ニホンジン
「お待たせいたしました」
「大丈夫か?」
心配してくれるレヴィに、吐いたらスッキリしたことを伝えると目に見えて安心してくれる。
荷物も自分で持つと伝えのだけど、それは拒否されてしまった。
空はすっかり夜の帳に覆われ、星が輝いている。
夜に活発になる魔獣が多いことから、本来は夜に行動することはあり得ないことだ。
最低でも、まとまって行動するのは常識だったりする、らしい。
三人で固まって歩きながら、レヴィとビレッドが話しをしている。
会話しながら歩くのも、魔獣よけの一環らしい。
わたしは調子悪いからということで、参加せずに聞き役となっていた。
「へぇ、じゃぁレヴィオスさんは、その人を探して歩いてるんすか。どんな人なんですか?」
レヴィとビレッドの話題が、レヴィの尋ね人の話なので入りにくいということもある。
「名前は、アキ。黒目で黒髪の――」
ビレッドの視線がちらりとわたしを捉えたのを感じたが、無視をする。
「小柄で華奢な女性だ」
ビレッドの視線がサッと離れた。
「幼なじみとか、ですか?」
ビレッドの追及が続く。
「いいや。第三層で出会ったんだ、ああそうだ、目がよく見えてなかったな」
「は!? 第三層っ!? その人も冒険者なんすか!? いや、女の冒険者もいますけどもっ」
驚くのも無理はないだろうな、普通の人があの魔獣の跋扈する地に行くことはないもんな。
「いいや、彼女は冒険者ではなかったな」
「じゃぁなんで、第三層なんかに?」
ビレッドの質問に沈黙したレヴィが、緩く首を横に振った。
そりゃぁわからないよね、突然現れたなんて思いもしないだろうから。
「――もしかしたら、ニホン人だったのかもしれない」
「ニホン人っ!? えっ! えっ! 本当に、ニホン人っているんですか!?」
興奮しきりのビレッドの影で、わたしも息が止まるほど驚いた。
日本人が認識されているということを、はじめて知った。ビレッドも知っているということは、誰でも知っている事柄なんだろう。
「ニホン人なんて雲の上の存在で、貴族に囲われてるもんですよね? もしかして、賢者だから腕試しとかで、第三層に?」
首をかしげながら言うビレッドの言葉から、新しい情報を仕入れてクラクラする。
日本人は貴族に囲われる、日本人は賢者、賢者は腕試しで第三層に下りることがある。
この世界に渡ってくるときに、世界の真理を得るから、知識を持つ賢者という位置づけになるのもわかる……そうか、知識があるから貴族に囲われる、ってこと?
「いくら賢者でも、貴族が第三層になんかやらないだろう。本人に確認してはいなかったが……彼女は、こちらに来たばかりだったんじゃないかと思う」
レヴィの声が、重く沈む。
その通りです。
「でもそれなら、上に報告しないとまずかったんじゃ……」
「第三層だぞ。連絡手段なんてねぇよ」
戸惑うように言ったビレッドに、レヴィが吐き捨てるように返している。
……日本人って報告義務があるのか。
もしかして、知識を搾取するために? ゾッと背筋が寒くなった。
それなら、貴族に囲われているというのも理解できる。
もっと、詳しいことが聞きたいけれど、今更会話に加わると不審に思われるから我慢する。
とにかく、わたしは出自を知られてはいけないのだということは、はっきりとわかった。
ただ……レヴィには、アキが生きていることを伝えたいな。
生死もわからず探し続けさせるなんて、申し訳なさ過ぎる。
どうやってレヴィに生きていることを伝えるか思案しているうちに、森の際にある小屋にたどり着いた。
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