、復興支援はするが。」
アデルは少し笑うと、空を見上げた。
「ー世界は徐々に1つになろうとしています。」
「そうだな。」
「アレックスが王になれば、真に1つになるでしょう。」
リチャードは、少し驚いた顔で、アデルを見た。
「そなたは、その為に今まで竜国を大きくしてきたのか…?アレックスを世界の王にする為に…。」
アデルは答えず、踵を返した。
「では帰ります。」
リチャードは嬉しそうに笑うと、アデルの背中に言った。
「素直なお前は、アレックス位好きだぞ!器に非ずではない!立派な君主だ!」
アデルは照れ臭そうに一礼し、大鷹に乗った。




