現着
暴走馬車の名の通りの暴走っぷりで、吹っ飛ばされそうになりながらしがみついているうちに現地に到着した。
冒険者の面子に賭けて振り落とされる人はいなかった。
わたしは自分の握力だけでは足りなかったので、こっそり魔法を使ったけれど、ここに来るまでで他の人たちはぐったりしていたので、早々に魔法を使っておいてよかった。
カークスに続いて馬車を降りる。
予想通り、迷いの森だ。
「さすが、アキの代理だけある、Cランクで平気なツラしてるのは、あんただけだ」
カークスに褒められ、馬車を降りてくる人たちを見れば、草むらで吐いている人がたくさんいた。
「お褒めにあずかり、光栄です」
魔法を使っていたことは内緒にしておこう。
「第一陣との合流は、どのようにされるのですか?」
急く気持ちを我慢してカークスに尋ねると、彼はキュッと顔をしかめた。
「あんた、口調がアキにそっくりだな。むず痒いわ」
冒険者アキではじめて会った時にも同じ事を言っていたから、本当に苦手なんだろう。
「では、業務連絡だけにいたしましょう。わたしは別行動でも構いませんか? 取り急ぎ、依頼されていた物を渡しに向かいたいので」
「駄目に決まっているだろう。本当に、そういう所もアキにそっくりだ」
渋い顔をして言われてしまった。
こんな勝手を言ったことなんてなかったと思うんだけどな。
「お前ら! さっさと集まれ! わかってると思うが、お前らの仕事は、第一陣の補助だ!」
カークスが大きな声で、Cランクの冒険者たちに活を入れている間に、こっそり場所を移動して視界から外れてから、姿を隠す魔法を展開する。
その上で、身体強化して思いっきりジャンプする。
そもそも、わたしはギルドで依頼を受けたわけじゃないんだから、集団行動する必要はないのよね(詭弁)。
森の中を歩けば迷うけれど、上から見れば迷わない。
そして、高くから森を見渡せば、前線がどこにあるのか一目瞭然だった。
第三層と第二層の間に生息するタイプの魔獣が何頭も見える。
第二層に通常いないサイズの魔獣だ。
第三層的には弱い方だけど、第二層では最強の部類。いくら第三層と繋がっている場所だとはいえ、性質上こんなところまで出てくるのはおかしい。
音を消して着地し、確認した方角へ走り出す。
「また、集魔香……ってことかしら?」
そう簡単に手に入らない物だと思っていたけれど、貴族ならば簡単に融通できるのだろうか?
予想が正しければ、またこの件もあの新聞記者の女性が起こした事件だと思う。
Aランクの冒険者が常駐していないこの地域のギルドで、魔獣の暴走なんておこれば、間違いなくレヴィに声が掛かる。
記事を書くために、レヴィを引き出したいのかもしれない。スクープは、娯楽の少ないこの世界ならば、余計に珍重されるだろうし。
そんな予想をしている間に、もう魔獣と冒険者が戦っているラインまで到達した。
やはり、レヴィは一番先頭で剣を振るっている。
だけど二番手以降の剣筋に精細がない。疲労が強く見えている。
上から見た限りでは、まだまだ先から魔獣が押し寄せていた。
これを知ってしまえば、彼らは絶望してしまうだろう。
魔獣の移動が止まっていないということは、まだ集魔香の匂いがあるということ。まずは根源を見つけ出すのが先決だろう。
「左側っ! 次の奴が来てるぞっ! 気合いを入れろっ!」
レヴィの檄が飛ぶと、左側に展開していた冒険者たちの疲れた顔つきが引き締まる。
レヴィは一人で中央を陣取り、左右に展開している冒険者たちは数人で組んで、一頭ずつを確実に倒していた。
一番負担の大きな場所を一人で守っているのに、最も余裕があるように見える。
いや、そう見せているのかもしれない。
先日の魔獣の集団と戦った時に一撃で倒したクラスの魔獣を、数撃かけて倒している。
そのことに気づいたときにはもう動いていた。
「レヴィ、お届け物です。一度、回復してきてください」
「は? え――あ、アキ――?」
わたしの声だけで動揺した彼に押しつけるように袋を渡して、彼の代わりに前に出た。
お読みいただきありがとうございます!
今日の凄く急いで書いたので、誤字脱字やばそうです。ごめんなさい!




