廃村での戦い1
自分で撒いた毒を食らって絶命した二人を置いて、爆発音の聞こえた村の中を目指す。
レヴィのことだから無事だとは思うけれど、手段を選ばない派手な魔法を使われれば……万が一がないとは言い切れない。
村の中に入り探索の魔法を使って村の様子を確認しようとしたけれど、なぜか魔法が上手く発動しない。いやそれだけじゃなく、自分に掛けていた守りの魔法が解けていることに、やっと気付いた。
……どういうこと?
魔力自体がなくなったわけではなく、発動するときに霧散する感じだ。
この村全体に、なにか仕掛けがされているのか、それともわたしだけがそうなっているのか。
どちらにせよ、魔法が使えないというのは大問題だ。
身体能力の底上げも自分の身の守りも魔法頼りだから、魔法が使えなくなればただの村人以下になってしまう。
焦る気持ちを抑えて、村から出る事を選択する。
魔法を使えないわたしがこのまま進んでも、彼を助けるどころか足手まといにしかならない。
さっきの爆発音が気がかりだけど……。
彼はAランクの冒険者で、第三層の魔物すら倒せる実力者だもの。彼の強さはよく知ってる、だから大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、村から出るべく踵を返す。
「おっと、どこに行こうってのかしら? あんたはアイツの弱点として、人質になってもらわなきゃ」
どこから近づいたのか、背後に立ったセレニアが私の首に腕を回し、首にナイフを沿わせた。
「依頼主のご要望で、『どんなことをしてでも』あのAランクを殺してくれっていう依頼なの。Bランクの大男が一緒って聞いてたんだけど……まあいいわ。とばっちりを食らって、あんたも散々ね」
「依頼主……って」
首元のナイフを気にしながら呻くように言ったわたしを、彼女は鼻で嗤う。
「依頼主が誰かなんて知らないわ、それがこの世界の流儀よ。でも、これだけの人数を雇えるお方だから、よっぽどお金持ちなんでしょうね」
新聞社の給料だけで賄えるような額ではないだろう、貴族の子女であるカルーダの財力はどれほどのものなのだろう。
町で毒を盛ってきた人たちなども合わせて、二桁にもなる人員を使えるだけの金額なんだから、相当な金額が動いているはずだ。
「たった一人を殺すために、これだけの人数を割くのは異例なのよ? へたな貴族を殺すよりも手こずってるのよね。頭数で報酬が割られるから、ほんと割に合わないわ」
「それなら、彼から手を引けばいいのではないですか」
「そうはいかないわ、ギルドの面目があるからね」
それはそうか……仕損じれば実績に傷が付いてしまうから。
かといって、こちらも殺されるわけにはいかないのよ。
「さあ、しっかり歩きなさい」
わたしの首に当てたナイフはそのままで、掴まれた左腕を後ろに回されて身動きを封じられた。
軋む肩の痛さははじめてじゃない……あちらの世界に居たときに、男子からいたずらにやられた記憶が蘇る。痛がるわたしを嗤う声が脳裏を過り、忘れていた怒りが湧き上がる。
どうしてわたしが理不尽な暴力に耐えなければならないのだろう、あの頃も何度も自問してやり場の無い怒りに身を焦がした。
あふれだす過去のトラウマから、深い呼吸をひとつして理性を取り戻す。
今は怒りを優先させるべきじゃない。
拘束された左腕を後ろから押されるようにして歩かされながら、どうにかこの状況を打開する方法を模索する。




