解除
地蜥蜴の依頼を完遂したわたしたちは、ギルドに報告後に数日の休暇をとることにした。
わたしは月のモノで女に戻ったついでに、回復薬を作成するために。
レヴィは入手した集魔香の出所を特定し、その後色々とやることがあると言っていた。
集魔香の事は三人の秘密となっている。
ビレッドも馬鹿ではないから、他人に今回の件について漏らすことはないだろう。レヴィに引きずられて行ったので、もしかしたらなにか手伝わされるのかもしれない。
「あんたも、身辺には気をつけてくれ。向こうが馬鹿をしないとも限らない」
別れ際、彼に注意された。
休みの間は家から一歩も出ない予定なので大丈夫だろうけれど、一応気をつけておこう。
採取の依頼とは桁違いの報酬を受け取り、そのお金で一週間家に籠もるための食料を購入した。
基本的に屋台で生活をするこの国だけど、簡易キッチンはあるので、一週間ぐらいならなんとでもなる。
そして、迷った末に、ワンピースを一着購入した。
おっさんの外見で入るのはツライお店だったが、敢えて堂々と入り、堂々と選び、堂々とお会計をしてきた。恥は忍んだ。
帰りがけに買ってきた大量の食料を貯蔵用の箱に入れてから、お風呂へと向かう。
素っ裸になり、空の湯船の中に立ち、体を構成していた魔法を解いた。
ザパッ――……
視線が一気に下がり、目の前が血で真っ赤に染まる。
何度やってもスプラッタ。
息を止めて血肉を異空間へ放り込んで処理。シャワーで浴槽に付いた血を流し、そのままシャワーを浴びて血みどろの体を綺麗にする。
男になったときの体積の差っぽいんだけど、なかなか慣れないな。
捨てるに捨てられず、今まで男になった回数分の血肉は保存してあるけれど……輸血とかに再利用できないものだろうか、勿体ない。
さっぱりしてお風呂を出て、冒険者アキの巨大なシャツをワンピースのように着て、買ってきてあった食事を取る。
やっぱりこの体だと、食事が全然食べられないことにがっかりしながら食事を終えて、そのままベッドに入る。
丸二日ゆっくり休んだお陰で、体調もよくなったし、ある程度魔力も回復した。
「よし、薬草を片付けてしまおう」
現実逃避ではない。
決して、レヴィに会うのを引き延ばしているわけではない。
そもそも彼も、今は冒険者の仕事を休みにしているはずなので、命の危険はないわけだし。
まだ生理が終わって無くて、体調も万全ってわけじゃないし。
部屋に吊って乾燥しておいた薬草を、魔法を使って片っ端から粉砕していく。
それから、魔法で分量をきっちりと計った各種薬草をゆっくりと丁寧に混ぜ合わせる、熱が入らないように魔法でゆっくりと。
すべてを精密に、細心の注意を払ってできあがるのが、粉薬だ。
液体だと多少の誤差は気にならないけれど、なぜか粉になると効果に差が出てくる。
魔法を使って粉砕や誤差ゼロの計量、そして熱を入れないでの混合ができなきゃ完成しない代物だ。
仕入れておいたパラフィン紙のような紙に、魔法で薬を小分けにして、手作業で包んでいく。
これも機械化、じゃないや、魔法でできるんだけど、包む工程だけは好きなので手作業にしている。
一つ一つ丁寧に折っていき。種類がわからなくならないように、マークをつけていく。
地味な作業が楽しい。
決して、時間稼ぎをしているわけじゃなく、いつも通りの手順だ。
無心で薬包を作っていると、部屋のドアがノックされた。
最初は気のせいだと思ったんだけど、何度も叩かれることで、やっと自分の部屋のドアだと気づいた。
だって、この部屋に来た人なんて居ないし、訪問販売もない世界だから、わからなくても仕方がない。
とはいえ、我が家を訪問する人間に心当たりはない。
そもそも、この格好で応対することもできない。
中に人が居ることがバレないように、息を殺してドアを見つめた。
結構、恐怖を感じる。
一応何かあったときのために、自分の肌のすぐ上に防御の魔法を張っておく。
「おーい、居るんだろ? 俺だ、レヴィオスだ」
予想外の人物に、思わず椅子から転げ落ちてしまった。
それが決定打となり、レヴィの猛攻が加速する。
「居るんじゃねぇか。悪ぃんだが、ちょっと顔貸してくれねぇか」
か、貸す顔がいまはありませんんんんっ!
お読みいただきありがとうございます!
今日も元気に自転車操業!
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