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呪いの島  作者: 桐生初
16/18

世界の王に…?

彦三郎とカールと共に、ジュノーが 言っていた、祭壇の奥の部屋に入ると、目がくらみそうな程、金銀宝石で溢れかえっていた。


「ジュの字と申すは、案外正直者なのだな。その呪いに使った呪われた宝石以外は、全て残しておいたのか。」


「その様だ。じゃあ、そこに丁度ある箱に、オルトロス分、ペガサス分、麒麟国分と分けて持って帰ろう。」


カールが露骨に嫌そうな顔で文句を言った。


「ええー!?これ全部分けるのおー?!嫌だよ、そんな面倒くさい事ー!」


アレックスは呆れ顔で、カールを見た。


「嫌なら帰ってもいいが、ここまでやって、依頼を達成したって事になるんだよ。あんた帰るなら、依頼金に、この手間分も上乗せするが、いいか。」


「うん、いいよ。お金払って済むなら。」


アレックスは眉を吊り上げて怒り出した。


全身真っ赤で、ただでさえ、大きな目だけが目立つ状態だから、怒ると、鬼か悪魔の様に恐ろしい事になる。


カールは思わず後ずさりしてしまった。


「だからあんたはボンクラって言われちまうし、マリーにあっさり捨てられちまうんだよ!その金は何処から出てると思ってんだ!額に汗して働いた民から出てるんだぜ!?」


「ーそんな事言われてもお…。」


カールは口を尖らせ、べそをかいて、いじけてしまった。


「もういい。とっとと帰れ。後はやっとく。」


「うん。じゃあ、宜しくね。」


カールが本当に帰ってしまうと、アレックスは大きなため息をつき、分別を始めた。


「ボの字は、駄目だなあ。絵に描いた駄目男だ。」


「本当にもう…。マリーの話では、俺にとってのダリル達の様な存在の、マックスという男が、相当苦労しているという事だったが、主君があれでは、本当に不憫だ。」


「まことよのう。だから、アの字、兄上殿の仰る通り、この世界を統べて、ボンクラ王でも、国民が難儀せぬ様にしたらどうだ。」


「彦三郎まで何を言う…。勘弁してくれ。」


「ジュの字の扱いを見ても、立派な王になれると思うが。」


「ーそんなのが居なくても、みんな仲良く、助け合える世界にしなくては、長続きしない。アレキサンダー王が亡くなったら、また戦乱の世になってしまった。そうならないように、膿があれば、出し尽くして、根本的な問題を解決すれば、世界の王など要らない。アレキサンダー王一代では、時間が足りなかったんだろう。」


