闇ギルド
Aランク冒険者であるレヴィオスへの逆恨みのあまり、世界新聞社の番記者であるカルーダ・アングストンは、闇ギルドへレヴィオスの暗殺依頼を出していた。
狭い闇ギルドの建物の壁にあるスカスカの掲示板に張り出された真新しい手配書を、難しい顔をした男たちが見ている。
「Aランク冒険者の抹殺依頼たあ、とんでもねえ依頼だな」
高ランクの冒険者は、ヒーローであり、事実国を守る大事な戦力でもある。
そんな人物を殺そうというのだから、穏やかな話ではない。
「ギルドも、よくこんな危ない依頼を受理したな」
問いかける声に、新聞を読みながら受付カウンターに座っている壮年の男が肩をすくめる。
「金がべらぼうにいいから以外に、理由はありませんね」
ギルド職員としても受けたくはなかった依頼なのかもしれない、苛立たしげにバサッと大きな音を立てて新聞を捲った。
だがギルド職員の言葉に納得してしまう。このギルドの特性上、金が積まれれば無理を通さなくてはいけない。
「確かに、いい金だ」
男の視線の先にある手配書の金額は、平均的な世帯で五年は暮らせる金額で、これでギルドの取り分が引かれていなければ一体いくらなのか……。男の喉がゴクリと鳴る。
このAランクの冒険者がなぜそんな金を積まれるほどの殺意に晒されているのかが気になったが、規則で詮索はできない。
「で、受けるか?」
ギルドの職員に問われたが、即答はしなかった。
Aランクの冒険者を相手にできるような人材は限られている。
自分が受けなければ……心当たりを何人か思い浮かべた男だったが、金額を聞いた時にほぼ心を決めていた。
最近ろくな仕事がなくて、懐が寂しくなっていたところだ。いや、すでに方々にツケもたまっている。
一か八かこの依頼をこなして、当分金の心配をせずに豪遊するのも一興だろう。
命なんてのは、このギルドに入ると決めたとうの昔に賭けている。
「そのAランクはパーティを組んでいるのか?」
「いつもならソロだが、最近はBランクになったばかりの冒険者と二人で行動しているようだ」
新聞から目を離さずに答えたギルド職員の言葉にがっかりと肩を落とす。一人なら、手練手管を弄すればなんとかなったかもしれないが、日は浅くともBランクの人間と行動しているなら、難しいかもしれない。
難しいかもというのは、受けるべきではない、ってことだ。
「俺一人じゃ無理だ」
この闇ギルドに所属している人間は基本的に単独行動だ。
守秘義務が第一のこのギルドなので、人数が多くなると情報漏洩の危険も上がってしまうし、分け前も減る。
ちなみに、情報を漏洩すると一発でクビになるし、最悪の場合は抹殺される。
だから命はとうの昔に賭けているとうそぶいてはいても、仕事を受けるときは十分に吟味しなくてはならない。
この依頼は成功率が低すぎる。
もしこの仕事を受けるなら、あと二人は急場のパーティーを組む相手が欲しい。Aランクを相手にするんだ、そこらのペーペーでは駄目だ、実力も実績も申し分のない人間が。
「あんた以外に二人、声を掛けている」
ボソボソとした声で聞いたその通り名は、もしもこの仕事を受けるなら必要だと思う人員として考えていた中にあった。
あの二人なら、実力も実績も申し分ない。
受けることを決断すれば、すぐに打ち合わせの場に連れ出された。
ギルドから必要な情報を口頭で受け取り、他の二人とも顔を合わせて入念に打ち合わせをし、今回のターゲット……Aランク冒険者であるレヴィオスと、ついでにBランク冒険者であるアキを抹殺する計画が進められる。
メインのターゲットであるAランク冒険者はかわいそうだが、ついでに消されるBランクの冒険者はもっと哀れだ。
「これだけの金を積まれるんだ、よっぽど恨まれているんだろうな」
「さあてね。貴族の……ああいや、依頼人を詮索するのは御法度だったか」
茫洋な顔をした男が、言いかけた口を片手で覆い、そのままゴシゴシと顎を撫でる。
このギルドに所属する人間は、割合普通の容姿をしている場合が多い。その方が目立たずに町に埋没できるからだ。
別に剣の腕がなくてもいい、どんな手段であってもターゲットを仕留めることができるなら。
この場に集まった三人も体格は普通の町民の平均程度、一人は腹が出てすらいる。そして、三人とも人を殺しそうもない善良な顔をしている。
「さてそれじゃあ、ぼちぼち行きましょうか」
連れだって帰るような雰囲気で、ふらりとギルド……傍目にはただの居酒屋を、三人で後にしたのだった。
お久しぶりです、全然更新できなくてごめんなさい。(本当は1月に更新する予定でした)
久し振りなのに、主人公出てこない……。次話こそ、早くUPできるように頑張ります。




