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薄幸のOLは、異世界でおっさんになることにしました。  作者: こる
第二章 冒険者になりました

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ご飯

「魔獣が出なくてよかったなぁ」


 ビレッドが安堵しているけれど、魔獣避けの匂いがほんのりしているから、魔獣は寄ってこないんだよね。


「あー、そうだな」


 レヴィも説明するのが面倒臭かったのか、適当にながしている。

 ちらりとこちらを見た気がしたけど、気のせいかな。

 さっきも、ビレッドに魔獣避けで集魔香を打ち消していることは聞かせないようにしていたし、きっとあまり魔獣避けのことは言わない方がいいんだろう。


 レヴィに礼を言って、荷物を受け取る。


「さて、じゃぁ飯食って今日は休むか」


「そうですね。ここはそこらに手頃な薪もあって、いいですね」


 足手まといになっていたのを挽回すべく、食事は頑張って作ろうと前に出る。

 小屋の前の開けたところにある石組みの簡単な竈を軽く掃除して、拾った薪を置き、火の付きやすい樹皮を入れて、着火用の魔道具で火を付け、手持ちの魔獣避けの粉を少量火にくべる。

 少し癖のある匂いだけど、火に寄ってくる魔獣を防げるので、やらないわけにはいかない。


 荷物から深型のフライパンを取り出し、手持ちの自家製ベーコンをナイフで適当に切って焼き色をつけ、街道からここに来るまでに採っていた植物を丁寧に洗って、ぶつ切りにして同じく焼き付ける。

 それから水を直に入れ、白い玉のような調味料をひとつ投入すると、クリームスープができあがる。調味玉を作った人は、きっと天才だ。


「おっさん、手際いいな」

 近くにしゃがんで見ていたビレッドが、感心したように言う。

「この程度、手際もなにもないだろう」

 味見をして、すこしだけ塩を足す。


「なぁ、これ、オレも食っていいのか?」

 期待を込めた視線を感じ、苦笑する。

「この量を、ひとりでは食べきれないから、どうぞ」

 手持ちの椀にスープをすくって渡すと、喜んで受け取った。

「あんた、人がいいな。ビレッドお前も、すこしは遠慮しやがれ。そもそも、荷物はどうしたんだよ、お前の荷物は」

 そう言いながら、俺にもと、ちゃっかり椀を渡してくるレヴィにも、スープをすくう。ベーコンを多くしたのは、贔屓だ。

「魔獣に追われてるときに、捨てちまったよ! 少しでも軽くして走らねぇと、追いつかれそうだったんだもんよ」

 あの数の魔獣に追われるのは恐怖だったのだろう、荷物を捨ててでも逃げるのは当然だよね。荷物と一緒に集魔香も捨ててたら、追われることはなかっただろうに。

 自分の分のスープをついで、火を囲んで車座に座る。


 掛け値なしに固いパンを、毟るように囓ってスープで飲み込む。

 顎込みで体が強くて、本当によかった。




「あの人に、騎獣も用意してもらって、魔獣避け渡されて。二人の仕事の邪魔をしてきてほしいって。取材をしたいけど、中々難しいから、引き延ばしてほしいって言われたんだよ。ほら、記者だから、色々あるんだろうと思ってさ」

 お腹が満たされて口も軽くなったのか、片付けをしながらビレッドが成り行きを教えてくれた。


「へぇ、報酬はどのくらいだったんだ?」

 レヴィがからかうように聞くと、ビレッドは口をとがらせる。

「もらってねぇよ。だって、魔獣避けなんて凄く高いのですから、使えるだけありがたいでしょう、ってよ」

 途中声色を変えて言ったビレッドに、レヴィの嫌そうな顔が焚き火で揺れる。


「どういうつもりだったんでしょうね。やはり、我々を諸共に消すつもりだったのでしょうか」

 わたしの言葉に、ビレッドがギョッとした顔を向けた。


「消すって、どういうことだよ」

「どういうこともなにも。彼女は多分、レヴィオスさんにいい感情を持っていないですよね。そして、わたしも彼女の誘いを断ったので、恨んでいると思います」

「恨むって、その程度のことで、殺すかよ?」

 早口になるビレッドをレヴィはヒタリと見据える。

「お前も上を目指すなら肝に銘じておけ。一部の貴族にとって、俺たちの命は、道ばたの石に等しいんだよ」


「そんな……」

「ということで、ビレッドさんは捨て駒として使われたわけですね」

 ショックを受けたビレッドに追い打ちをかけてから、片付けを終えた椀を荷物にしまう。


「普通なら、アレで殺れない奴はいないだろう。魔獣の暴走に巻き込まれて死亡、証拠となる集魔香は魔獣に食われちまうから、バレねぇしな」

 レヴィの言葉に、なるほど、それは効率的な暗殺方法だなと納得する。

「上手くいけば、死体も残りませんね」

「さすがに、遺留品は残るだろうが。その方が信憑性があっていいだろうよ」


 わたしたちの会話を尻目に、ビレッドはズーンと暗くなっていく。

 殺されかけたことがショックだったのだろうか?

 レヴィじゃないけど、上にいきたいなら、早い段階で貴族に対する危機意識が芽生えたほうがいいと思う。

 そうでないと、食い物にされてしまうだろうから。


 焚き火に砂を掛けて消し、口数の少なくなったビレッドを追い立てて小屋に入った。

お読みいただきありがとうございました!

明日も頑張ります!(自転車更新)

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
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