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薄幸のOLは、異世界でおっさんになることにしました。  作者: こる
第一章 第三層にて

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暴漢※流血表現あります

 立ち上がって周囲を見渡し、家、と思しきシルエットに向かってゆっくり歩く。

 地面は整地されていないので、気を抜くと足を取られるのよね。


 おっかなびっくり歩くことに集中し、やっと階段にたどり着いた! と思ったら、グイッと腕をうしろに引かれてたたらを踏んで転んでしまった。


「こんな所で、オンナを囲うなんて。さすが新進気鋭のBランクハンター様は違うねぇ」


 尻餅をついたのに腕を掴まれたままで、のぞき込むように……値踏みされるように、レヴィではない男に見下ろされる。


 声にも、態度にも、下卑た雰囲気を感じる。

 ゾッとする、なじみ深い、あの感覚だ。


 逃げないといけない……! 逃げなきゃ、傷つけられる、酷い目に遭わされる!


 防御の魔法が効いているから掴まれた腕は痛くないけれど、恐怖に体が強ばって体が逃げを許さない。


「なぁ、どうやってアイツをたらし込んだんだ? 女っ気なんてない奴で、オンナを使って取り入ろうとする人間をことごとく返り討ちにするような奴だぞ。オレらん中じゃぁ、女嫌いで通ってる奴なのによ? まぁ、確かに、ガキみてぇに見えるから庇護欲がそそられるのかもしれねぇな」


 男の顔が近くて、くさい息が掛かる。


 呼吸する関係で空気を通す防御の魔法だったのが裏目に出た。


 顔をしかめたわたしに腹が立ったのか、男は腕を掴んでつるし上げるようにわたしを持ちあげた。

「つっ……!」


 咄嗟に顔をしかめたわたしに、男は楽しそうに肩を揺らす。


「痛ぇか? ここじゃ、回復ができる奴もいねぇよ? なぁどうする?」


 男はなにかを求めているようだけれど、それがなんなのか考える余裕なんてない。


 恐怖だけが思考を埋めてゆく。


「や……っ! いや……!」


 どうしてこんな弱々しい声しか出せないのか、防御の魔法があるのだから掴まれたって痛くないのに、どうして体はすくんでしまうの!?


 それが、身に染みついてしまっているのだと――理解しているけれど。

 異世界に来てまで! あの虐げられた、搾取されてきた、惨めな思いを、ここでもしなきゃいけないの!?


 違うでしょっ!


 ここには魔力がある! 魔法がある! わたしはそれを使うことができる!!

 もう、搾取されない! 暴力だってわたしには効かない! 恐れることなく、生きていける力があるのよ!


 立って! 立ち上がって、わたし! あなたはやれる、あなたはできるのよ! 日瀬あき!


 ぐっと顔をあげて、男を睨み付ける。


「お? なんだ、いっちょ前に睨みやがって。レヴィオスはまだまだ帰らねぇよ? あいつ、今日は二層に繋がるダンジョンの保守チームの助っ人に入ったからな」


 わたしの心をくじくように、半笑いの声がレヴィの動向を教える。


 まだ、レヴィは戻らないのなら、こんなわたしを見られることもないということ。


「そう……レヴィは、戻らないのですね」


 わたしを助けてくれた優しい彼に、醜いわたしを見られたくないから。


 何度もシミュレートした怒りを、見られることはない。

 そう、何度も何度も色々なパターンで考えたでしょう、向こうの世界に居た頃から何度も、何度も、踏みつけられ、搾取される度に!


 力を持ったいまこそ、立ち上がる時だ。


 わたしの腕を握る男の手を逆の手で掴むが、防御の魔法越しだから感触はない。


「なんだ? お前もやる気になったのか? どうせ、毎晩アイツを咥えてんだろう? たまにゃぁ、他の男を味見してぇだろ?」


 品のない笑い声を上げる男に、怒りが湧き上がる。


「レヴィはそんなことをしません。彼は立派なひとです」


「へぇ! オンナを連れ込んどいて、手を付けねぇってことは、オンナ嫌いってぇのは本当なんだな。男好きってぇのは聞かねぇが、これからは、尻を見せねぇようにしねぇとな」


 下品な男の言葉に、吐き気がする。


「その言葉を撤回してください。彼を侮辱するのは許せません」


 男を睨み付けてきっぱりと言い切れば、男は楽しそうに声をあげて笑った。


「許せねぇって? 許せねぇからどうだってんだ? 嬢ちゃんみてぇな小娘なんてな、この第三層じゃ、簡単に死んじまうってのは常識なんだよ。武器のひとつも持ってねぇ、魔法ができるわけでもねぇ。男に媚びを売るのが仕事だろう? ほら、言ってみろよ。オレのを咥えたくて仕方ありません、奉仕させてください、ってなぁ」


 どうして……どうして、クズっていうのはどの世界でも同じなんだろう。


 本当にもう、うんざりだ。


「腕を切り落とされたくなければ、手を放してください」


「あぁ? 切り落とすだぁ?」


 男の怪訝な声を聞きながら、男の二の腕に掴まれていない方の手で触れる。


「『ザン』」


 すっぱりと腕を切り離し、わたしの腕を掴んだままだった腕の先の部分を剥がして男に渡す。


「あ? は? え?」


「回復魔法がないのは、残念でしたね。綺麗に切ったから、すぐならくっついたでしょうに」


 わたしが言い終えた途端、傷口から血があふれ出した。


「ひぃぃっ! オレのっ、オレの腕がぁぁぁっ!!」


 恐慌状態に陥った男だったが、すぐに傷口を強く縛り止血をする。

 さすが第三層に来るような冒険者だ。


「こ、こ、こんなことをして、ただで済むと思ってるのかっ!」


「先に手を出したのはあなたです。わたしは、わたしの尊厳を守る。何人なんびとにもわたしは虐げられない、搾取されない、わたしはわたしを――」


 その時だった、突然甲高い鳥のような鳴き声が上空から聞こえたかと思ったら、次の瞬間に強い衝撃がわたしを襲った。

本日(20日)、前に連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が一迅社文庫アイリス様より発売されます。

巻末に書き下ろしもありますので、お手にとっていただけると大変嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
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