「ふーむ…。まあ、俺としても、アの字と口も利けぬような間柄は寂しくてかなわんがな。」


「俺もだ。」




分別し終わり、ボロボロの城から出てくると、アデルとリチャードが相談しながら、忙しく指示を出していた。


ダリル達も、当然の様に待っていてくれている。


「ああ、アレックス。」


アデルが寄ってきた。


「やはり、ウロボロス国民は、殆ど殺られてしまっていた。

もう数える位しか居ない。

リチャード公と相談して、ここは、聖魔導士の学校地域にする事にした。

世界中、どこの国民でも、等しく学べる所に。

ジュノーも学べるし、監視も出来る。

元のウロボロス国民も、学校が出来る事で、商いもしやすくなるだろうし、人の出入りも増えて、潤うだろう。一石二鳥だ。」


「流石です。有難う御座います。」


「俺はもう少し残って、復興の計画を立ててから戻る。気をつけて帰れよ?」


「はい。」




「えええ!?本当に泳いで行かれるのですか!?」


ダリルが泣き叫んでいるかの様に聞いた。


「ああ。オルトロスは、ここから1番近い大陸だし。イリイ、その箱持って、オルトロスまで行って、いつもの所で、待っていてくれ。」


イリイがクーと返事をして、箱を掴んで飛び立つと、ダリルの大鷹にペガサスの配達分を頼み、心配そうなダリルとアンソニーに見守られながら、本当に泳ぎ始めた。


彦三郎は、ダリルの隊の男の大鷹に箱を掴んで貰いつつ、乗せて貰い、アレックスを見守りながら、上空を飛んでいた。


ダリルの大鷹に乗っているアンソニーに、彦三郎が話しかけた。


「魔導士殿。何故アの字には、悪い魔法は効かぬのでござるか。」


「人というのは、誰しも、何処かしらに弱い心というものを持っております。

保身の為に嘘をついたり、裏切ったり。

自分の身可愛さに人を殺めたり。

小さな事では、面倒だからと後回しにして、やるべき事から逃げて、人に迷惑をかけたり。

又は自分が困る事になって、自分が悪いのに、人の所為にしたり、愚痴を言ったり。

その弱さが悪を許す事になり、自ら悪に転がる。

しかし、それが人とも言えます。」


「うむ。確かにな。」


「闇の魔法、黒魔法というのは、いわば、その弱さに付け込み、利用し、効くものなのです。

それ以外でも、人に害を為さずとも、人は普通死を恐れます。

その恐れも利用するのが、闇魔法、黒魔法です。」


「つまり、アの字は、弱さも恐れも無いから、効かぬという事か。」


「そうです。無効にすら出来るのです。」


「うーん、大したものだな、アの字は。」


彦三郎が、静かに感心していると、突然、ダリルが、真っ青になって叫び、大鷹を急降下させた。


「アレックス様あああああ!」


アレックスは、うつ伏せの状態で、動かなくなってしまっている。


「ダリルー!我らに救助は無理ぞー!宝石の箱を海中に落としたら、アレックス様に真っ二つにされてしまうわああー!」


アンソニーに言われ、ダリルがはたと気付いたところで、別の騎士が、大鷹を急降下させ、アレックスを引き上げた。


「ああ、良かった…。隊長!お休みになっているだけです!血もすっかり綺麗に!」


「大義!はあ、良かった…。あんな戦いの後だというのに、本当に無理をなさる…。」


アレックスは可愛い寝顔で、スヤスヤとよく眠っていた。




「アデル。本当にいいのか。」


リチャードが探るような目でアデルを見ながら聞いた。


「何がですか。」


「フィリップは、ジュノーのせいで亡くなった。許していいのか。」


アデルは少し暗い顔になると、言葉を選びながら答えた。


「ーアレックスとアンソニーの話を聞き、ジュノーの様子を見て、今回の件は、全てキマイラ国王が仕組んだものであり、ジュノーもまた被害者である事が分かりました。

怒りに任せてジュノーを殺しても、フィリップは戻って来ないし、何も生まれない。

フィリップが死んだのは、キマイラ国王の所為です。

そしてそのキマイラ国王は、アレックスが真っ二つにしてくれ、息子に助けても貰えず死んだ。それで十分です。」


「そうか…。よくそこまで整理できたな…。大したものだ…。ではもう一つ。」


「なんですか。」


「ここを竜国にしたいと言いそうなものだと思うてな。

これでは、どこの国のものだか分からん感じだ。

勿論、約束通り、竜国と共に、ここの警備や、復興支援はするが。」


アデルは少し笑うと、空を見上げた。


「ー世界は徐々に1つになろうとしています。」


「そうだな。」


「アレックスが王になれば、真に1つになるでしょう。」


リチャードは、少し驚いた顔で、アデルを見た。


「そなたは、その為に今まで竜国を大きくしてきたのか…?アレックスを世界の王にする為に…。」


アデルは答えず、踵を返した。


「では帰ります。」


リチャードは嬉しそうに笑うと、アデルの背中に言った。


「素直なお前は、アレックス位好きだぞ!器に非ずではない!立派な君主だ!」


アデルは照れ臭そうに一礼し、大鷹に乗った。
















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