病の村?
お久しぶりでございます、更新するする詐欺で申し訳ございません。
久し振りなので、ふんわりとご説明。
主人公のアキは元の世界で幸薄い人生を歩んできたOL。異世界に渡る途中で世界の真理に触れたことで、色々な魔法を使えるようになった。生きやすいオッサンの姿(※魔法が使えなくなる)で、冒険者をしていたが、この世界に着いた時に助けてくれたレヴィオスと再会したことで、元の姿に戻っている。
レヴィオスを目の敵にしている彼の番記者であるカルーダ・アングストンが、闇ギルドに彼を殺す依頼を出したのを知った二人は、なんとかするために王都に向かっていたのだが。途中、具合の悪い女性を道端で拾ってしまう。
一晩野宿したけれど、セレニアが発熱することも咳をすることもなくてちょっと安心した。
用意したご飯もしっかり食べて顔色もよくなっていたので、彼女の案内で三日かかる場所にあるという村へと向かう。
彼女の調子をみながら、ゆっくりした速度で移動していたので、暗殺者が来るのではないかとヒヤヒヤしながら周囲に探知の魔法を展開したまま移動したけれど、それは杞憂に終わり、安堵とともに警戒を解いた。
村に着いたのは三日目の夕方だった。
時間のせいなのか、あるいは病が蔓延してみんな動けないのか、村は寒々しくひっそりとしていて、恐ろしさを感じる。
薄気味悪さに身震いすると、隣にいたレヴィに肩を抱かれて足を止めた。
数歩先に進んだセレニアがゆっくりと振り向く。
「随分と念の入ったことだな。わざわざこんなところまで、おびき出すなんてよ」
低いレヴィの声に、彼女が数歩後退して身構えたことで、わたしにも彼女に嵌められたということが理解できた。
「Aランクの冒険者であるアンタを殺すには、正面からなんてやってられないからね。それにしても、一般人の調薬師との二人旅とは聞いてなくて焦ったよ。Bランク冒険者とはケンカ別れでもしたのかい」
どっちも、わたしですが。
敵なのがわかったら、彼女に掛けていた防御の魔法も要らないだろう。彼女への魔法を解除して、レヴィを見上げる。
ヤル気になれば、わたしも彼も簡単に彼女の命くらい奪えてしまう。
彼はどうするつもりなんだろう、食堂の毒殺二人組も殺さなかったし、無用な殺生はしないのだろうか。
「アンタの出方次第では、その子は殺さないでおいてあげる」
優位を確信している彼女の言葉に、周囲を探知する魔法を再度展開する。探知とはいっても、潜まれて動きがなければ察知できない。
この村についたときに切らなければよかっただろうか、いや多分そのときにはもう潜まれていただろうから同じ事かな。
どのみち、物理も魔法も跳ね返す防御の魔法は常時わたしたち二人に掛けてあるので、問題はないのだけど。
「お前、自分が俺の間合いに居ることもわからないのか?」
「あははっ! 片手で大事に抱えている、その子を守りながら?」
挑発的に笑う彼女に、レヴィはわたしの肩を抱いたまま器用に剣を抜き、抜いた一連の動作のまま彼女の腕を切り落とした。
「次は首を落とそうか?」
切り落とされた腕を拾い、素早く倍以上も後退した彼女に、彼が淡々と声を掛ける。
「俺の温情で生かされていることを理解しろ」
レヴィは剣を地面に突き立てると、挑発するように人差し指でトントンとこめかみを叩いた。
この状況なのに、わたしの肩を離すつもりはないようだ。
そのとき、周囲の藪に潜んでいた人間に動きがあった。
音を消して移動している……風上を取りたいのか。
トンとレヴィの胸を叩き、彼女から見えないようにこっそりハンドサインで教えると、彼の表情がとろりと溶けた。
この距離なら言葉でも十分だったと思い直して、顔が熱くなる。
「可愛いなそれ」
緊張感のない彼の言葉に気が抜けてしまう。
「わたしがやってもいいですか?」
胸元で藪に潜む二人を指差すと、彼は引き締めた表情で了承してくれた。
「そうだな。そっちは頼む、俺は村の中を片付けてくるから」
「程々にしますか?」
半殺しくらいに。
「いや、ここでしっかりと理解させる。――誰にケンカを売ったのか」
「わかりました」
彼の心配そうな表情は、わたしに手を汚させるからだろうか?
彼の頬に手をやり、微笑みを向ける。
「わたしもBランクですから、ご心配には及びませんよ」
第三層から、この第二層に至るひとり旅で、何度も人から殺されかけて、やむを得ずわたしも力を振るった。
無用な殺生をすることはないし、多少のことなら見逃す。
だけど、譲れないラインはあるのだ、そうしないと簡単に寝首を掻かれるのがこの世界だから。
「わかってても心配になっちまうのは、どうしようもねえ」
そう言って、頬に当てていたわたしの手を取り、手のひらに唇を当てた。
わたしの心を心配してくれているのだろう彼に、わたしの汚いところは見せたくはないけれど。みせたところで、彼がわたしを幻滅もしないし見捨てたりもしないのはわかってる。
わたしが、彼に対してそうであるように。
彼もわたしのすべてを赦し、愛してくれると信じている。
「大好き、愛してますレヴィ」
わたしの愛の告白に、彼は一度大きく目を見開いて、それからペロリと舌で唇を湿らせた。
「俺も愛してる」
「なにをごちゃごちゃと!」
いちゃつくわたしたちに痺れを切らして怒鳴り声を上げたセレニアに向かって、わたしから手を離したレヴィが歩きだす。
彼の動きを見て、風上の藪に隠れていた二人が動き出したので、わたしはそちらに向かって歩いていく。
自分の周囲に魔法と物理に対する防御の魔法を展開する。
薬物を使われる可能性も高いので解毒の魔法も使っておく。
歩きながらそうしておいて、慌ててなにかを撒こうとした敵の周囲に魔法で空気の壁を作りだし、その中に敵が撒いた粉を充満させる。
「なっ!? ぐ、あっ!?」
なにが起こったのかわからないまま、自分の撒いた粉を吸い込んだ敵が、折り重なって倒れ伏す。随分、効きの早い薬だ。
それだけ、本気なのだろう。
「こっちだって簡単にやられたりしません。――レヴィと幸せになるって、決めたんだから」
地べたに伏せてピクリとも動かない二人を見下ろし、決意を口にしたその時、レヴィが向かった村の中から、派手な爆発音が聞こえた。




