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薄幸のOLは、異世界でおっさんになることにしました。  作者: こる
第三章 調薬師

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デート

 唯一の手持ちのワンピースに、レヴィが保管してくれていたブーツを履いてお出かけ。


 朝の活気に満ちた町は、隣にレヴィがいるというだけで、いつもとは違って見える。……いや、物理的に、視界が下がったから新鮮なのかもしれない。


 レヴィおすすめの朝ご飯を買って、道の端に並んでいるベンチに座って食べる。

 わたしの味覚を知っている彼のおすすめは、外れがない。第三層に居たときも、すぐにわたしの好みを察してくれていたし。


 本当に、彼ほどいい男は見たことがない。

 彼が愛してくれたというのは、奇跡なんじゃないかと思う。


「ほっぺた引っ張ってどうしたんだ? 痒かったのか?」


「いいえ、現実を実感していただけです。レヴィが愛してくれるって感じて、すごく、幸せだなって」


 他の人に聞こえないように小声で彼にだけ伝えると、彼は片手で目元を覆い、もう片方の手でちょっと待てとハンドサインを出してきた。


「……俺の方こそ、幸せだ。いま、凄く抱きしめたいが、正直、手加減できる気がしねぇから、我慢してる」

「魔法で体を強化しますか? そうしたら、多分大丈夫ですよ」


 わたしの言葉にパッと振り向いた彼の、期待が膨らんだ視線を理解して、すぐさま体を強化して両手を広げた。

 最初はそっと、それからぎゅっと、抱きしめられる。

 確かに、強化をしなかったら、先日の二の舞になりそうな圧力を感じた。

 大人と子供程もある身長差のせいで、道行く人がちょっとギョッとしてる。

 そもそも、レヴィが大きいからわたしが小さく見えるだけで、わたしはこの世界でも標準的な女性の身長なのにな。


 暫くすっぽり彼の腕の中に囲われていたが、満足したのかやっと腕が離れていった。


 穏やかな彼の笑顔の向こうに、凄い表情をした女性を見つけた。

 確か、全世界新聞社の記者で、カルーダ・アングストン。


 わたしの視線を訝しんだ彼が、視線の先を追って表情を一変させ、わたしから彼女を遮るように立ち上がった。


 カツカツカツという硬質な足音が近づいてくる。


「あら、天下のAランク冒険者様が、朝から、女性と逢い引きかしら? ふふっ、女遊びも程ほどになさらないと、評定が下がってランクが落ちますわよ」


「護衛が一人減ってるようじゃねぇか。子飼いまで使い捨てるたぁ、貴族のやることはえげつないねぇ」


「なんのことかしら? アレは、元々平民でしたから、暇をあげたのよ」

「この世から、永遠にか? 随分と、ご親切なご主人様だ」


 レヴィの冷ややかな嘲笑の声に、彼女は笑う。


「ふふっ、そうよ、わたくしが、貴族わたくしたちがご主人様なの。あなたたちは、従っていればいいだけ。小賢しく動くなら、自分の存在の小ささを、教えて差しあげ――――っ」

 彼女が言い切る前に、レヴィから殺気がほとばしり、彼女の護衛が剣の柄に手をかけて間に入る。

 レヴィの影からすこしだけ顔を出して様子を窺う。真っ青でガタガタ震える女性と、レヴィには劣るものの殺気を出している護衛が見えた。

 まだ剣を抜いていないけど、いつでも抜ける体勢になっている。


 こっそりと自分とレヴィに魔法で防御を掛けておく。


「あんたの言う、存在の小ささってぇのはなんだ? 今の俺の前にいる、あんたは、俺よりも随分小さく見えるがなぁ?」


 レヴィが煽るように言う。

 はっきり言って怖いけれど、されたことを考えると許せない気持ちはわかる。

 おっさんとしてだけど、わたしもビレッドも殺されそうになったわけだし。


 あと、予想だけれど、迷いの森の魔獣の暴走にも噛んでいるんじゃないかと思う。


 もし食い止められなかったら、この町もどうなったかわからない大惨事。本当に彼女の手引きならば、到底許せる話ではない。

 いやいや、さすがにあんな大事をやらかすなんて、あり得ないか。


「折角警告してやったのに、懲りずに二度も同じ手を使うのは、さすがに馬鹿なんじゃねぇか?」

 確信に満ちたレヴィの指摘を、彼女は青い顔ながら鼻で笑う。

 レヴィの殺気に晒されて、ソレができるっていうのは、結構な胆力かも知れない。


「そうね。次からは、ちゃんとあなたの弱みを狙うようにするわ」

 にんまりと笑った視線がこっちを向いたので、わたしも笑顔を返してあげた。

「こいつは、俺の弱点にはなんねぇよ」

 レヴィはそう言って、わたしに微笑みかける。

 彼に信用されているのが嬉しい。


「ふんっ、平民の女に骨抜きにされるなんて。あなたも所詮、俗物だったということね」


「俗物で結構。では、ご令嬢、我々はこれからデートなので、失礼いたします」


 紳士的な笑顔で貴族然とした礼をしたレヴィに促され、二人から遠ざかった。



「ねぇレヴィ、あんな話を町なかで堂々としてもいいものなのですか? 貴族だから、許されるということでもあるのですか?」

 かなり離れたところで彼に尋ねれば、音消しの魔道具が使われていたことを教えてくれた。


「これで完全に敵対関係になったな。まぁ、今更だが」

「貴族というのは、ああいう人ばかりなのですか? 随分傲慢でいらっしゃいましたけれど」

 彼と手を繋いでウィンドウショッピングしながら、小声で尋ねる。

「半分とは言わねぇが、まぁまぁ居るな。派閥によって考え方もかなり違うらしいが、アレは王侯貴族主義の典型の家門だ」

「そんな人が、新聞記者というのは、問題がないのですか? それとも、全世界新聞自体、貴族主義の傾向が強いのでしょうか」

「いや、中立と平等を謳っている」

 さらっと答えてくれたことから、全世界新聞社としての理念は有名なんだろう。

 それなのに、記事の対象となるレヴィにこんな態度を取るというのは、新聞社としては大問題じゃないんだろうか?

「それなのに、記者の人があんなことを言っていいのですか?」

「よくはねぇだろうな」

 心底面倒臭そうな雰囲気で頭を掻く。

「手を打ってはみるが……。アキなら大丈夫だと思うが、身辺には気をつけてくれ」

「はい。わたしは大丈夫です」

 笑顔で彼を見上げると、彼は心配そうな顔だった。

「わたしが心配ですか?」

「いや。第三層から生き残った実力を信じてるから、心配はしてねぇよ」

 じゃぁ、なにが心配なんだろう?


「今日は、デートを楽しもうな?」


 彼の笑顔に誤魔化されることにして、面倒事は一旦頭の隅に押し込んだ。

ソレハ\(・ω\) (/ω・)/オイトイテ

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
― 新着の感想 ―
[良い点] あっまーーーい❗ アキちゃん、レヴィさんを甘やかしてるぅ(笑) 前振り(申告)有れば、いつでもベアハグし放題やんけ❗ レヴィさんは、おっさんver.アキにベアハグし給へ❗(笑) ベア…
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