目標決定
お茶を出して一息ついてから、第三層でレヴィと離ればなれになった経緯を説明した。
「アキと同時期に行方不明になったアイツが、やっぱり関係していたのか。俺は話したこともなかったから、まさかとは思ったが」
「鳥の魔獣に連れ去られるときに、握力に負けてちぎ……事切れていましたので」
わたしの言葉を聞いても、彼の表情は晴れない。
「正直に言って、奴のせいでアキがツライ目にあったことが許せねぇ」
「もう、終わったことですから」
どうしようもないのだと伝えれば、苦い物を飲んだ顔をしてから話を変えてくれた。
「それで、第二層に来てからは、あっちの姿で冒険者として仕事をしているってことか。ということは、まだニホン人ってことを届けてねぇんだな」
「届けなきゃならないんですか?」
ニホン人はまず王宮で身元保証をしてもらい準貴族扱いとなってから、それぞれの能力によって後見する貴族があるらしい。
政治的なことに長けている人、技術を提供できる人、そのほか持っている知識によってよりよい場所を与えられる。
ニホン人は知識を与える存在として大昔から知られているから、待遇がいいらしい。
「わたしはもう一人でも生きていけるので、後見人とかは必要ないですね。このまま冒険者として、レヴィと一緒に生きていきたいです」
本心を伝えると、彼に抱きしめられた。
抱きしめるときは事前に申告してもらわないと、危うく骨を折るところだった。
「すまねぇ、つい」
「ついじゃありません。それで、話を戻しますが、わたしは現状のままでいいということですね?」
「まぁ……そうだな。男として冒険者をしている分には、ニホン人だとバレることはないだろうし」
「男として冒険者をする分には、ですか?」
「あっちのアキは、確か魔法を使えねぇんだろう? アキの使う魔法は特殊だから、使っちまったら簡単にニホン人だとバレちまう」
なるほど。
「あと、あの薬もそうだ。あんなに効果の高い薬も出回ってねぇから、そこから気づく奴も出てくるだろうな」
なるほど。
「貴族にはニホン人を取り込もうとする奴が多いから、万が一バレた場合、拉致されるのは間違いねぇな。一応、下にも置かないもてなしをされるようだが、かごの鳥だと聞いたことがある」
ソフト監禁って感じかな。
「技術がなくても、ニホン人が居る家は繁栄するといわれているからな」
座敷童かな。
「準貴族になって、貴族と結婚するニホン人もいるし、貴族籍を返上して平民と結婚するニホン人もいる」
「どちらにしても、一度準貴族にはなるのですね。そういうことでしたら、わたしも一度準貴族になってから、籍を返上してレヴィと結婚すればいいんですね」
「アキ、抱きしめるぞ」
今度はちゃんと宣言してくれたので、余裕を持って身体強化できた。
「では、取り急ぎ準貴族にしてもらいましょう。どちらで手続きを行えばよろしいですか?」
「王都でしかできねぇんだ」
王都はここから馬車で暫くかかるはず……。
「ということは、冒険者アキとして移動したほうがいいでしょうか」
「賛成だが、ひとつ問題がある。いまアキは、昇格試験の最中だ、よくも悪くもこれを終わらせてから動いた方がいい」
そういえば、そんなのもあった。
「別に、わたしは昇格しなくてもいいのですが」
Cランクであれば迷いの森に入れるので、それ以上になる必要性を感じない。
「Bランクになれば、Aランクと組めるようになるんだが、ひとつだけランク上げてみねぇか?」
「上げます」
即答したわたしを、彼は嬉しそうに笑って抱きしめてきた。
目的が決まったなら、実行あるのみ。
「ちょっと、席を外しますね」
そう断ってから脱衣所で服を脱ぎ、異空間から冒険者アキ用の服を取り出して、魔法を使った。
肉体を変化させる違和感ももう慣れて、すぐに服を着てレヴィの所へ戻った。
「……せめて、今日一日くらい、元のままでいいんじゃねぇのか」
「この姿を固めるのに三日ほどかかるので、時間がもったいないですから」
わたしがきっぱりと答えると、彼はテーブルに突っ伏して、長い溜め息を吐き出していた。
おっさんのターンに突入。




