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薄幸のOLは、異世界でおっさんになることにしました。  作者: こる
第二章 冒険者になりました

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闇の中で

 真っ暗な室内は恐ろしくもあるけれど、広くはないので自分以外の息遣いが聞こえ安心する。

 ビレッドは一番奥で床に転がったようだ、すぐに寝息が聞こえてきた。入眠までの時間が、無茶苦茶早いな。


 レヴィはわたしとビレッドの間に陣取り、わたしはドアの横の壁に背をつけて、座ったまま目を閉じていたけれど眠れないでいた。



 とりあえず体を休めることができればいいかな。


 ゴツゴツした石の壁に背を預け、腕を組んで目を閉じると、先程大量に倒した魔獣が目の裏に蘇る。

 恐怖とかそういうんじゃなくて、同じ物をずーっと見続けていたらなるアレだ。第三層でよくあった現象だ。


「眠れねぇのか?」

 いつの間に起きて来ていたのか、レヴィがすぐ横に座って静かに声を掛けてきた。

 目を開けてそちらを向くけれど、隙間から入ってくる星明かり程度では彼の表情なんてわからない。

 だけど近くに居る彼の体温で温かい左側に、ドキドキしてしまう。

「ベッドが恋しいですね」

 囁くように返したわたしに、彼は笑い声を上げた

「ははっ、確かにここじゃ固くて寝てられねぇか――」

「うぅん……」

 目をさまし掛けたビレッドに気づいてレヴィが慌てて口をつぐみ、ポケットから取り出した何かをカチッと音をさせると、肩が触れるように座り直した。

「音消しの魔道具を使った。普通に喋っても大丈夫だぞ――ああ、こいつは安物だから、離れるなよ、効果が消えちまう」

 彼との距離の近さに動揺して離れそうになったわたしの肩を抱いて近づけた彼は、そのまま肩を組むように腕を回してきた。


 すっかり目が覚めてしまって、もう寝られる気がしない。


 ここが暗闇で本当によかった。

 顔を真っ赤にしたおっさんなんて、どうみてもおかしいから。


「あんたに聞きたいんだけどよ。あの、粉状の回復薬、知り合いの調薬師が作ったって言ったよな」

「ああ、はい、そうです」

 あの薬のことが聞きたかったのか。

 確かに、内緒の話になるから音消しの魔道具も使うよね。

「申し訳ねぇんだけどよ、少し融通してもらえねぇか? あれなら、瓶に入った普通の回復薬よりもずっと持ち運びがしやすい。次に第三層に行くときに、多めに持って行きたいんだ」


 それは、もしかして、『アキ』を探すために?


 胸の中を、申し訳なさと同時に、訳のわからない息苦しいモヤモヤが渦巻く。

「そ……れは……。わたしの一存で決めることはできません、調薬師の許可が必要ですから。それに、第三層でしたら、粉よりも即効性のある液体の方が、使い勝手がいいのではありませんか?」

「もちろん普通の液体のやつも持っていくさ。だけど、粉もあったほうが、死ぬ確率が減るだろ?」

 死ぬ――


 その言葉に動揺して固まってしまったわたしの肩を、肩に回った手が宥めるようにトントンと軽く叩く。

「ビビるなよ。俺たちの稼業は、そういうもんだろうが」

 わざと軽い調子で言う彼に、わたしは声を返せなかった。


 そうだ、冒険者というのは、命を賭ける仕事だ。

 採取系の仕事ばかりしているし、魔獣避けで安全を確保しているから、スッカリ抜け落ちていたけれど、彼の言う通りだ。


 でも、その命を賭けるのが、居もしない『アキ』を探すということなら、それは違う。

 『アキ』のために、第三層に行かせるわけにはいかない。

 やはり、どうにかして彼にアキを諦めてもらわなきゃ。

 あるいは、アキに戻って再会してしまえば、第三層に行く必要はなくなるよね。


「個人の事情を詮索するのは野暮だとは思うんだがよ。あんた――貴族だったんじゃねぇのか?」


 突然の話題転換に、思考がストップして思わず彼の方を向いてしまった。

「ええと、どうして、そういう話に?」

 意味がわからず動揺してしまった声に、彼は「やっぱりそうか」と勝手に納得してしまった。

「だってよぉ、その口調もそうだし。あんた、行動が上品だしよ。それに、冒険者らしくねぇしな、こう、ガツガツしてねぇていうかさ」

「ちっ、違いますっ! 違いますよ。わたしは貴族などではありませんっ。この話し方は、言葉を教えてくださった人の影響で――」


 あなたが、こう話すようにわたしに教えてくれたから! ――――あぁそうか、アキがニホンジンで、いつかは貴族のところにやる予定だったから、貴族の口調を教えてくれてた……のか……。

 最初から、わたしを手放すつもりで……。


 唐突に理解して、一気に心が凍てついた。

 そんなわたしには気づかず、彼は肩を竦める。


「そうなのか? まぁ、貴族にしちゃぁ、随分友好的な奴だなとは思ったが」

 疑っているのが声でわかる。

 レヴィ側の膝を立て、肘を置き腕の中に顔を伏せて溜め息を吐き出した。


「そんなに嫌だったか、悪ぃな、忘れてくれよ」

 回された手で肩を叩かれる。


 わたしの胸の中はぐちゃぐちゃで、思考が整理できないまま、口を開く。

「レヴィオスさんは――アキ、さんを見つけたら、どうするのですか?」

 細く、情けない声になってしまった。

 貴族に引き渡すんだろうか……多分、報奨金もあるんだろうし。


 無視をしてくれてもいいその問いに、彼は溜め息のような小さな笑みをこぼしてから口を開く。


「アキを見つけたら、か……そうだなぁ、まずは抱きしめるかな。それから、よく生きてたって、褒めて、再会できて嬉しいことを伝えて、愛してるって伝えて――最後に謝るかな」


 ちゃんと考えて真摯に答えてくれた彼の、染みるような声に涙があふれる。

 顔を伏せている腕が湿るのを感じるが、止められない。


「おいおい、聞いといて、寝ちまったのか?」

 からかうような声に、緩く首を横に振って顔をあげた。

 涙は、暗闇が隠してくれるだろう。


 ひとつ深呼吸をして、声を整える。


「――薬の件、なんとかします」

「おっ? 本当か! 助かる」

「ただ、すこし時間をください」



 あなたに会う勇気をかき集めるための、時間を。

お読みいただきありがとうございます!

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
― 新着の感想 ―
[一言] こっこれは、物語が佳境に入ったと考えて良いのでしょうか。 物語が続いてほしい気持ちと、早くスッキリしたい気持ちと!!
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