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薄幸のOLは、異世界でおっさんになることにしました。  作者: こる
第一章 第三層にて

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異世界一日目

 長い間暗い場所にいたせいで、突然の眩しい光に目が焼かれた。

 咄嗟に両手で目を覆ってしゃがみ込んだけれど、目が、目が……っ!




「――。――――?」


 痛みにうずくまっていると、突然、低い男の人の声がして、わたしはその声に恐怖した。

 視界は焼かれ、白濁したまま回復していないけれど、無我夢中で逃げを打つ。


 怖い、男の人の声が、怖い。


 身についた恐怖がわたしを逃げるように動かしたけれど、足場の悪い石畳のような地面だったらしく、目がうまく見えないまま数歩足を出しただけで思い切り転んでしまった。


「い……っ、つぅ」


 スライディングするように石畳に転び、手の平や頬が石に摺り下ろされた。


「――、――――?」


 みっともなく地面に転んだ腕を掴まれ、軽々と引き起こされる。

 軽々とわたしを引き起こすその力強さが怖くて、うまく立ち上がることができない。


 ――逃げなきゃ、逃げなきゃ、また殴られる。


 幼い頃からすり込まれている恐怖で強ばった体を、ひょいっと持ちあげられた。悲鳴も出ないまま、視力の戻らない目のわたしは、抱き上げた男を凝視する。

 光に焼かれて白濁した視界なので、ぼんやりと輪郭だけわかる……本当にぼんやりとしていて細部は一切わからない。


「――――。――、――――。」


 男のゆっくりとした口調は穏やかで、パニックが過ぎれば、わたしを宥めようとしているのが理解できた。

 それでも、怖いものは怖い。

 震える体を彼に持ちあげられたまま精一杯縮ませていると、話しかけるのを諦めた彼が、わたしを片腕に乗せるように抱いて歩き出した。


 どこへ連れて行かれるんだろうという恐怖で、背中が冷や汗に濡れる。


 一向に戻らない視力も恐ろしい。

 この世界には回復する魔法があるけれど、それは聖力でなければならなくて。

 天から一番遠い第三層であるこの場所には、その聖力は一切ない。

 時間の経過で自力で回復する望みはあるけれど、果たしてそれまで無事でいられるだろうか。


 女である自分を克服するために、とある魔法を使いたくて魔力がふんだんにあるこの層を選んでしまったけれど、それが後悔に変わる。

 聖力さえあれば、自分でどうとでも癒やすことができるのに。

 おとなしく、どちらの力も存在する中間地点である第二層に出現するんだった、と思うのも後の祭り……。


 魔法を使うためには魔力を体に蓄えなければならなくて、最も効率よく魔力を蓄えられるのが、魔力の強い第三層だと判断したのだから仕方ない。

 予定では三日もあれば、目標に十分な魔力を得られるはずだったのに。


 後悔している間にも、土地にある魔力がわたしの内に溜まるのがわかる。


 元々持っていない力だからか、ジワジワと吸収している感覚があるんだけれど。こんな状況なので、焦りのほうが大きい。


 とはいえ、この腕の主が気をつけてわたしを運んでくれている、っていうのはわかる。

 揺らさないような足取りだし、時折優しげな声も掛けてくれることで、この人がとりあえずわたしを保護しようとしてくれているのだと感じた。


 人さらいかもしれないし、今は優しくても――いつか手のひらを返すのかもしれない。あの人達のようにならない保証なんてないんだから。

 信じてはダメだと、自分に言い聞かせる。


 それにしても、言葉が理解できないのは誤算だった。


 この世界に来るまでに得た情報というのは、世界の根幹となる情報であって、文化や文明に関することは殆どなかった。

 世界の根幹である情報は、重要で、有用で、とても大事なことではあったから知識を得られたことに文句はないし、正直いってそれだけでわたしの脳みそのキャパも一杯いっぱいだから、言語や文化についてなんて覚えきれないかっただろうけれど。


「――――、――。――――」


 静かな声が何事か伝えてきて空いている手で示した先には、茶色っぽい雰囲気の建物があった。

 アメリカの田舎にありそうな、階段を少し上がって入るタイプの家のようだ。よく見えないけれど、丸太小屋なのかもしれない。

 男はわたしを抱えたまま階段を上がるとドアらしきものを開けて、家の中に入った。


 男の家に連れ込まれた。


 それを認識した途端、危機感のゲージが振り切れそうになる。


 ここに来るまでに、暴れて逃げ出さなきゃならなかった。

 のんきに運ばれてるなんて、どうかしてた。


 運ばれている間は治まっていた恐怖が、ブルブルと体を震わせる。

 血の気が引き、手足が冷たくなった。


「――! ――――!」


 男が慌てたように声を荒げ、わたしの口に布を突っ込んだ。


「うーっ! うーっ!!」


 暴れるわたしを、強い力で抱き込む。

 びくともしないその強さに、更に恐怖が限界となり――意識がぷっつりと途切れた。

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
― 新着の感想 ―
ありがとうございます。 急ぎませんのでよろしくお願いします。
読解力が低い私には ここまでの話の展開が分かりにくい。 もう少し説明が欲しいです。
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