闇ギルドから依頼を受けた者
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
標的を殺す舞台を整えるべく、廃村の中央にある小屋を雑に片付けながら男の一人が不安をにじませた声で小屋の中で別の作業している男に声を掛ける。
大人の片腕ほどの一片を持つ四角い木箱の蓋を開けて作業している。どうやら中に魔道具が入っているらしい。
「さあな。第一陣はあっさりやられちまったらしいぞ」
「毒を使うやつらだったよな? あいつらの勝率は、かなり高かったんじゃないのか?」
「ああ、ギルドの中でもトップクラスだったな。一人は馬鹿やっちまって、意識不明だとよ」
「それにしても、こんなに早く次の手を打つってのはどうしてなんだ? これだけの人数がいても、準備が間に合わねえんじゃねえか」
口を尖らせる男の言う通り、二桁にものぼるギルドの人間が動員され、この廃村及び、村に至るまでの街道をバレない程度に手入れしている。
非常に労力を掛けた、採算度外視の罠だ。
「どうしても、王都に入れたくないんだとよ。入れちまったら、莫大な違約金が発生する案件だ」
「違約金! そんなもんあるのかよ!? だから慌てて人数集めた上に、こんな大仰な仕掛けまでしてんのか」
「今回はお貴……いや、依頼主からのごり押しで、色々無理を通されちまったらしいぞ。金貨百枚なんてもん積まれちまえば、無理も無茶も通るんだろうよ」
「ひゃ、百枚!? 俺みたいな低ランクじゃ、金貨一枚も見たことも聞いたこともねえよ。それにしてもお前、随分と詳しいな」
感心したように言う男に、言われた男は呆れたように肩を竦める。
「そりゃ、毎日顔出してるからな。色々聞こえてくるもんもあるんだよ。お前ももう少し真面目に働けよ」
「おいおい、暗殺家業で真面目ってのはどうなんだよ、馬ぁ鹿」
笑う男に、もう片方の男は苦笑いをして、作業していた箱の蓋を閉めて釘を打ち付ける。箱の真ん中から一本の丈夫な鎖が伸び、箱自体は丈夫な杭で地面に固定されていた。
「なんにせよ、相手はAランクの実力者だ。これで決めなきゃ、一蓮托生で罰符がつく、腹を括って殺しにいくぞ」
「おうよ! 成功して報酬をもらうまでは、死ねねえからな。身重の嫁に、やっと楽させてやれそうだからよ」
小屋の片付けをしていた男は、そう言って嬉しそうに笑う。
「あんたの仕事は、俺が合図したらこの鎖を箱から引き抜くことだ。なに、接敵しない一番安全な役割だからよ、間違いなく頼むぞ」
「わかってるって。あんたこそ、しっかり合図してくれよ!」
鎖をジャラリと持ちあげた男に「まかせとけ」と言い置いて、足音を立てずに男の側を離れ、持ち場を目指す。
「嫌なはなしを聞いちまったなあ……。取り分はちゃんと家族へ届けておくから、堪忍しろよ」
声には出さぬ男の声は、誰にも拾われることはなかった。
そして、爆発と共に生け贄の命で起動した『魔道具』が動き出す。




