再会
目の前の魔獣を魔法で押し返して、前に出ると同時に姿を消す魔法を解除した。
「『風の鉄槌』」
正拳突きと共に、圧縮した空気の塊を飛ばして魔獣をぶん殴るというわかりやすい魔法で、手前にいる魔獣から片っ端に奥へと叩き返していく。
まともに全部殺す必要はなくて、さっさと元いた場所へお帰りいただくのが手っ取り早いと思うんだよね。
いくら魔獣が素材として使えて、食肉になるとしても、もうかなりの量を第一陣の冒険者が狩ってるし。
それにしても、ここは第三層に比較的近い場所なので、町にいるよりもずっと魔力の回復が早くて助かる。
なんてことを頭の端で考えながら魔法を連射していたら、ガバッと後ろから抱きしめられ、心臓が口から飛び出そうな程びっくりした。
「――アキ……アキっ! アキっ!!」
大きな体に包まれるように抱きしめられ、ときめきたいところだけれど。
さすがにいまは、それどころじゃない。
肌の上に防御の魔法を掛けてあるので、彼の感触がないことも冷静になれた一因かもしれない。
「レヴィ、感動の再会は、これが終わってからにしましょう」
前に回る彼の太い腕をポンポンと叩いて説得するが、どうにも耳を貸してくれない。
「――レヴィ? あっ! ちょっ、魔獣っ!!」
羽交い締めにしてくる彼を引き剥がせなくて、地響きを上げて突進してくる魔獣に青くなる。
わたしは大丈夫だけど、レヴィが――。
次の瞬間、魔獣は真っ二つになった。
瞬間移動のようにわたしの前に立ったレヴィは、剣についた血を一振りで払い落とす。
「アキ、あとで、たくさん話をしような?」
振り向いて言った彼の笑顔に胸がぎゅっとなる。
ああ、彼と再会することを優先して、本当によかった。
先程まで以上の覇気で、レヴィが剣を振るう。
鬼気迫る迫力。三面六臂の戦いぶりに、思わず見惚れてしまう。
ずっと見ていたかったけれど、彼と感動の再会を仕切り直すためにも、さっさとこの状況をどうにかしなくては!
レヴィが足下に置いていた薬を、疲れ切っている他の冒険者に問答無用で飲ませ、強制的に回復させていく。
これで、このラインはまだもう少し持つだろう。
「原因が集魔香なら、匂いを相殺してしまうのが手っ取り早いかな?」
すこしラインから下がって開けた場所に、異空間から取り出した破魔の木を積み上げ、魔法で強制的に着火した。
時間経過がないので生木のまま。それも空気の取り込みなんか気にせずに積み上げたので、普通では火は付かないんだけど、魔法があってよかった。
煙と共に立ちこめるその独特な匂いを、魔法の風で魔獣の居る方向へ送る。
前に居る冒険者が煙にむせてしまったのはご愛敬だ。
悪気はないので、恨めしそうな目で見ないでほしい。
「よしよし、効果覿面」
面白いように逃げ去る魔獣を見送っていると、自分に清浄の魔法を掛けて返り血を消しながらレヴィが大股でこちらにやってきた。
その顔の迫力たるや!!
もしかして、怒り心頭なんだろうか?
子供ならば泣いて逃げる、そんな表情のままわたしを抱きしめた。
「アキ……アキ、なんだな?」
体に掛けていた防御の魔法を解き、わたしからも彼を抱きしめ返――
「……ぐっ、レヴィ……っ、くるし…………」
予想外のパワーで締められ、わたしの意識は暗転した。
ベアハグ。




